楽屋
「おう、お疲れさん」
「あ、先輩!
収録、見にきてくれたんですね!
ありがとうございます!
いやあ、僕、トーク番組って初めてなんで緊張しちゃいましたよ!
あっ、今お茶淹れますね!」
「あ〜、かまへんかまへん
次の現場が近いから寄っただけや
でもまあ、見といて正解やったわ
今のうちにちゃんとダメ出ししとかんと、
お前の将来にも影響してくるかもわからん」
「えっ!?
ダメ出しって……僕、なんかやっちゃいましたか!?」
「うん、そりゃまあな……
お前の持ち芸の『ズボーン!ドボーン!』は、
たしかに初見のインパクトは強いんやけどな……
それだけで1時間のトーク番組を持たせるにはさすがに無理あるやろ
司会の人らも、お前をどう扱っていいのか困惑してたで」
「え、マジですか……
全然気がつきませんでした」
「あの空気で気づかんのは逆にすごいわ
お前、何聞かれても『ズボーン!』か『ドボーン!』しか答えへんから、
後半ずっと完全に無視されとったやんけ
見てるこっちが申し訳なくなるレベルやったぞ
……んでまあ、先輩らしくアドバイスしたろうかなと」
「是非お願いします!
僕はもっと上を目指してますから!」
「おう、その意気や
……んで、アドバイスちゅうても
そこまで大したことやないけどな、
とりあえず他のネタも考えなあかん
お前、一発屋のまま終わりたくないやろ?」
「それは……はい、もちろん!
でも他のネタですか……
う〜ん、すぐには思いつきませんね」
「そりゃそうやろ
世の中の芸人、みんなそれで頭悩ませとんのやからな
ひとつのネタだけで生き残れる業界とちゃうで
どんどん引き出しを広げていかなあかん」
「ズボンの裾を広げるみたいにですか?」
「なんやその例えは……
でも早速いい感じやん
とりあえず今のメモしとけ」
「はい!」
「そんでな……お前の持ち味はやっぱテンション芸や
せやさかい、『ボーン!』のレパートリー増やすっちゅうのはどうや?」
「え、どういうことですか……?」
「え、わからんか?
う〜ん、そうやなぁ
……たとえば、頭に巻く物といえばなんや?」
「頭に巻く……ハチマキですか?」
「ちゃうやろがい!!
そこは『リボーン!』で返さなあかんやろ!」
「あ、あ〜〜〜っ!!
そうきたか〜〜〜っ!!」
「直前に『ボーン!のレパートリー増やす』言うたやろ……
次行くぞ、次!
せやなぁ……じゃあ、洗剤を垂らして擦ると出てくるやつ!」
「泡!」
「『シャボーン!』で返せやぁぁ!!」
「シャボン……あっ!
そういう意味かぁぁ!!
わかりました! もう大丈夫です!」
「ホンマやろなぁ?
ええと次は……8月中旬にあるアレや」
「山の日!」
「お前は一体何を理解したんやぁぁ!?
そこは『オボーン(お盆)!』以外、無いやろがい!!」
「そっか、お盆かぁ!
惜しかったぁぁ!!」
「なんも惜しくないわ!!
……そんじゃこれで最後や!!
学校行ってる間にオカンが部屋の掃除して、
机の下に隠してた物が発見されました……はい、それは何!?」
「ホコリ!!」
「正解は『エロボーン(エロ本)!』でしたぁぁ!!
ここまで全部外したなぁ!?
逆にパーフェクトで感心するわ!!」
「恐縮です」
「褒めとらんわ!!
なんやねんお前!
せっかくネタ出し協力しとんのに……
もっと自分の武器を生かさんかい!!
『ボン』を絡めなあかんやろ!!」
「す、すみません……
僕アドリブ弱いみたいで……」
「そうみたいやなぁ
でも、それじゃこの業界で生き残れへんぞ
売れたいのなら、トーク力もしっかり上げなあかんで
……とりあえず今は『ボン』シリーズがもう思いつかへん
あとはお前自身が悩んで、新ネタを捻り出すんや」
「はい、ありがとうございました!
……あっ!!
ちょっと待ってください!
なんか良さげなネタ思いつきました!」
「ほう、随分早く降りてきたなぁ
まあええわ、発表してみい」
「Bonjour !
Bonsoir !
C’est bon !」
「流暢なフランス語!!」