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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第二章:城塞都市クヴィスリング編
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15話:新たな依頼

〜前回までのあらすじ〜

数日の旅の末…アルス達は遂に当初の目的地であるクス伯爵領へと辿り着いた。

しかしそこで待っていたのは寂れた街並み、衛兵による討伐隊である自分達への荒い対応であった。

よくあること…と軽く流したアルスだったが、仲間の一人の言葉を受け、刷り込まれた自身の感覚に疑問を抱きながら領主であるクス伯爵の屋敷へと足を踏み入れた…。


※基本的に勇者アルス視点ですが、最後の方に屋敷の衛兵の視点が入ります。

砂漠に囲まれた乾燥地帯に()る領土…クス伯爵領(はくしゃくりょう)

(さび)れた街並みの中で一際(ひときわ)目立つ大きな屋敷(やしき)豪華(ごうか)な一室で…アルス達は遂に領主(りょうしゅ)であるクス伯爵と対面を果たしていた。


「ここまでの旅、実にご苦労…勇者一行の諸君(しょくん)


(きら)びやかな装飾(そうしょく)だらけの衣服を(まと)った面長(おもなが)の老人…クス伯爵は(たくわ)えた長い(ひげ)()でながら(ねぎら)いの言葉を掛けてきた。


「どうも…此方(こちら)の国王より預かりし書状(しょじょう)を届けに参りました」


伯爵は近くの衛兵(えいへい)経由(けいゆ)してアルスから書状を受け取った。

気のせいか…書状を舐め回すように見た後「チッ…」と舌打ちする音が聞こえた気がした。


「…して、報告があると聞いているが…?」

しばらくすると、伯爵はただでさえ細い目を更に細めてアルスに問い掛けてきた。


「はい…」

その疑問にアルスは順を追って説明した。


巡回中(じゅんかいちゅう)にヴァイゼン村やその付近で魔族の群れと遭遇(そうぐう)したこと、魔族と戦い全てを処理(しょり)出来たが村人は約一名を残し全滅(ぜんめつ)してしまったこと、それにより村が(ほろ)んでしまったこと…


───報告を終えると、クス伯爵は「ふむ…ご苦労じゃったな」と一言(ひとこと)言って豪勢(ごうせい)な椅子に()()り返った。


…しばしの沈黙(ちんもく)が流れた後、アルスは()()を切り出した。


「つきましては、魔族討伐の報酬(ほうしゅう)を頂きたく…」

「まぁ待て…そう話を急ぐな」


しかし…伯爵はケタケタと笑いながら此方の要求を制止(せいし)した。

その笑い声は…自分達を嘲笑(ちょうしょう)しているようにアルスには聞こえた。


()ず…その話は本当なのかね?証拠(しょうこ)はあるのか?」

そんなアルスの不快感を余所(よそ)に、伯爵はニヤニヤしながら話を続けた。


盗賊(とうぞく)に身を落とした()魔王討伐隊が見回りのフリをして村から略奪(りゃくだつ)したり、(あまつさ)え村人を殺し嘘の報告で報酬(ほうしゅう)を得ようとしたなんて事例もあるしのぅ…諸君(しょくん)らには悪いが…」

「…ウォルフ」


(けむ)()こうとしているんだろうがそうはいかない…伯爵が話し終わる前にアルスは隣にいたウォルフに声を掛けた。


「おぅ」

アルスの指示にウォルフは(うなず)き、背負っていた袋の中から()()()()を取り出した─────


「「なッ…!」」

瞬間、場が一気に騒然(そうぜん)と化した。







…それはヴァイゼン村で戦った魔族の長(シルク)の首だった。


「おぇ…ッ」

それを出した直後、衛兵の一人が口元を抑えた。

一応最低限の防腐処理(ぼうふしょり)(ほどこ)していたが、やはり腐敗(ふはい)が進んでいるようだ。


「魔族の群れを(ひき)いていた首領(しゅりょう)の首です…他の魔族の死体は現場に残してきたので、確認しに行けば分かるかと」

場に動揺が広がる中、話を進めると伯爵は「なるほどのぅ…よぉく分かった」と納得した様子を見せた。

…が、直後に「しかしだな…」と言葉を続けた。


「勇者よ…今ここの財政事情(ざいせいじじょう)は苦しいのだ…どうかここは銅貨10枚程で手を打ってくれんかね?我々を…民を助けると思って…」

「お言葉ですが…この屋敷や閣下(かっか)が身に付けておられる装飾を見るに、最低限度の報酬は支払えるのでは?」

余りに白々(しらじら)しい言葉にアルスは呆れながらも毅然(きぜん)とした態度で言葉を返した。


────すると、すぐ側から『ガタッ…』と音がした。


無礼者(ぶれいもの)!クス様の言葉を疑うか!」

見ると、衛兵の一人が剣を抜いてアルスに向けていた。


「…君は誰に物を(もう)してるのか分かっているのかね…?ワシはここの領主(りょうしゅ)ぞ…?」

伯爵もそれを制止せず、(ひたい)青筋(あおすじ)を浮き立たせて不機嫌(ふきげん)な声色を出した。


…場の空気が一気に重くなったように感じた。

どうやら()()()()的中(てきちゅう)したようだ。



「ちょ、ちょっと…!まずいんじゃない…?」

一触即発(いっしょくそくはつ)の状態に、隣にいたレヴィンは青ざめて助けを求めるように声を掛けてきた。


大剣の(つか)に手を掛けて構えるウォルフ…表情を変えずに様子を見守るフィルビーを尻目(しりめ)に、アルスは前に出て口を開いた。


挿絵(By みてみん)


「恐れながら閣下(かっか)…そのお言葉、そのまま返させて頂きます」

「なにぃ…?」

「魔族の討伐に対する報酬義務制度(ほうしゅうぎむせいど)()()()が定められたこと…意味はお分かりになりますよね?」

「…!」

「義務を果たせないのであれば…この件を()()()()()()へ報告させて頂きます」

「ぬぅ…」


恫喝(どうかつ)を物ともしないアルスの態度と言葉に、伯爵は顔から一筋(ひとすじ)の汗を流していた。


「クックックッ…」

「…?」

「ワシを(おど)すとは大した胆力(たんりょく)じゃないか…よろしい、望み通り魔族を倒した分の報酬をやろう…他の魔族の分も調査し確認し次第、渡そうじゃないか」

───どうやら要求は受け入れられそうだ。


安堵(あんど)して思わず溜息(ためいき)()らしたところ、「だが…代わりに頼みがある」と伯爵の言葉は続いた。


「…他所(よそ)の国へ(おもむ)き、君達の力を貸してやってほしいのだ」

「…!?」

その意外な話に、アルスは思わず仲間達と顔を見合わせた。

そんな此方の様子に構うことなく伯爵は話を続けた。


中央諸国(ちゅうおうしょこく)に位置する城塞都市(じょうさいとし)()()()()()()()が現在魔王軍に攻められてるようでな…今のところは防衛出来ているとのことじゃが、どうやら我が国に救援要請(きゅうえんようせい)が来たらしい」

「はぁ…」

「…で、どうやらたった今貴殿(きでん)らが届けた書状を見るに、国王陛下(こくおうへいか)は我が領より援軍(えんぐん)を出させるつもりらしい」


なるほど、それでさっき書状を確認した時に舌打ちしたのか…とアルスは得心(とくしん)した。


「しかしな…ワシとて魔族から()()を守らなくてはいかん…おいそれと兵を貸し出すわけにはいかぬ…そこで君達魔王討伐隊(まおうとうばつたい)の力を借りたい…その胆力を見るにどうやら相当な実力を有するようだしのぅ…いやはや、先程は試すような真似をしてすまんかった」

「…」

「…移動のための馬車も手配(てはい)しよう…どうかね?悪い条件ではないと思うが…」

「…!分かりました…その依頼、受けましょう」


今一(いまいち)()に落ちず逡巡(しゅんじゅん)していたが、不意に出された魅力的(みりょくてき)な提案を前にアルスは彼方(あちら)側の要求を()むことにした。

───馬車があれば、大幅な移動時間の短縮(たんしゅく)と費用の節約が出来る。


アルスの答えに伯爵は満足気に(うなず)くと、準備をするから明日の朝にこの屋敷を訪れるようにと命じてきた。

アルスはそれに一礼して、仲間達と共に屋敷を出て行った…。



――――――――――――――――――――――――



「…よろしかったので?あそこまで譲歩(じょうほ)して…」

事の次第を見守っていた衛兵は伯爵に苦言(くげん)(てい)した。


討伐隊(ごと)きに(おど)されて弱腰になるなんてクス伯爵らしくない…そんな衛兵の不満を無視するように伯爵は無言で証拠品(魔物の首)を見つめていた。


「この魔物…」

そして何かを思い出したように呟くと、突如(とつじょ)として「クックックッ…」と含み笑いをし…やがて他の衛兵を指差して命じた。


「すぐにヴァイゼン村まで調査隊を派遣(はけん)しろ…それから、()()をここに呼べ」

「はっ…」

「クックク…こりゃ面白くなってきたわい…」


伯爵は心底楽しそうに笑い、下卑(げび)た笑みを浮かべていた。


───その様子に衛兵はゾッとした…このお方は…またよからぬ事を(たくら)んでいる…と。

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三人称視点で語られるファンタジー小説、久しぶりに読んだ気がします。大抵は心理描写や書きやすさから主人公視点で語られることが多いのですが、それらを突破して表現できる文章力に感服します。 登場人物が会話の…
最新話まで読了しました! 物語全体に込められたテーマやキャラの心情描写も深くて、本当に引き込まれました。 でもやっぱり、どうしても一番語りたいのは── アルスが、私のタイプど真ん中すぎるってことです…
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