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北の後宮

蒼劉(そうりゅう)、ようお越しになりました」

「母上、お召しにより参上いたしました」


蒼劉は皇帝陛下の後宮で開かれる皇后陛下主催のお茶会に来ていた。

ここは城内の者からは「北の後宮」と言われている。

そして皇后である蒼劉の実母は「北の方」と呼ばれていた。

皇后宮にある庭園に卓と椅子が出され、高価な茶器と色とりどりのお菓子が並べられている。

お茶会には5人の女性が来ていた。

蒼劉は12歳になるまでこの後宮で育った。

古巣とも言えるここで迎えてくれた人達は、やはりと言うか、馴染みのある顔ばかりだった。


「王太子殿下、本日はご一緒させていただき光栄でございます。何やら東の方から興味深いお話が聞こえて参りましてねぇ、是非とも本日は真相をお聞かせ願えればと」

麗景(れいけい)妃、息災のようですね。さて、私で分かる事でしたら良いのですが、精一杯お答えいたしますよ」

後宮入りの前から母の親友である麗景妃は蒼劉を幼い頃から可愛がってくれていた。

皆で席につき香り高いお茶とお菓子を堪能した後、同席した妃の1人が話を切り出した。

「それで?王太子殿下、先日ついに奥の殿に女性を招いたそうですね」

最初に口火を切ったのは柚葉(ゆずは)妃、こちらは櫛奈と同郷で同じ時に帝都に来た、要するに乳母(うば)の親友だ。

「ええ、仰る通りです」

蒼劉は素直に肯定した。

「ああ、ついにこんな日が来てしまったのね!殿下、知っていますか?今こちらの後宮では、王太子ロスを発症する令嬢や女官が後を絶たなくて、夜は皇帝陛下が昼は皇后陛下がお慰めする事に追われている現状なのですよ」

蒼劉が8歳の時に入宮してきた鳳花(ほうか)妃が大袈裟な様子で話す。

彼女は14歳でここに来た当初、蒼劉とは1番歳が近く姉のように接してくれた人だ。

「なんですかそれ・・」

言われた内容に蒼劉は戸惑う。

「ロス、それは喪失感から、何事にもやる気が持てなくなってしまう症状よ」

鳳花妃の説明に蒼劉はますます訳が分からなくなった。

「北の後宮の女性は、私の妃にはなりませんよね?それを喪失感とは・・・?何か勘違いなさっているのでは」

これに場を囲む妃達が苦笑する。

「いいえ、分かっているのよ。皆、分かってはいるの!だけど心情的にはいつまでも『皆の蒼劉様』でいて欲しかったのよ!貴方この北の後宮を12歳で出るまで皆にめちゃくちゃ可愛がられて、出てからも皆で貴方の事を気にして何かあると喜んだり悲しんだり・・こっちの後宮は全体的にそういう雰囲気なのよ。だから貴方と直接面識がない若い妃や女官も皆、貴方の動向は追っていたのよ」

鳳花が胸の前で拳を握って力説している。

取り繕っていた言葉が乱れ出した。

「・・・それは、皆に気にかけていただき、ありがたい事です」

蒼劉は引き気味に礼を告げる。

「それで、そんな貴方を独り占めしている女性はどこの馬の骨・・・いえ、どんな方なの?」

馬の骨とか言ってしまっているし・・・

今日の特攻隊長は鳳花妃らしい。

「どんな・・・ですか」

蒼劉は思案するように顎に手を当てる。

「そうよ、例えば見た目、どんな感じなの?」

卓を囲む皆の注目が集まる。

「見た目は、一言(ひとこと)で言うと、美しい、ですね」

そう言うと、皆の顔にからかいの色が混じる。

「あらあら、いきなり惚気(のろけ)を聞いてしまったわ」

「まぁ、あの王太子殿下が女性の美醜に着目されるなんて、お変わりになりました」

「要するに可愛くてしょうがないって事ですわね」

皆が口々にいいつのる。

「いえ、その私がどうこうと言うよりも誰の目にも美しく映ると思いますよ」

蒼劉が冷静に返すと、柚葉妃が興味深げに聞いてくる。

「どの様な容姿をされているの?」

「そうですね、髪の色は黒銀色でまるで真珠を溶かしたような艶で触るととてもサラサラと柔らかいです」

「感触を添えられると、何だかリアルだわ・・・」

鳳花妃が少し顔を赤らめる。

「目はくっきりと大きくて色は青ですが、見る角度によって光の反射が違うと言うか・・・そう、ちょうど麗景妃の胸元の宝石とよく似ています」

皆の視線が麗景妃に向かう。

「これは西の国で採れるサファイアという石よ、美しくて気に入っているの。これと同じ輝きの目?蒼劉様もロマンチストになられましたね」

注目を浴びても動じずに麗景妃が宝石の説明を付け加える。

「本当に、伝えるのにちょうど良かっただけなんですが・・・」

「黒銀の髪にサファイアの目・・・珍しいわね」

皇后(ははうえ)が興味深そうに呟く。

「そうですね、後は肌が白いです。とても」

蒼劉の大雑把な説明で皆の眉間に思案するようにシワがよる。

「・・・確かに今お聞きした要素だけでも美しい姿を想像出来ますわね」

柚葉妃が呟く。

「ああ、お会いしたいですわ!今度こちらに連れて来て下さいな!」

鳳花妃は相変わらずグイグイ来ている。

璃珠自身は、呼ばれたと聞けば喜びそうではあるけれど

ここに紛れ込ませるのは何となく避けた方が良い気がする。

「そのうちお目に映ることもありますよ」

にっこりと無難な返答をしておく。

「これはしばらくはお会い出来ないわね」

皇后(ははうえ)が諦観気味に呟く。

「何よ、蒼劉様のケチんぼ!」

鳳花が唇を尖らせる。

「外見の事はだいたい分かったわ、大事なのは性格よ。まぁ蒼劉様の事だから見かけだけで選んだ訳ではないでしょうけど・・・」

柚葉妃が面白がるように聞いてくる。

「性格ですか?ううむ、私もまだ完全に全てを把握した訳では無いですが、優しい(かた)だとは思いますよ」

「まぁ、蒼劉様は女性の1番に優しさを求める方なのですか?確かに皇帝の執務は大変な事も多いですし癒しは大事ですわ。でも優しいだけでは次期皇后は務まるのかしら?」

麗景妃が少し挑発的に聞いてくる。

「え?それはまた気の早い話ですが、・・もし立后したとしても大丈夫な気はします」

癒しはもちろんの事(物理的にも精神的にも)、彼女は王になる為の教育を受けてきたはずの生い立ちだ。

寧ろこちらから助言を求める事があるかもしれない。

「楽観的なのかしら?随分とあっさり太鼓判を押すのね」

麗景妃が訝しむ。

「まぁ追追分かると思いますよ」

「この含んだ物言いは何なのかしら?蒼劉様が大人になってしまって寂しい」

「ふふ、鳳花は複雑よね、貴方は時期によっては東に入っていたかも知れませんものね?」

ここにいる中で比較的若手の妃が鳳花をからかう。

「まぁ!私は陛下一筋ですわ。蒼劉様は弟みたいなものです」

「そういう事にしてさしあげますわ」

きゃいきゃいと楽しげな女性達に蒼劉は苦笑をもらす。

「何にしても早く妃として召し上げて、婚姻の義をしていただきたいですわ。後ろにはわたくし達の息子も控えておりますから」

麗景妃がにこやかにプレッシャーをかける。

「東の方に良い子がいたら、私の息子にも下げ渡して下さいませ」

柚葉妃が少し切実そうに言う。

「あら、良い子がいたら蒼劉様が放さないですわよ」

鳳花がしたり顔で指摘する。

「いえ、私は1人居てくれれば充分で・・・」

蒼劉がにこやかに言いさすと

「ふふ、蒼劉様も陛下の息子なのですから素質はありますわよ」

「そうですわ、今はこう仰っていますけど、陛下のお子ですしね」

「そんな(甲斐性なしな)子に育てた覚えはありませんよ!」

「自分専用の後宮を持ちながら何を仰っているんだか・・」

「・・・・・」

口々に言われ、更に最後は痛い所を突かれる。

「下げ渡しを望むようでしたら積極的に応じますよ」

蒼劉はにこやかに柚葉妃の要望に沿うことにした。


それからお茶会は佳境に近付いて行った。

「あ、そう言えば、貴方の寵愛を得た姫は妃宮の何番目の姫なの?」

皇后(ははうえ)が思い出したように聞いてきた。

妃宮の姫だと思っていたのか・・・・

「彼女は女官なので、今は宮を持っておりません」

蒼劉が答えると、皆が驚いたようだった。

「まぁ・・・・」

「女官でしたの?それはまた」

「やはり、血は争えないわね。なんて情熱的」

「・・・本当に義務感ではなく、望まれてと言うことね」

皇后(ははうえ)、麗景妃、柚葉妃、鳳花妃がそれぞれに零す。


「大事にして差し上げるんですよ」

「はい、母上・・」


お茶会がお開きになり、蒼劉が東宮に戻って行く。

それを出席した妃皆で見送った。

「鳳花、心の整理は出来そうですか?」

皇后が静かに問う。

「・・・皇后様、今宵は陛下にわたくしの宮へ忍んでお越しいただきたいです」

「陛下にお伝えしておきますよ。貴方は今宵でそのロスは終わりにしなさい」

「はい、お心遣いに感謝します」

鳳花の頬を一筋の涙が伝った。


お読みいただきありがとうございます。

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