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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第一章:ヴァイゼン村編
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11話:初めての経験

今回は前回のアルスとウォルフが薪を囲って会話してた回と同時刻に進行していたレヴィン視点の話です。

『ピチャッ…』



「ひっ…つめたっ……」


 ────水面に(はだ)を付けた瞬間(しゅんかん)、その(つめ)たさにレヴィンは飛び上がりそうになる。

 ()(はい)るなんてそれまで(あたた)かい部屋で()ごしてきた貴族(きぞく)のレヴィンにとっては(はじ)めての経験(けいけん)だった。


「う…うぅ…」


 しかし、(いま)入っておかなければ次に身体(からだ)(よご)れを落とせるのは何時(いつ)になるか分からない。

 レヴィンは()(よじ)りながら、早く()れるよう(ねが)って川の冷たさに必死(ひっし)()えた。



「……大丈夫(だいじょうぶ)ですか?レヴィンさん」


 そうしている時にふと前から聞こえてきたのは、先程(さきほど)仲間になった少女(しょうじょ)────フィルビーの心配そうな声。

 自身の身を(あん)じる優しい声に、レヴィンは「大丈夫……」と言葉を返し顔を上げた。



挿絵(By みてみん)


「でっか……」

「……?どうしました?」

「あ、なんでもない!」


 ────目の前に広がった景色(けしき)に、思わず思ったことがそのまま口に出てしまった。


 なんとか誤魔化(ごまか)そうと、必死に視線(しせん)を動かして(ほか)話題(わだい)(つな)がりそうなものを探し出すレヴィン。

 ……そうしているうちにフィルビーが身に付けていた()()()に目が(とど)まる。


「あれ……?それ、額当(ひたいあ)て……?」

「あ、これはですね……神父様(しんぷさま)から(いただ)いた大切(たいせつ)(もの)で……なるべく手放(てばな)したくないんです」


 自然に口を()いて出た疑問(ぎもん)に、フィルビーは丁寧(ていねい)に答えて(いと)おしそうに額当てを()でた。

 彼女にとっては大切な人の形見(かたみ)といったところだろうか。


「いいなぁ……」

「……え?」

「あ、ごめん!(ちが)くて……」


 ……それは、()()()()()()()()()()という自身とは縁遠(えんどお)存在(そんざい)に対してぽつりと出た感想。

 しかし、言った直後に不謹慎(ふきんしん)だったかもしれないと(おも)(いた)り、レヴィンは(あわ)てて訂正(ていせい)しようと口を動かす。


「…え?」


 ────そんな彼女の(あたま)をフィルビーは(やさ)しく()でてきた。


「……苦労(くろう)されたんですね」

「な、なに(きゅう)に……」

「……聞こえてましたから、レヴィンさんの本心(ほんしん)

「ぇ…?」

(てき)(いと)に…(つか)まった時……」

「…ぁ」


 突然(とつぜん)事態(じたい)に少し困惑(こんわく)したレヴィンだったが……フィルビーから掛けられた言葉に、戦いの最中(さいちゅう)に自分が放った言葉が頭の中を()(めぐ)る。


 "魔法の制御(せいぎょ)すら出来ない……実戦(じっせん)では(ふる)えてばかり……"

 "同級生(クラスメイト)にも馬鹿(ばか)にされて……家族にも見捨(みす)てられて……"


「……ッ!!」

 状況(じょうきょう)が状況だったので(われ)(わす)れて口走(くちばし)った言葉だったがバッチリ聞かれていた。


「あ、あれは…忘れて頂戴(ちょうだい)!」

「大丈夫ですよ」

「え…?」


 繊細(センシティブ)部分(ぶぶん)を知られた()ずかしさから、顔を赤くしてフィルビーの手を(はら)距離(きょり)を取るレヴィン。


 ────そんな彼女に対し、フィルビーは慈愛(じあい)()ちた眼差(まなざ)しを向けて、優しく語り掛けてくる。


「レヴィンさんは行き場のなかった私を仲間(なかま)として受け入れてくれました……だから私も仲間として、レヴィンさんを見捨(みす)てるようなことは絶対(ぜったい)にしません……!」

「……!」


 そんな彼女の()()ぐな言葉を聞いて、レヴィンの中の()()(くず)れ……(なみだ)が落ちた。

 それが(はず)みとなって、心の(うち)(かく)していた本音(ほんね)がポロポロと(こぼ)れ出てしまう。


「……ずっと(つら)かったの……いつもいつも、最初(さいしょ)期待(きたい)されるのに……みんなすぐ、私から(はな)れていっちゃうの……!」


 生まれながら大きな魔力を持っていたレヴィン────そんな彼女を周囲は初めは天才だと()(はや)した……が、やがて魔力の制御(せいぎょ)が出来ないことを知るや、手のひらを返し周囲は彼女を(さげす)むようになった。


重圧(プレッシャー)が凄くて……誰にも相談(そうだん)出来なくて……辛かった……!」


 名家(めいけ)の生まれ(ゆえ)(まわ)りに弱みを見せることが出来ず、天才肌(てんさいはだ)の家族もレヴィンの(かか)える(なや)みを理解出来ず、やがて彼女は家でも学校でも孤立(こりつ)していき…… (つい)には家から追放(ついほう)されてしまった。


「でもアルスは……私の駄目(だめ)なところを見ても……見捨(みす)てないでくれたの……」


 絶望に打ちひしがれる彼女だったが……そんな時、出会った初めて親身(しんみ)()()ってくれた存在が()()()()()だったのだ。


 ────レヴィンの本音を聞いて、フィルビーは理解を(しめ)すようにゆっくりと(うなず)く。


「やっぱり……アルスさん、優しい人なんですね」

「……アルスだけじゃないよ」

「え?」

「フィルビーさんも……戦いが終わった後……私を()めてくれた」


 "ありがとうレヴィンさん!"

 "レヴィンさんのおかげで……私達助かりました!"


「私あの時……すごく(うれ)しかったの」


 本来(ほんらい)であれば、(あらし)を止められず仲間に迷惑(めいわく)を掛けてしまったレヴィンの所業(しょぎょう)()められてもおかしくないもの。

 しかしフィルビーは、レヴィンのことを(けっ)して否定(ひてい)せず……優しく受け入れてくれた。

 そのことがレヴィンには(たま)らなく(うれ)しかったのだ。


挿絵(By みてみん)


「だからその……ありがとう…フィルビーさん」

「レヴィンさん……」


 ────その気持ちを正直(しょうじき)(つた)えた時、フィルビーの目から流れ落ちたのは一筋(ひとすじ)(なみだ)


「えっ!?あのっ……ごめん……」

「違うんです……ちょっと、ビックリしてしまって……こちらこそ、ありがとうございます……レヴィンさん」


 その事に狼狽(うろた)えるレヴィンに、フィルビーは弁明(べんめい)しながら涙を(ぬぐ)いお礼を言った。

 そんな彼女に対し、レヴィンは()を決して「あのさ……」と話しかける。


「フィルビーさん……言ってたよね?()()()って()んでほしいって……私、そう呼んでもいいかな……?」


 躊躇(ためら)いがちに言った言葉にフィルビーが見せたのは、パァッとした明るい表情(ひょうじょう)────彼女の反応にレヴィンは内心安堵(あんど)した。


「あ!それなら私も()()()()って呼んでいいですか?」

「も、勿論(もちろん)……えっと、じゃあ……呼び合ってみる?」

「は、はい……では……」


 そして、二人は息をゆっくり()って……


「…フィル」

「…レヴィン」


 ────お(たが)いに名前を呼び合った。

 ……少しの間、見つめ合う二人。

 (わず)かな時間な(はず)なのに、レヴィンにはその瞬間が時が止まったように長いものに感じられた。



「もっと恥ずかしくなるかと思ってたけど……なんか不思議(ふしぎ)な気持ち……」

「私、実は(あこが)れていたんです……こういうの」


 同年代(どうねんだい)の女の子と名前で呼び合う……そんな初めての経験(けいけん)にレヴィンの気持ちは高揚(こうよう)していく。

 きっと、彼女も同じ気持ちなのだろう。



 ……それからも二人は色んなことを話し合い、笑い合った。


 家から()い出され、絶望(ぜつぼう)して入ることになった魔王討伐隊。

 ────いつの()にか、そこはレヴィンにとって大切な居場所(いばしょ)になっていた。

ここまでで第一章"ヴァイゼン村編"完です。

読んでくれた方ありがとうございました。

次回、4月11日(金)より第二章の更新を開始します。

更新頻度は週に一回になる予定です(ストック分すぐ消費してしまうのを防ぐためです、すみません…)

読んでくれる方、引き続きアルス達の冒険をお楽しみください!

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― 新着の感想 ―
XのRT企画より参りました。 勇者が魔王を討伐するお話、と言ってしまえばオーソドックスなお話ですが、世界観がしっかり作り込まれていて、ストーリー性のある仲間たちとの出会い、モンスターや魔族との戦いにも…
余計な文章がなくて読みやすいです! 話も面白いんですけど、なによりキャラクターの小さな行動ひとつひとつにちゃんと理由が用意されていて「なんで?」と思う部分がないからノンストレスで素晴らしいです。作者さ…
ヴァイゼン村編、お疲れ様でした 川に入る、ちょっと可愛すぎではありませんか。サービスショット多過ぎです。今後の度も期待してますw
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