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彼はこの世に生を受けたその瞬間、オギャアの一声と共に両親に指ハートをプレゼントしたそうだ。
初めて話した言葉は「自分、アイドルさせてもらいます」
まさに愛されるために生まれてきた存在だろう……。
ってこれ、なんだよ!
スマホを握りしめながら、ベッドの上で思わず頭を抱えてしまった。
でも仕方がないだろう。これ、ぜんぶ俺のことらしい。初耳だよ。捏造にも程がある。
ネット記事なんて信じてなかったけど今日で確信した。あれは火のないところに煙どころか海の中で火事を起こすタイプだ。
そもそも俺、そんなに目立つの好きじゃないのに……。
それでも俺はアイドルとしてデビューしなくてはいけない。
デビュー出来なければ、俺に待つのは死のみだから。
◇
しょうもない人生だった。
勉強ができるわけではなかったが大卒資格は欲しかったから三流の大学に進学。就職難でやっと就職できたと思えばそこはブラック企業。
サビ残ばかりさせられ、ボーナスもろくに出ない。そんな生活で恋人なんてできるわけもなく、ただ暗い部屋でゲームをするのみの生活だ。
ゲームは良い。努力すれば必ず報われるから。現実とは大違いだ。
そう、本当に大違い。
俺の人生なんだったんだろうな。
企画書を丸ごとパクられ、問い詰めたら逆上した相手に殺されるなんて、どこの火曜サスペンスだよ。
あぁ、走馬灯すらしょうもない。
遠のいていく意識の中で、ふとあることに気がついた。
よく考えたら俺、今まで本気で何かに取り組んできたことなかったんだな。
死ぬ瞬間になって今更、何かに本気になっておけばよかったと後悔の念が押し寄せた。
でももう遅いんだろうな。何も見えないし何も聞こえないし何も感じない。あぁ、一度だけ何かに本気になれたなら……。
……最期にそう考えたからだろうか。
気がつくと、俺は知らない少年になっていた。
どでかい鏡張りの部屋でポツンと1人、おそらく俺であろう人物が立っている。
そして目の前には謎のポップアップ。丸っこい字体でミッションと書かれている。
『レベルを上げてサバイバルに参加しよう!』
サバイバル? それにレベル上げってことは、もしかして……。
「流行りの異世界転生ってやつ?」
モンスターを倒して英雄になる的な、ラノベとか漫画とかでよくある?
……ん?下に小さく何かが書いてあるな。
「アイドルとしてデビューして凄惨な死から逃れよう?」
アイドルとしてデビュー?サバイバルなのに?そして……凄惨な死?
どういうことだよ!
レベル上げ、サバイバルときたら普通は冒険譚とかモンスター討伐だろ?
なんで俺だけアイドルなんだよ!!
そして凄惨な死って一体なんだよ!!!
ステータス
名前 クロサキ ユウ
レベル1
歌唱 C
ラップ D+
ダンス E +
ビジュアル C−
センス D+
運 B−
スキル
・なし
状態
・混乱