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何時間経っただろうか。
記憶を辿りに一つ上の階のカラオケに行き、手当たり次第歌ったがもうへとへとだ。
しかも点数が60点台、70点台ばかり。ステータス上ではCだったはずだよな?
もしかしてCってそんなによくないのか?
じゃあダンスE+ってどんだけ酷いんだよ……。
辟易としていると、ポップアップ画面が現れた
『100/1000曲達成。ステータスポイントを1pt獲得しました』
ステータスポイント…?なんだそれ。
『ステータスptを振り分けることにより、能力を上げることができます。』
ステータスptを使用しますか?
▷はい
いいえ
能力をあげる、か。きっと歌唱とかダンスとかそういうことだよな?
とりあえずここは歌唱に振っておくか。いざという時にアメイジンググレイスで命乞いしなくちゃいけないもんな。
『歌唱にステータスポイントを1pt割り振りました。ステータスが変化しました』
ポポン、という音と共に青いステータス画面が現れる。
名前 クロサキ ユウ(18)
歌唱 C+
ラップ D+
ダンス E +
ビジュアル C−
センス D+
運 B−
スキル
・なし
おお、上がってる! CからC+になった!
100曲ごとに上がるんなら、アメイジンググレイスで命乞いどころか飯を食っていくこともできるかもな。
俄然やる気が出てきた。
CとC+でどれくらい違いがあるのか試してみよう。
曲は……そうだな。鏡張りの部屋で踊ったアイドルの曲にしよう。
歌いながら踊るっていうのも命乞いには必要かもしれないしな。
〜♪〜〜♪
『さぁ目を開けて』
そうワンフレーズを歌った瞬間、俺は驚きで目を見開いた。
すごい、さっきまでとは全然違う。
カラオケの画面に出ている音程バーが全然ズレないし、なにより力を入れなくても声がスッと出てくる。
踊りながら歌っても息切れしないし、なんだかとても楽しいぞ!
……相変わらずダンスは盆踊りだったが、歌は格段に上手くなった。
結果は94点。C+でこれって凄いんじゃないか?
Bになったらどうなってしまうんだろうか。
ワクワクと曲を入れたところで、スマホがピコンと音を立てた。
母さん:もう19時だけど何をしてるの?ご飯できてるわよ
……もうそんな時間なのか。
幸い、居住地はビルの最上階のようなのですぐに着くはずだ。ここらへんでやめておくか。
今日の成果は150曲。頑張れば1週間くらいで達成できそうだ。
それにしてもここ、本当にでかいな。こんなビルを所有しているなんてクロサキユウの母親は何者なのだろうか。
記憶にある限りは優しい母親のようだけれど、まさか裏でヤバいことに手を出したりしていないよな…?
そんな失礼なことを考えていると、エレベーターが最上階に着いたようだった。
「おかえり、ゆう。遅かったけど何をしていたの?」
エレベーターの前では母さんが心配そうに立っていた。
そういえば記憶を辿る限りでクロサキユウが18時以降に帰宅することはそうなかった。確かに心配になるよな。
「カラオケに行ってたんだ。歌の練習がしたくて」
正直にそう答える。誤魔化したところで監視カメラに映っているはずだから意味がないだろう。
「歌の練習……? そっか、サバイバルに出たいって言ってたもんね」
え、サバイバルに出たいって?俺が?
「確かに歌もダンスも上手くないと生き残れないもの。必死になるのも無理はないわ」
やっぱり生き残るには歌とダンスなのか? サバイバルって命乞いでなんとかするもんだったっけ?
「日本初のサバ番だからきっとみんなが注目するわ。お母さん、協力を惜しまないからね」
「……サババン?」
サババン……なんだか勢いがありそうな効果音だな。
ただなんのことか全くわからない。サババンってなんだ?
「サバイバルオーディション番組の略よ。テレビで放送されるアイドルの公開オーディション、でしょう?」
こ、これか! だからサバイバルだのアイドルだの言ってたのか。
「お母さん、毎日投票するから。頑張ってね」
「と、投票?」
サバイバルでアイドルで、オーディションで投票? クロサキユウになる前も、投票なんて選挙でしかしたことないけど……。
ダメだ、頭の中で単語が繋がらない。一体どういうことだ?
「視聴者投票でデビューメンバーが決まるんだから、するに決まってるじゃない」
視聴者投票で……?あぁ、そういえば女性アイドルで人気総選挙みたいなのあったな。それのデビュー版ってことか。
結構シビアな世界なんだな、アイドル。
百面相をする俺をみて母さんはふふ、と笑ってから思い出したかのように顔を顰めた。
「でも、悪編には気をつけてね? 毎日違うピンを頭につけるとか、どうにか工夫しないと」
「アクヘン…?」
アクヘンってなんだ?あくへん…悪く変わる、とか? いきなり反抗期みたいな感じか?
「あら、知らない? 悪魔の編集の略よ。編集で色々な場面を切り貼りして言ってもいないことを言ったように仕立て上げて放送するの」
「何それ怖い」
悪質すぎないか?まぁ確かにテレビらしいし視聴率は上がりそうだけど……。
「もう応募はしたのかしら?」
そう母さんに聞かれて思い出す。そういえば締め切り1週間前だったっけ。
「実はまだなんだ」
でもそうか、クロサキユウはアイドルになるためにサババンに出ようとしていたのか。
まぁアイドルになれなければ凄惨な死を迎えるなんて言われてるから俺に拒否権はないんだけど、元々のユウもそれを望んでいるのであれば本気でやらないとな。
「今からするよ」
うっかり忘れて凄惨な死確定だけは嫌だし。