璃珠が眠っている間③
璃珠が後宮に来た経緯について、旺耀からの報告を聞きます。
※描写はないですが、残酷な事を示唆する記述があります。
蒼劉は執務室で旺耀からの報告を聞いていた。
「璃珠は三月前に後宮に入る前は、この国の者ではなかったようです」
少し驚いたが、納得する部分もある。
何故なら彼女の容姿にこの国の者にはない特徴が幾つかあるからだ。
例えばあの不思議な髪色。
黒銀の鉛のような、それで絹のような滑らかな艶の、何とも言えない不思議な美しさがある。
目の色も珍しい。
宝石のような陽の光の角度によって変わる不思議な色合いの青。
そして肌の色。
この国の者は薄い黄色をしているが、璃珠の場合は純白に少しの色味として薄い赤を混ぜたような色をしている。
それだけできっと周囲からはかなり浮いた存在だっただろう。
「あの外見からして、遠方の国 彩伽あたりかな」
「恐らく、ご推察の通りかと思われます」
旺耀が頷く。
「其方がそのように確証を持ったのは何故だ?」
旺耀が詳しく語りだす。
「璃珠は恐らく拐かされて国を離れています。
そして人買に売られ、その見目から後宮に入れられたようです」
蒼劉は意外でもなさそうに、顎を撫でる。
「・・・あまり良くない事だが有り得る話だ」
蒼劉が16歳の成人を迎えた際に、王太子の後宮である東宮を開くために、王城が広く女性の募集を行い、莫大な予算を投入していた。
後宮に入れた娘が出世すれば、紹介した者にもたくさんの褒賞が与えられる。
王太子の手がついて妃の1人となったり、ましてや正妃となった時には、その恩恵は市井の者にとっては計り知れない。
「はい、璃珠を後宮に連れて来た組織は表向きは働き手を斡旋する生業をしていましたが、裏ではかなり悪どい事をしていたようです」
「なるほどな、それが かの国にどう繋がる?」
「私が組織について調べ始めた時には、既にそこは解体されていおりました。どうやら1月ほど前に本拠地が襲撃されたようです」
「その襲撃が彩伽の手の者だったと言う事か?」
蒼劉の鋭い目が旺耀に向けられる。
「お察しの通りです・・・・
我が国内に他国の者が押し入り襲撃したとなると国家間の問題に発展しかねないので、もちろん表立ってその事実を示す物はありません。
ただ、現場に残された些細な痕跡と現場の処理に向かった軍の報告書に目を通すと使われた武器や殺害方法、拷問の手口などから、襲撃を行った者が我が国の者では無い事は如実に語られていました。そしてそれは彩伽を示唆する物でもありました。かの国に興味があった私だから気付けた事です」
「なるほど、お前の異国への偏った興味も役に立つ事があるのだな」
「ふふ、他国の情報は外交の強みになるので、かなりお役に立てるはずですけどね」
「暗殺や拷問にばかり目が行くのはどうかと思っていたが、今回は否定出来ぬな。手柄だな」
「お褒めいただき光栄です」
旺耀がニヤリと笑う。
「しかし、そうなって来ると、彩伽の思惑が気になるな」
「はい、幼女1人のために遠方から危険を犯してまで強行に出る必要があるとは言い難いです。かの国の王族や重鎮も動きを把握していない訳でもないでしょう」
「ただの幼子ではない、と言う事か・・・」
「はい、組織を壊滅させるほどの戦力を秘密裏に遠方の国に送り込む事が出来る立場の者と何らかの繋がりがあるのでしょう」
「後宮に入ったということも当然ながら把握しているだろうな・・・」
「襲撃者の目的が彼女に取って良きにしろ悪しきにしろ何らかの手段で近づこうとするでしょうね」
「全く厄介な・・・穏便に事が運ぶのを祈るばかりだな」
蒼劉は疲れた顔でため息をつく。
「そうですね、璃珠がなるべく平穏でいられるようには、したいですね」
旺耀も肩を竦める。
「璃珠の守りが必要だな」
「いっその事、妃として遇してはいかがです?」
旺耀の顔にからかいの色が浮かぶ。
「お前な・・・」
「経緯はどうあれ、後宮に入った女性なのですから、蒼劉様のものに違いないのですし。その方が守りやすいでしょう?」
「素性がはっきりしないうちに下手に動いてどうする。表向きは一女官でいてもらった方が、柔軟に対処出来る」
「はあ、蒼劉様に妃が出来るのはいつになる事やら」
「今はまだ決めずとも良い」
蒼劉はそっぽを向いて、そう呟いた。
「昨夜、奥の殿に灯りが点った事で、何やら城内が騒がしくなっておりますよ」
「誤解する者はさせておけ、その方が都合も良い」
「はいはい、しょうがない方ですねえ」
蒼劉は鼻でフンと息を吐く。
「しかし一晩でここまで良く調べたな」
旺耀の働きを素直に褒める。
「有能な側近を持てて、蒼劉様は幸せですね〜」
「引き続き頼む」
「承知致しました」
旺耀は今で言う軍オタ(ミリタリーマニア)です(๑•̀ㅁ•́ฅ