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父の居城へ

「殿下!!璃珠が(さら)われました!!」

「え、またですか?」


王太子の執務室に通された衛兵が焦りながら報告する。

この衛兵は女官に扮して璃珠の護衛につけた者だ。

それに冷静に答えを返したのは旺耀だ。

「詳しく状況を説明せよ」

蒼劉が厳しい顔で指示を出す。

「はっ!私は璃珠の宰相邸訪問に際して護衛として付いておりました。事が起こったのはつい先程、宰相邸を出て輿まで歩く僅かな間に不意に横合いから拐われました。宰相様の目の前での堂々たるご犯行でした」

誘拐犯に敬語を使う衛兵に訝しげな目線を向けて

「それで犯人に心当たりはあるのか」

「はっ!見間違いようもありません!」

衛兵が冷や汗をダラダラとかきながらキッパリと答える。

「誰だ?」

「・・・・・・」

蒼劉が鋭く聞くと衛兵は何故か躊躇する。

相変わらず、汗が滝のように出ている。

「どうしました?早く答えなさい」

見かねた旺耀が問い詰める。

「・・・こ・・・皇帝陛下です!」

「・・・・!」

ガタリ!

一瞬の間の後、蒼劉が執務机の椅子から勢いよく立ち上がる。

「ああ、恐れていた事が・・・どうします?また捜索隊を組織しますか?」

旺耀が額を押さえた後、蒼劉に確認する。

「・・・いや、衛兵を連れて行っても使い物にならないだろう。私が行く」

璃珠や蒼劉と普段から接しているこの目の前の衛兵でさえも、心情的に蒼劉よりも皇帝を優先している。

無理もない、彼女らが属している軍は皇帝の直属の配下である。

命令系統を遵守しないといけない彼女らは、皇帝と王太子等の王族の意見が割れた時の判断については叩き込まれている事だろう。

直ぐにここに知らせに来てくれただけでも感謝しないといけない。

蒼劉は足早に執務室の出口に向かった。

「・・・母上に知らせを出してくれ」

すれ違いざまにこそりと旺耀に命じる。

旺耀は静かに頷いた。


既に日が落ちて、薄暗くなっている通路を早足で歩き

蒼劉は一人皇帝の居城に向かっていた。

璃珠は今日、宰相邸に訪れていた。

それを、父上はどこからか、恐らくは宰相だと思うが、聞いたのだろう。

璃珠が後宮の中にいたのならば、会いに来るのはルール違反だが、宰相邸で偶然のように会ったのならば誰にも咎められない。

興味を示す父上を宰相も止めることが出来なかったのだろう。

そう、会うだけならば問題はない。

会うだけならば・・・

だが、会わせないようにしていた。

璃珠を目にした父上が更に興味を持つ事になるのではないかと懸念があり、今まで情報を必要以上に伏せていた。

それが余計に興味を引かせる事に繋がったのかもしれない。

蒼劉は舌打ちしたい気分になった。

璃珠ほどに珍しい見目や稀有な才能を持つ者はまだ父上の後宮には居ない。

知ってしまえば強く求める気持ちが生まれるのは無理もない事かもしれない。

しかし・・

璃珠は私の後宮に属する者だ。

その上、お互いに名言はしていなかったが、彩伽(さいか)と話が()き次第、妃にすると決めていた唯一の女性だ。

見かけは幼いけれど、どうやら心は成人を迎えている立派な大人のようだ。

夜伽とは名ばかりのただ寄り添って眠るだけの関係であっても、その温もりを他の男に奪われるとなると、胸や腹の奥の辺りがモヤモヤとして、居てもたってもいられなくなる心地がする。

いくら父上が望んでも、彼女は譲る訳にはいかない。

蒼劉は歩く速度を速めて通路を抜けて行った。


皇帝の居城にさしかかろうとする所に1つの人影があった。

「王太子殿下・・・」

父の一の側近である宰相だ。

「宰相、来ていたのか」

「私が付いていながら、申し訳ございません」

宰相が静かに頭を下げる。

「よい、父がした事だ。自室に居るのか?」

宰相の謝罪を軽く受け流し現状を確認する。

「私もつい今しがたここに来たばかりでして・・・」

「では、直接踏み込んで確認する。行くぞ」

宰相の返事を待たず、居城の入口を開け、通路を進んだ。


ガチャリ

ノックもせずに、無言でドアを開けると、部屋の中には父と璃珠がいた。

卓の前に座り、そこにはお茶とお菓子が並べられている。

2人はただお茶を飲んでいるようだった。

1つおかしい所があるとすると、璃珠が父の膝の上に座っている事だ。

「なんだ?突然入って来て、無作法だな」

父が眉間に皺を寄せてこちらを睨んで来る。

いやいや、睨みたいのはこちらの方ですが!?

突然拐うのは無作法じゃ無いのですか!?

「父上、璃珠を返して貰いに来ました」

「蒼劉さま」

璃珠が助かったとばかりに頬を緩ませる。

「心が狭い男だな、お茶をするぐらい良いではないか」

父が少し拗ねたように言ってくる。

相変わらずとぼけた父親だ。

これでたいへんに力がある皇帝なのだから納得がいかない。

「お茶を飲みたいならばご自身の後宮でどうぞ、璃珠は僕の後宮の者です」

「いくら愛しいからと言って独占欲が強いと嫌われるぞ」

「は?何を言って」

「どうやら、無自覚のようだ・・・璃珠」

「え、はい?」

「朴念仁は育っても朴念仁のようだ。あんな男は見限って、こちらの後宮に来ないか?」

「え、ええ?」

「私の目の前でぬけぬけと・・・」

蒼劉が呆れて額を押さえた。


「陛下、そろそろ息子をからかうのはやめて下さいな」

母上の声が入口から聞こえて来た。

「おや、僕の奥さんが迎えに来てくれたよ」

途端に父が嬉しそうに破顔する。

一人称が僕になっている、歳が上の母上の前ではこの父はいつも少年のようになる。

「そんな笑顔でわたくしは騙されませんよ。また奔放な振舞いで周囲に迷惑をかけましたね」

母上が説教口調で父に話すのは、自分が子供の頃からよく見る光景だ。

「母上、助かりました」

「蒼劉、父親が迷惑をかけましたね。今後はしっかり手網を握っておきますから大丈夫ですよ」

「わあ、奥さんが僕の傍にずっといてくれるって事かぁ、それも悪くないね」

「そちらが璃珠ですね、莉夫人からもお話を聞いていましたよ」

父の言葉はまるっと無視して、母上が璃珠に穏やかに微笑む。

「・・・皇后陛下、お初にお目にかかります」

璃珠と母上は苦笑を交わしている。

璃珠が立ち上がって礼を取ろうとしたが、腹にガッチリとまわっている父の手がそれを阻んでいるからだ。

なんともイラっとして、咄嗟に父の膝から璃珠を抱き上げる。

「父上、いい加減に離して下さい」

「強引な奴め」

「こちらのセリフですよ、それは」

「お二人とも、男の勝手で女性を振り回すのではありませんよ」

抱き上げた璃珠を間に挟んで、言い合っていた私と父に母上から指摘が入る。

「璃珠、突然悪かったな。話も出来たし私は奥さんの部屋に行くよ」

そう言って、すっと席を立った父上はさっさと部屋を出て行ってしまった。

「しょうがない人ね、蒼劉、申し訳なかったわね。璃珠、今度お茶会をいたしましょう」

にこりと微笑んだ母上も優雅に部屋を出て行った。


「璃珠、申し訳ございません」

部屋で空気のようになっていた宰相が頭を下げている。

「宰相さま、お顔をお上げください。驚きましたけれど、皇帝陛下とお話が出来て良かったです」

「璃珠がそう仰るなら良かったです」

安心したように宰相の顔が緩んだ。


抱き上げている璃珠の後頭部をじっと見つめる。

拐われたり、拐われそうになったり、また拐われ・・・

「璃珠、君、隙が多いな」

ギクリッとしたように璃珠の身体が振動した。

こちらに顔を向けてにこりと微笑んだあと、頬に手を当て首を傾げる。

「不思議ですね。それ前にも言われた事があります。危なっかしくて目を離せないとも」

「その者の気持ちがよく分かるよ」


やれやれ、璃珠と関わり出してから、周囲が賑やかになった気がする。

あちこちに駆り出され、たくさんの人達から声をかけられ

毎日目まぐるしく、忙しい。


だけど、璃珠によりもたらされた そんな変化も

何だか悪くないと思うのだった。


次回は、拐われている間の皇帝と璃珠のやり取りを書く予定です。



お読みいただきありがとうございます。

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