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悪役姉さま③

結風(ゆいふぁ)はとにかく面白くなかった。

昼餉を取りに来た食堂で、視線は見習達が固まる一角を向いている。

そこには今日も楽しげに笑う璃珠の姿があった。


彼女がこの後宮で唯一、王太子に夜伽を望まれる存在である事は、この女官棟の公然の秘密となっている。

女官仲間では、あの麗しい容貌ならば歳が若すぎても有り()る事だと、ある者は好意的に、ある者は諦観(ていかん)気味に、そしてある者は同情的な視線を向け、受け入れられている。

このまま王太子の寵愛が続けば、女官見習という今の立ち位置のままでは無くなるだろう。

女官の中にはそれを見越してか、彼女に擦り寄る者も出始めている。

彼女の機嫌を損ねれば王太子の不興を買うとも囁かれている為、女官長をはじめ、多くの者が彼女の事を殊更大切に扱っていた。

・・・私からしてみたらあの娘の機嫌の損ね方を教えて欲しいぐらいなんだけど。


何故、あの子ばかりが良い思いをするかしら?

私はこんなにも不愉快な思いをしていると言うのに・・

結風はもんもんとした毎日を過ごしていた。


先日、璃珠が夜伽に呼ばれた夕方、貴族館の庭園で行き会った令嬢に、王太子が指名したのは女官見習の璃珠だとハッキリと告げた。

令嬢自身も気になっていたようで、突然声をかけた女官に初めは(いぶか)しげだったけれど、話し終えた時には労いの言葉を貰えた。

これで、私が動かなくても、懲らしめてくれるはず・・・

今は王太子の元で良い思いをしているあの娘も、今後は貴族から目をつけられて針のむしろのような心地になる。

そう思うと、奥の殿に灯る明かりも気にならなかった。


それから数日は何の変化もなかったが

ある日、貴族館の仕事から戻った璃珠が疲れ切った顔をしていた。

心配する見習仲間にも引きつった笑顔を返している。

結風は確信した。

自分が投げかけた一石がきちんと波紋を起こしたのだと。


にんまり・・・


下がる溜飲を抑えられない。

きっとこれからも矜恃の高い貴族から、たくさんの嫌がらせを受け続けるのだろう。

そして貴族館の者達が目をつけたのなら、妃宮にいる候補達にも話は伝わるだろう。

そうなると、権力を使った更に大きな苦しみを与えられるに違いない。

結風は自分の思い通りに事が進んでいる事に喜びを覚えた。


それから数日後、風邪を引いた同僚の代役として、妃宮で洗濯の下働きに駆り出された。

洗濯は体力が要る。布をたっぷりと使った貴族の衣服が水を含むととても重くなる。

商家の娘の私が何故こんな事を、とは思うけれど

ここで出世して行く為には必要な事だと、しょうがないので我慢している。

「あの女官見習、花凜様からの呼び出し これで3日連続ですわね」

不意に耳に入って来た女官見習の単語に勝手に耳が反応した。

花凜様?花凜様って妃候補筆頭ではないの?!

そうなのね、毎日呼び出しを受けているのね。

高位貴族のご令嬢なんて、我儘(わがまま)に違いないわ。

ふふふ、どんな嫌がらせを受けているのかしら!!

最高に気分が良くなり、その日の洗濯はとても(はかど)った。

その夜も夕餉で見かけた璃珠はやはり疲れきっている。

連日の花凜様からの嫌がらせが応えているようだ。

このまま璃珠は酷い目にあい続ければいいし

この事を王太子殿下にお伝えすれば、ご不興を買う花凜様も筆頭候補から降ろされる事になるかもしれない。

妃候補達は邪魔だけど身分が高くて手が出せないと思っていたけれど。

まさか璃珠に関連して1番の大物が釣れるなんて、これこそ一石二鳥と言うものだわ!

上手く行けば、2人ともこの後宮から居なくなる。

順調な状況にその日の夕餉は最高に美味しく感じた。


あの娘が虐められている所を垣間見られるかもしれない。

風邪が治りかけている同僚を言いくるめて休ませ妃宮に向かう。

今日も気持ちのいい陽気の洗濯日和だ。

妃宮最奥の花凜様がいる宮の窓が開けられていた。

近付くと中の会話が聞こえてくる。

「まぁ、璃珠!来ていただけて嬉しいですわ」

「花凜さま、おやつをお持ちしました」

ちょうど璃珠が呼び出しを受けていたようだ。

これから起こる事に期待して胸が高鳴る。

「さぁ璃珠、こちらに座って」

「あ、そちらは上座です。花凜さまがお座りください」

「そう・・・璃珠がそう仰るなら・・・。欄玉、お茶をお持ちして、茶葉を間違えないでね」

「分かっておりますよ、お嬢様」


・・・?

・・・会話だけだと歓迎しているようにも聞こえるわ。

もしかしてこの後出てくるお茶が酷い物なのかしら?

貴族から飲めと言われたらどんなにマズくても断れないものね。

「璃珠、こちらのお菓子とても美味しいのよ。先日お父様がお持ちくださいましたの。帝都で人気の洋菓子店パティスリー・ジャスミンの新作なのよ。一緒に食べましょう」

「本当に美味しいです!初めての味わいです。サクサクとした食感が面白いです」

「このお茶も飲んでみて下さいな」

「はい、わぁ良い香りですね!赤く透き通っていてとても綺麗です」

「綺麗なのは璃珠の瞳の方だと思いますが、そのお茶が気に入りましたか?」

「はい、とても」

「まぁ、ではお父様に言ってたくさんの取り寄せてもらうわ!」

「あ、いえ、そんな。私は今頂いたので充分です」

「そうですの?貴方がそう仰るなら。ではここにいらっしゃった際にまたお出しするので、その時はお飲みになってね」

「はい、私はお仕事中なのに、こんなに美味しいお茶とお菓子を頂いても良いのでしょうか?」

「璃珠、もちろんですわ!よろしいのです」

「分かりました。ありがとうございます!」

「あと、璃珠。こちらで寝泊まりするお話は考え直してくれました?」

「たいへんありがたいお話ですが、やはりご辞退させていただきたいです」

「そうなのね、貴方がそう仰るなら・・・」


・・・・・・。

何なの?これ?

(いじ)めるどころかめちゃくちゃ可愛いがってるじゃないの!

貴族から目を付けさせて居場所をなくしてやろうと思ったのに、むしろ花凜様が後ろ盾になって居心地が良くなってしまいそうではないの・・・・!!


ギリギリギリギリ

悔しさに奥歯を噛み締める。

なんでいつもいつも、この娘はいい思いばかり・・・!


このままでは、済まないんだから・・・

結風は洗濯の仕事を放り出して、妃宮から離れたのだった。

ここで一旦続きます。

キューピットのおかげで、璃珠と花凜は再会出来ました☆



お読みいただきありがとうございます。

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