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璃珠の薄っぺらく重い過去

※小説のタイトルを一部変更しました。


今回は、璃珠が自分の事を語ります。

夕餉の時間になって

ようやく璃珠(リーシュ)は寝台を出る事を許された。


蒼劉(そうりゅう)様と共にお召し上がりください」

櫛奈(くしな)に連れられて部屋を出る。

食事用の部屋があるようでそちらに通された。

「璃珠、起きられるようになったのか」

卓の上に豪華な食事が並び先に席に着いていた蒼劉が穏やかに笑った。

「はい、蒼劉さまと櫛奈さまのおかげです」

「まあ、今夜までは泊まっていけ、明日の朝からは後宮に戻って良いぞ」

「はい、ありがとうございます」

明日の朝には人員の手配や配置、通達事項の共有や指示系統の確認等など諸々の 後宮の警護の準備が整うからだ。



綺麗に盛り付けられた肉や野菜に 璃珠はご機嫌でありついた。

女官棟に戻ったらもう食べられない物ばかりなのでここぞとばかりに堪能した。


デザートまで食べ終えお茶を飲んでいる時に、蒼劉が話を切り出した。

「時に、璃珠は後宮に来る事になった時の事は覚えているのか?」

ビクリと璃珠の身体が揺れる。

「私は後宮から追い出されてしまうのですか?」

「何故そうなる。そんなことにはならないから安心してくれ」

「そうですか」

璃珠があきらかにほっとした顔をした。

「あの時は、屋敷のお庭に出ていました。そして突然、たくさんの人が押し寄せて来て・・・・一緒にいた大人は皆、殺されました」

部屋で控えている旺耀と櫛奈が目を伏せる。

幼子(おさなご)(かどわ)かされた現場に大人がいたとして当然だ。

邪魔者として まず真っ先にそちらから狙われるだろう。

「私は薬を嗅がされて眠らされ、気がついたら知らない建物に居て、知らない人から後宮で働くように言われました」

「それだと城の者がお前を(さら)ったと思ってしまいそうだな」

蒼劉が不本意そうに呟く。

璃珠は目を伏せてゆっくりと首を横に振る。

「誰が何の目的で私をここに連れて来たのかは分からないです。

でもここ後宮から逃げようとしたり役立たずで追い出されたりしたら、お前のせいで死んだ周囲の大人達のように、周りを巻き込んで殺される事になるぞと言われました」

だから、璃珠は 役に立つ事をことの他喜んで

迷惑をかける事を特別に嫌がる。

櫛奈が辛そうな顔をして璃珠を見ていた。

「屋敷」と言うからには、ある程度大きな家で、そしてある程度裕福な環境だったのだろう。

それなりの身分を持った子供なのかもしれない。

本来なら、後宮で一女官として下働きをする必要など無かったのかもしれない。

「前の屋敷に住んでいた時の事は覚えているか?」

「それが・・私は5歳より前の 自分についての記憶が、まるで切り取ったように無いのです」

蒼劉は何度か目を瞬いた。

「無いとは・・」

「分かりません。何も覚えていないのです。

と言っても赤子のように何も知らない訳では無くて、

自分の事だけが分からないのです。

私からして見れば、前に暮らしていたお屋敷にも、ある日突然居たのです。

でも周囲の人達は皆私の事を知っていて、私に何とかしてそれまでの事を思い出させようとしていました」

その時の様子を思い出すように少し上方に視線を向けた璃珠が答える。

「親はいなかったのか?」

「私の周りには常にたくさんの大人がいましたが、両親と呼べる人は居なかったように思います。大人達は皆私に丁寧に接していましたが、どちらかと言うと近付き過ぎないように遠慮をしていたように見えました」

思ったよりも奇妙な話に蒼劉は思考を巡らせる。

周りにいた複数の大人達は、付き従っていた者とも考えられる。

誰かが近付き過ぎずでも常に傍にいるのは、身分がある者ならば当然にある事だ。

5歳児の その前の記憶と言っても本来ならたかだか知れているはずだが

今のこの教養の高さからしても、並の子供とは違う点が多く

そこに彼女の正体を探る鍵は多そうだ。


「其方は(さら)われてここに来て不本意だったと思うが、帰りたいとは思わないのか?」

問われて璃珠は目を伏せる。

「分かりません。

私の認識する所では、前のお屋敷にも3(みつき)程しか居た実感がないのです。

たくさんあったはずの思い出も探ろうとした途端に思考が煙のように消えてしまって・・・」

「そうか」

5歳よりも前の記憶がない と言う事は、璃珠はここ数ヶ月の本当に僅かな期間しか自分として過ごした実感が無いと言う事だ。

(さら)われる前の生活に愛着を持つのは難しいだろう。


話を終えた璃珠が櫛奈と共に奥の()に戻って行った。

食事の()に残った蒼劉は旺耀に尋ねる。

「やはり、それなりの身分はありそうだな」

「はい、意外なのは記憶についての所ですが、多方(おおかた)は予想の範囲内でした」

蒼劉は頷いて、腕を組む。

「本人からはこれ以上聞き出すのは難しいな」

「容易には判明しないかとは思いますが、こちらでも調査は続けます」

「それで何か進捗は?」

旺耀は本日の午後も調査を進めていたはずだ。

彩伽(さいか)について改めて調べてみました。

遠方の国なので新しい情報がなかなか入って来ないですから、真新しい変化もあるかと思いまして」

「遠すぎて国交はほぼ無いからな、数代前に()した姫はいるが・・・・それで?」

「大きい所で言うと、半年前に王が代替わりしていますね」

「思ったよりも大きな事が起こっていたな。前王はそれほど長い在位ではなかったのではないか?前回の代替わりに覚えがある」

「そうですね、6年に満たなかったようです。」

「少し聞いただけでも、政情が混乱しているのがありありと分かるな」

蒼劉が眉をひそめる。

「それに璃珠の事が関連するかはまだ分かりませんが、その可能性も視野に更に探るつもりです」

「任せる」

「承りました」


王太子に近づく者は、何者なのか必ず調査はされるが

璃珠については、当初ここまで謎めいた背景があるとは2人も考えていなかった。


彼女は何者なのだろう。

話を聞いて、更に謎が深まった。

(o_ _)o…ムクリ

寝てばっかりだったけど、やっと璃珠が起き出しました。

ε-(´∀`; )ふぅ、やれやれ


お読みいただきありがとうございます☆

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