回復するには寝るのが1番なのです。
体調が悪いのでなかなか活躍出来ません、主人公(笑)
でも治るまで無理は禁物なのです。
元気になれば、大暴れします!
明けた翌朝、璃珠は目を覚ます。
窓からの日差しで昨夜より明るくなった視界に
昨夜目覚めた時と同じ 寝台の天井が目に入った。
やっぱり昨夜の事は夢ではなかったんだ・・・と、ぼんやりと思う。
ここは 女官棟の大部屋と何もかも違う。
蒼劉と名乗ったあの方は、かなり身分が高そうだ。
普通なら 自分などが近づいてはいけない方であろう。
それなのに、後宮内の貴族のように威張っていないし、とても優しい。
昨夜は頭を撫でられて、かなり安心して眠ったような気がする。
それにしてもここは城から見て何処ら辺になるのだろう。
女官棟からあまりにも遠いと、ちょっと困る。
朝の仕事に遅れると迷惑をかけてしまうのでそれだけは避けたかった。
カチャリと部屋のドアが開く。
目を開けている璃珠に気付いて昨夜の女性が近づいて来た。
「お嬢様、具合いはいかが?」
そう言っておでこに手を当てられる。
お嬢様と呼ばれて、なんだかくすぐったい。
「まだちょっとだけ熱いけれど、随分と回復されましたね」
ホッとした顔でそう言われた。
「あなたさまは・・・」
「私は蒼劉様の侍女をしている櫛奈といいます」
「櫛奈さま」
「昨日、蒼劉様があなたを抱えて戻った時は驚いたけど、無事で良かったわ」
「驚かせてしまって申し訳ございません。」
「良いのよ。蒼劉様の珍しい様子が昨夜からたくさん見られたから!」
そう言って、櫛奈が優しく微笑んだ。
「ところで、今は何時ですか?」
「4(よ)つ半のそろそろ朝餉のお時間ですよ」
「たいへんです!戻らなくては!朝のお仕事に遅れてしまいます!」
焦りながら布団から出ようとする身体を抑えられる。
「身体が元気になるまではお仕事もお休みですよ」
「え、でも!」
姉さまや見習達に自分の抜けた分の仕事を任せる事になって、迷惑をかけてしまう!
服を着替えようと女官服を探してキョロキョロしていると
「何を騒いでいる?」
不意に蒼劉の声が聞こえて来た。
「あ、蒼劉様・・・」
「璃珠、あまり櫛奈を困らせるな。・・・後が怖いぞ」
「蒼劉様、お嬢様に何をお言いですか?」
櫛奈がニコリと笑う。なんだか笑ってるのに怖い。
「なんでもない、なんでもない。璃珠は、朝餉は食べられそうか?」
そう言って頬に手をペタリと当てる。
「お腹、すきました」
「そうか、食べられそうだな」
「蒼劉様、まだお熱があるようなので朝餉はこちらに運びます」
「ああ、そうしてくれ。ではな璃珠、熱が下がるまでは じっとしているように」
そう言って、璃珠の髪を一房掴んでスルりと滑らせ、蒼劉は退室して行った。
「蒼劉様は、朝餉を終えられたら、そのまま執務に入られるでしょう」
「しつむ・・・」
「お仕事ですよ」
「そうなのですか」
どんなお仕事をされているのでしょう?
気になったが不躾な気がして口にはしなかった。
優しい侍女を使う事ができる身分で
上等な服をいつも着ていて、立ち居振る舞いも優雅だ。
きっと、ご立派なお仕事をされているに違いないわ。
「朝餉を取って来ますね」
そう言って、櫛奈は部屋から出て行った。
璃珠は身を起こす為に背中に入れて貰ったクッションに凭れて部屋を見渡す。
どんなご飯なのか、少し楽しみだ。
ここは蒼劉さまのお屋敷なのだろう。
とても立派で煌びやかで高級そうなものばかり置いてある。
自分の今の身分だと到底踏み入れる事が出来ないような部屋だ。
でも、出て行こうとすると ここの人達を困らせてしまうみたいだし・・・。
体調が回復するまでは、大人しく身を置かせて貰う事にした。
朝餉は身体に優しい物をと、お粥だった。
お粥はお粥でも、女官棟で食べた物とは比べ物にならないほど美味しい。
璃珠は目をキラキラさせながらパクパク食べた。
食べながら気になる事を聞いてみる。
「こちらは、後宮から遠い所ですか?」
「いいえ、ほど近い場所ですよ」
「そうなのですか、帰る時に困らなくて済みそうです」
璃珠はほっと胸を撫で下ろす。
「璃珠は後宮でどんなお仕事しているの?」
櫛奈からも興味深げに聞いてくる。
「お掃除やお洗濯を手伝ったり、あとは姉さまのお使いで色々な事をしています」
「たくさんする事があるのね、たいへんそうね」
「いいえ、皆さん親切で毎日楽しいです。それとたくさんお仕事してお役に立てるのが嬉しいです」
璃珠がニコニコと笑う。
「そう璃珠と働ける者は幸せね」
「櫛奈さまは、蒼劉さまと親しいのですか?」
「ふふ、親しいと言うのは烏滸がましいわね。ただ私は蒼劉様の乳母をしていたから、気安くする事を許していただいているね」
「では、蒼劉さまが赤さまの時からのお仲なのですね」
「ええ、お仕えして随分と長くなったね」
食べ終わると瞼が重くなって来て、目を擦る。
「今は休むのがお仕事ですよ」
櫛奈に優しく言われ、寝台に戻った。
次に目覚めた時も櫛奈がそばにいた。
顔や首にベッタリと髪の毛が貼り付いて気持ちが悪い。
「あらあら、たくさん汗をかいたわね」
そう言って汗を拭い着替えさせてくれる。
脱いだのも新しいのもとても肌触りが良い衣だ。
こんなに甲斐甲斐しくお世話されるのは久しぶりの事だ。
しばらく忘れていた故郷を思い出して目を閉じた。
水分を取ってまた横になる。
しばらく経って昼餉が運ばれて来る。
朝と同じ美味しいお粥で、璃珠は大いに喜んだ。
昼餉後もウトウトと眠りついた。
次回は璃珠の秘密に、ほんの少しだけ、触れます。