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王太子は、所望する。

ブラック執務室に務める王太子が、睡眠の質の改善を謀り

ついに禁断のアレに手を伸ばす!?



璃珠が後宮に戻ってから、5日

蒼劉は執務に追われる日々を過ごしていた。

今まで静かに牽制し合っていた西の国と隣国の緊張が(にわか)に高まったからだ。

我が国と、両国との関係は良好ではあるのだが

その2つが戦争を初めてしまうと、どうなるか分からない。

父である皇帝陛下から、

両国との友好を変わりなく保つように、

また隣国と西の国の戦争を回避するように

王太子である蒼劉 (みずか)らが中心となって動くように命を下された。

次期皇帝としての修行の一環なのだろう。

ただ、これによって蒼劉の執務の量は途端に跳ね上がった。


ズキズキズキ・・・

この所 (おさ)まっていた頭痛も復活している。

ため息をつきながら、目の前の書類の山を処理していた。


「旺耀、やってもやっても減らないぞ」

「うーん、それぞれの部署から同時進行で作成した書類が回って来ますからね。」

要するに単純計算で蒼劉の処理の6倍の速さで新たな仕事が舞い込んで来る。

「王太子宮もまだ文官が少ないですし」

「贅沢を言わずにもっと採用していればよかったな・・・」

「今更悔いても遅いですよ蒼劉様。はい、次の書類です」

がっくし・・・

蒼劉が執務机に突っ伏す。

そんな様子に旺耀が苦笑を落とす。

「落ち込んでいる場合ではないですよ。蒼劉様。

とりあえず、夕餉(ゆうげ)までは全力で走り切って下さい」

旺耀に追い立てられ、むくりと身を起こして執務に戻る。

ここで最低限の処理を終わらせないと、今度は睡眠時間を削らないといけなくなる。

それだけは何としても避けたかった。

睡眠をしっかり取ったら、数日前の頭が冴えている状態を取り戻せるはずだ。

蒼劉は一縷(いちる)の望みを抱いて書類仕事に(いそ)しんだ。


翌朝、重い気分で目覚める。

眠って頭が冴えるどころではない。

寝ている間も書類仕事をしている夢を見たせいで、

休んだ気が全くしない。

ノロノロと起き出して、蒼劉は気力を振り絞って

今日もまた同じく書類の山に立ち向かって行った。


午前の執務を終えたが、昼休憩もろくに取れない。

携帯食を片手でつまみながら、処理を進める。


更に午後の執務を進めていった。

そうして時間は進み・・

ズキズキズキ・・・・

頭痛がもう限界だった。

「旺耀、この(あと)の執務の効率を上げる為に、

半刻(いちじかん)だけ、休憩をとる」

「そうですね、このまま続けていても非効率かも知れません。かしこまりました」

「外の空気を吸ってくる」

「行ってらっしゃいませ」


東宮から外に出て、後宮の(はず)れのいつもの川辺に向かう。

そこにある大きな木の根元に腰を下ろし、

蒼劉は目を閉じてため息をついた。

ズキズキズキ

頭痛が(ひど)い。

昼寝でも出来ればいいのだが、

考える事が多すぎて眠れそうもなかった。



「・・・・蒼劉さま?」

高い声に呼ばれて、目を開く。

「なぜ、ここにいる?」

蒼劉は眉間に皺を寄せながら呟いた。

女官(にょかん)見習(みならい)のお仕着せを着た璃珠(リーシュ)がそこにいた。


「貴族館に飾るお花にひと工夫加えたくて、川辺のお花をつみに来たのです」

「そうか・・・」

「蒼劉様は、お疲れのようですね」

「ああ、執務が立て込んでいてな」

「それは・・・ご立派な方には皆頼ってしまいますからね」

「そんな大層な者ではないのだけどな・・・」

蒼劉が苦笑する。

「・・・休憩をお邪魔してしまっていますね。申し訳ありません」

そう言って頭を下げてから璃珠は立ち去ろうとする。

「いや、璃珠。・・・こっちへおいで」

「え?ですが、私は川向うへは・・・」

「一度こちら側に渡った事があるのだから、二度目も変わらぬよ」

「そうなのでしょうか」

璃珠は首を傾げる。

「そういう事にしておけ・・・おいで」

蒼劉は疲れた様子でそう言う。

少し更に外れに行った所に小さな橋がかかっている。

璃珠は一度そちらに回り込んでから川を超え

蒼劉の傍らに近寄った。


「蒼劉さま・・」

目を閉じて座っている蒼劉に声をかける。

蒼劉は無言で璃珠の腕を引いて胸元に抱き込んだ。

「璃珠も、今から休憩だ。昼寝をするぞ」

広い胸に抱えられて、もちろん嫌な気は全くしない。

ただ、仕事を途中で止めることになるのが心配で

一緒に来ていた姉さまを振り返った。

「・・・あれ?姉さま?」

そこにいたはずの姉さまがいない?!

「一緒にいた女官は先程 後宮の方に戻って行った・・ぞ・・・」

蒼劉はうつらうつらと し始めていた。

相当にお疲れのようだ。

身動きして眠るのを妨げてはいけない。

そう思って、璃珠は蒼劉の胸に頭を預けた。


温かいな・・・ぐぅすやすや



ふっと目が覚める。

見上げた先には葉をたくさんつけた木の枝が緩い風に揺れている。

胸の上には璃珠がうつ伏せに眠っている。

服の上からじんわりと伝わる子供体温が心地よかった。

短い時間であっても深く眠れた事で、頭痛は治まっている。

璃珠の頭を撫でる。柔らかい髪の感触が手に伝わった。

「ん・・・・」

璃珠が身動(じろ)ぎして、薄く目を開ける。

「起きたか・・・?」

蒼劉は胸の上の顔を覗き込む。

「蒼劉さま・・」

「璃珠、おかげで良い休息が取れた」

璃珠の頭を数回撫でてからムクリと起き上がる。

「戻らなくてはな」

「はい、蒼劉さまが少しはくつろげたなら良かったです」

璃珠は微笑んで蒼劉を見上げた。


川向うには、いつの間にか姉さまが戻って来ていた。

「姉さま、お仕事を抜けてしまって申し訳ありません」

姉さまがゆっくりと首を横に振った。


執務室に戻った蒼劉は、頭がスッキリとしている自分に気がついた。

「旺耀、これから集中してこれらの書類を一気に片付けるぞ!」

「仰せのままに」

旺耀も嬉しそうに微笑んだ。


それから目覚(めざま)しく効率が上がった蒼劉は

集中を切らすこと無く、3日で全ての工程を終えた。

手筈を整え、隣国と西の国に宛てた親書も書き終えた。


最後の書類にサインをして、筆を置く。

さすがにボロボロに疲れきっていた。

蒼劉は机に突っ伏した。

「終わった・・・・」

「お疲れ様でございました」

旺耀がいい笑顔で蒼劉を労う。


「・・・・・」

顔を伏せたまま、蒼劉がボソリと呟いた。

「今宵、寝所に璃珠を呼んでくれ・・・」

「・・・・・・」

旺耀がパチパチと、瞬きを繰り返す。

「誤解するな・・あの者と共に休むとよく眠れるのだ」

「・・・・」

「それに、起きた後の調子もすこぶる良くなる」

「・・・・・蒼劉様」

にっこり

「では、蒼劉様、きちんと後宮の作法に乗っ取って、今のご要望をもう一度、どうぞ」

旺耀がニヤニヤと蒼劉のご下命を待っている。

「く・・・今宵の(とぎ)に、璃珠を・・所望する」

「かしこまりました。のぼりを上げ、女官長に通達を出します」

「もう、好きにしてくれ・・・」


「母上ーー!蒼劉様が『今宵の伽に璃珠を所望する』と仰ったので奥の間の準備をお願いします!」

「まぁぁぁ!蒼劉様が『今宵の伽に璃珠を所望する』と仰ったのね!!直ぐに準備に入ります」

櫛奈が嬉しそうにパタパタと奥の間に入っていく。

「・・・・・」

突っ伏している蒼劉の背がピクリと揺れる。

旺耀が執務室を出て扉の外に控える侍従に声をかける。

「侍従!殿下が『今宵の伽に璃珠を所望する』と仰いました。直ぐに女官長にお伝えするように。はい、復唱!」

「・・・殿下が『今宵の伽に璃珠を所望する』・・と仰ったので直ぐに女官長に・・・お伝えします」

侍従は笑い出しそうなのを必死に堪えている。

執務机から移動した蒼劉が旺耀の肩をガシッと掴む。

「や・め・ろ!!」

真っ赤になった蒼劉が叫んだ。


王太子が夜伽を所望した事を示すのぼりが奥の殿(でん)に掲げられる。

後宮の者に王太子の意向をいち早く伝える為の目印だ。

王太子の住まう宮の門前に意を汲んだ女官長が駆けつけ

誰を指名するのかの指示を受ける。

「王太子殿下が『今宵の伽に璃珠を所望する』と仰いました。今宵、奥の殿に参じるように申し伝えて下さい」

「かしこまりました」


そうして指名された璃珠の(とぎ)支度(したく)に入るのだった。




後宮はもちろん、今日もざわ・・・ざわ・・・した。

侍従もちゃっかりリフレインしています☆

みんな、蒼劉のことが大好きです(笑)

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