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陛下との語らい

「皇帝陛下、あの、どちらに向かっているのですか?」

宰相邸から辞して、後は自分が乗ってきた輿で後宮に帰るだけとなった時に

不意にこの男に、こちらの輿に連れ込まれたのだ。

拐った時のまま彼の腕は私の腹に回っていて

膝の上に座らされた状態になっている。

「どこって、城に向かっているぞ」

それは分かっていますけども!

「蒼劉さまの後宮まで連れて行ってくださるのですか?」

「それは無理だな、私はあそこには近寄れぬ」

やっぱり、そうですよね。

「では陛下のお(うち)に招待していただけるのでしょうか?」

「そうだな、お菓子をあげるから、うちにおいで」

何だか子供を(かどわ)かす変質者のお手本のような言葉で誘われた。

まぁ今のこの状況で断りようもないのだけれど・・・

「お菓子、嬉しいです。お招きありがとうございます」

お顔を見上げてそう答えた私に陛下の笑みを(たた)えた瞳が怪しげに光る。

「ふふ、少し話をしたかったのだ・・・其方と会うのは何年ぶりかな?」

ああ・・・やはり・・・・わかっていましたか

「・・・7年ぶり・・ぐらいですかねぇ」

私は陛下から目をそらして過去の記憶を呼び起こす。

「あの時も小さかったが、更に縮んだなぁ。異能はなんでも有りなのか?」

後ろから頭頂部をポスポスとされる。

前回会った時の事は私もよく覚えている。

彩伽で、新王(当時の)即位式前日だった。

「私の部屋で、ちょっとだけ腹を割って話をしようか」

「・・はい、お邪魔させていただきます」

お手柔らかにお願いします。


輿が城に着いて皇帝陛下の居室に通された。

部屋付きの侍女達が驚いたような顔をして私達を迎えている。

突然ごめんなさい、侍女の皆さん(汗)

普通、皇帝陛下ほどの身分の人は自分の個人的な空間に外から人を招く事は無い。

あるとしても、家族や余程親しい者になるだろう。

それを侍女達の誰も見た事がない幼女が、しかも皇帝に抱き上げられた形で訪れたりしたものだから、いくら普段は完璧な礼儀作法の彼女達でも動揺を隠す事が出来なかったようだ。

侍女の1人が口元で

「え?隠し子?」

と、思わず呟いてしまったのもいたしかたない。

それを読唇術が身についている私が目にしてしまったのも彼女の咎ではない・・・

お茶とお菓子を出すように陛下が指示を出している。

それを受けた侍女達がテキパキと場を整えた。


人払いを望んだ陛下の意を受けて侍女達が退室して行って2人きりになった。

何故か今も陛下の膝の上だ。

「陛下、私、1人で座れます」

遠回しに向かい側の椅子に座りたいと訴えてみるが

「ここで良い」

いや、貴方が良くても・・・

腹を割って話す体勢ではない気がします。

「あのでも・・・」

「君の異能の力が心地よくてな」

その言葉に引っ掛かりを覚えてお顔を見上げる。

「陛下、どこかお悪いのですか?」

「いや、少し疲れが溜まっているだけだよ」

陛下が穏やかに微笑んでいる。確かに問題はなさそうだ。

「それなら、良かったです」

でも疲れた人を癒すのは(やぶさ)かではない。

しょうがないので、大人しく膝に抱かれることにした。


「それで、彩伽の(とうと)き人が何故我が国の後宮にいるのだ?」

話が本題に移った。

「何故と言われましても、そこに私の意思はなかったです」

「ああ、人拐(ひとさら)いと人買いの仕業か、たちの悪いのもいるようだな。しかし其方は大人しく従わずとも逃れる事は出来たのではないか?」

陛下も後宮に入った者が真っ当な道筋で来た者だけではない事を知っているようだ。

「兄に王位を継いで貰うために邪魔にならないように、私は一切の記憶を封印していたのです。ここに来た当初はただの5歳の子供でした。それに私を拐って人買いに売った者と、ここに私を売った者の意思は一致していなかったのではないかと思っています。恐らく彩伽の者と思われる人拐いは私を娼館などに入れて貶めて二度と王族と名乗れないようにしたかったのだと思います」

彩伽の兄を推したい者達は、いくら王位を譲ると私が言ったとしてもその存在は目障りだったに違いない。

「なるほどな、くっ・・君のような娘がいる娼館には行ってみたかった。だが、そんな所に納まる器ではあるまい。人買いの目は確かだったようだな」

何でか陛下が悔しがっていて、その上人買いを褒めている。

娼館とか行くの?皇帝が?やめとけ

「ここへ来た経緯は本意ではなかったですが、今更彩伽に戻るつもりはないのです」

「其方のような才の者を我が国が得られるのは大変な利になるが・・・・彩伽の者は権力にこだわり、その目が曇っているようだな」

「異能を持つ者への特別視は彩伽の中で今も色濃く残っていますよ。私の兄さまなんてその筆頭でしたし、きっと即位した今でも私が王でいるべきだったと思っているでしょう」

「なるほど、今の王がそうならば周囲は其方が邪魔でしょうがなかっただろうな。それなのに消さずに拐わせるのは、また特別視の現れのように思える。(こじ)らせているな」

「私も兄さまも、権力など欲しくもないのですが、ままならないものですね」

彩伽での生活はとても愛しい日々だった。

でも兄さまがどれだけ望んでいたとしても、もはや私の居場所はない。

「其方の意思はわかった。彩伽が我が国を乗っ取るつもりじゃ無いのも、其方が戻るつもりが無いのも。・・・蒼劉の妃になるのか?」

そう言われて、私の頬がぽっと赤らむ

「はい」

私がそう答えると、陛下がため息をついた。

「はぁ、蒼劉は上手くやったな。7年前に私が先に君に目を付けたのに。当時君は妃に出来ぬ身分だったから諦めたのに」

私の頭を撫でつつ嘆く素振りを見せる。

「ご冗談を・・・」

「こうやって膝に乗せて居るだけで心地よいのに、これが閨事(ねやごと)になるとさぞや・・・」

「おい、エロおやじ」

私は異能の力で陛下の手をバチッと弾く。

「痛!はい、すみません。・・・きっと蒼劉は璃珠が本当はこんなに怖い事を知らないんだろうな」

全く、この好色一代男にも困ったものだ。

それに、私は怖くありません。

「私は蒼劉さまの内に溢れるお優しさに心をうたれました。あの方に一生を捧げると決めたんです」

「はぁ、王太子とか厄介な地位に生まれたというのに、よくもあの息子はあそこまで、真っ当に育ったものだ」

「皇后陛下と乳母の教育の賜物では?」

私は櫛奈の様子を思い出しながら陛下を見上げる。

「うむ、私の奥さんは素晴らしいからな」

途端に陛下の頬が緩む。

それからその場は皇后陛下との惚気(のろけ)話をひたすら聞かされる空間になった。

後宮に帰りたい。


ガチャリ

不意に扉が開いて、不機嫌な顔の蒼劉さまが現れた。

惚気(のろけ)話を中断されて(いや、もうじゅうぶんだけど)ちょっとムッとしている陛下が声をかける。

「なんだ?突然入って来て、無作法だな」

流石に(つら)の皮が厚い。開口一番に苦言とは

そう言われた蒼劉さまは納得がいかない顔を隠そうともしない。

そりゃ自分の後宮の女性が勝手に連れて行かれたら怒るよ。

礼儀も何もあったものじゃないでしょう。

「父上、璃珠を返して貰いに来ました」

「蒼劉さま」

ちゃんと来てくれて嬉しい。

自分の後宮の者とはいえ普通は女官が皇帝に連れて行かれたぐらいで王太子が自ら取り戻しに来たりはしない。

そりゃ私の立場はただの女官じゃないと、もう蒼劉さまには知られているけれど、相手は皇帝陛下だから少しばかり不安だった。

目の前で皇帝と王太子の喧嘩にもならないやり取りが繰り広げられる。

どさくさで陛下の後宮に入らないかと誘われるし。

さっき延々と皇后さまとの惚気を聞かされたばかりの同じ口で何を言うか。


「陛下、そろそろ息子をからかうのはやめて下さいな」

扉の方からたいへん美しい女性が部屋に入って来た。

見とれていると、私を抱いている陛下がソワソワと身動きしだした。

「おや、僕の奥さんが迎えに来てくれたよ」

先程陛下から散々聞かされた皇后陛下ご本人が登場した。

なるほど、これは確かに陛下じゃないけど自慢したくなるな。

そして美丈夫の陛下とこの皇后さまの間のお子である蒼劉さまが美しいのは当然の事だと納得した。

皇后さまは私を興味深く、でも親しげに見つめて来る。

「そちらが璃珠ですね、莉夫人からもお話を聞いていましたよ」

莉夫人が私をどのように言っていたのかは気になるけれど、皇后さまの様子を見るからに悪い伝わり方はしていないようだ。

その後、陛下と皇后さまは退室していった。

残ったのは私を抱き上げる蒼劉さまと宰相さまだ。

「璃珠、申し訳ございません」

一国の宰相が、(今の所は)ただの女官に頭をさげている。

宰相さまは本当に気にしになくていい、今日の陛下との会話は必要な事だったから。

「璃珠、君、隙が多いな」

ギクリ

蒼劉さまからズバリと言われたそれは、図星過ぎて言い逃れ出来ない。

昔から幼なじみの永秀(エイシュウ)からもよく言われていた。

チラリと彼の顔が浮かび、ツキリと胸が痛む。

抱き上げる蒼劉さまの胸に顔を寄せる。

「心配をかけてしまって、ごめんなさい」

「いや、悪いのは父上だ。まぁ大袈裟には心配はしていなかったけど、無事で良かった。璃珠を北の後宮に移動させるような事にならなくて、本当に」

「陛下は気に入った女性にはとにかく誘いをかけるのが信条だと仰っていました」

7年前にお会いした時に言われた言葉だ。

当時、12歳だった私に妃にならないかと持ちかけたのだ。

「あんなに母上の事が好きなのに、他の女性にも積極的なのだ。しかも全員が幸せだと口を揃えて言うのだから意味が分からない」

「どうにも憎めない方でらっしゃいますからね」

「おかげで私には兄弟姉妹がたくさんいる。同腹だけでも4人、異母は・・・今度数え直しておく」

「私には兄が1人きりなので羨ましいです」

「そんなに良い物でもないけれど、今後顔を合わす事もあるかもしれない。母上とも(まみ)えた事だし」

「お会い出来るのを楽しみにしていますね」


7年前に陛下の妃へと本人に打診された時は

もちろん冗談と受け取りその場の笑い話になった。

それはそうだ、王と皇帝は結婚できない。

あれは私の彩伽王としての即位式の前日の事だったのだから。


蒼劉さまに抱き上げられて移動する。

この夜は後宮に戻らず彼の居室の寝台で共に眠った。

少しお疲れ気味の蒼劉さまが癒されますように・・・

そう願いながら璃珠もすやすやと眠りについた。

お読みいただきありがとうございます。

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