乳母の望むこと
璃珠は薄らと目を覚ます。
蒼劉さまが優しく頭を撫でてくれている。
昨夜、たくさん泣いたせいで瞼がとても重い。
きっと、今の私の顔は、とても不細工だろうな・・
いたたまれなくて、目の前の蒼劉の胸に顔を埋める。
「璃珠、起きたのか?」
「・・・はい」
顔を上げられないまま答える。
それに応えるように蒼劉さまが背に手を添えてくれた。
「体調に問題はないか?」
「・・・はい・・瞼が重い以外は問題ありません」
「ああ、ふふ、櫛奈に冷やす物を持って来させよう」
少し笑った蒼劉さまはそう言って胸にひっつく私の好きにさせてくれた。
蒼劉さまに、記憶が戻った話をしたい。
昨夜までは上手く働かなかった頭も
悲しい記憶と向き合えるようになって、
やっと、まともに考えをまとめられるようになった。
「蒼劉さま、お願いがあります」
相変わらず胸に顔を埋めたままで話しかける。
「うん、なんだ?」
「今宵も私をお召しくださいませんか?」
「今日の・・・夜伽にという事?」
「はい、特にお嬢様や姉さまをお呼びする予定がなければ・・・」
「!!」
途端にビシリと蒼劉が固まった気がした。あれ?
「蒼劉さま・・・?」
「そんなものはない。そもそも・・・」
トントントン
「蒼劉様、入室してもよろしいでしょうか?」
蒼劉の発言を遮るように、櫛奈の声が聞こえる。
「あ・・ああ、櫛奈、入ってくれ」
一先ず櫛奈を呼ぶことを優先した蒼劉がドアの外に声をかけた。
ガチャと戸が開き、櫛奈の入室する気配がする。
蒼劉さまがムクリと起き上がっても
私は胸にへばりついたままだ。
「おやおや、まぁまぁまぁ」
櫛奈が何だかとても嬉しそうな様子で感嘆の声を上ている。
「櫛奈、璃珠の目が腫れているので、冷やす物を持って来てくれ」
「まぁ・・・分かりました。直ぐにお持ちします」
櫛奈の声が心配そうに沈んだ後、パタパタと部屋を出る音が聞こえた。
「璃珠、さきほどの話だが、私には・・・」
トントントン
「蒼劉さま、旺耀です」
またいいタイミングで声をかけられる。
「・・・旺耀か、こちらにいる時に声をかけるのは珍しいな」
「入ってもよろしいでしょうか?」
「入れ」
ガチャリと戸が開き、静かに足音が耳に入る。
「蒼劉様、璃珠が何やら手当てが必要な様子になっているとか」
んん?!旺耀さま、何か疑っている?
「ああ、昨夜は泣いてしまったので目を冷やす物を・・・」
あ・・・純粋培養の蒼劉さま、まっすぐだけど誤解を招く返答を・・・
「なんと、璃珠を泣かせるような、どんなご無体を?」
旺耀さまが少し不審げだ。そうなりますよねー
「・・・・何を言っている?」
誤解を解きたいけど、私は顔を隠すのに忙しい。
それにしても無理があるかな。
5歳の身体ではいくら頑張っても・・・・。
「さあ、氷嚢ですよ、璃珠」
そこに櫛奈が戻って来る。
「蒼劉様、離れ難いのは分かりますが、一旦璃珠をこちらに」
「わかった。・・・其方らまた私をからかっているな」
蒼劉さまが私を抱き上げて寝台から出る。
そうか、からかわれていたのかーー!
1度頭をポンポンとしてくれてから櫛奈にあずけられた。
でも櫛奈さまの言うとうり、離れ難い気持ち、私は感じるな・・・
蒼劉から離れて少しの寂しさを覚えながら櫛奈に目を冷やして貰う。
「私はいつも本気の本気、大真面目ですよ。蒼劉様」
「もちろん、わたくしも大真面目です」
2人が揃って真面目宣言してる。よく似た親子だなぁ
「まったく・・・旺耀、執務室で話を聞く。昨日の襲撃の件の報告だろう?」
「はい」
「ではな、璃珠。・・また今宵」
部屋の外に向かう足音が聞こえる。
「はい、蒼劉さま、また今宵」
私は氷嚢で顔を隠しながら返事をした。
「今宵も、お約束したのね?」
櫛奈に興味深そうに聞かれる。
「はい、私から申し出たのです」
「まぁそうなのね!璃珠、蒼劉様をよろしくお願いしますね」
櫛奈さま、嬉しそう。
「櫛奈さまは、私が蒼劉さまと親しくすると嬉しいのですか?」
ただ率直に思った事を聞いてみる。
そうすると、櫛奈の声が少しだけ真剣味を帯びた。
「ええ、とても」
氷嚢で瞼の重さもマシになったので冷やすのを止めて
櫛奈に視線をむける。
「蒼劉さまは璃珠と居ると本当に柔らかい空気をまとうのよ。貴方は知らないでしょうけれど普段は周囲に近寄り難い印象をお与えの様子だし、実際ご自身もそれでいいと思ってらっしゃるの」
「そうなのですか?」
私が接する蒼劉さまとだいぶ印象が違う。
「ええ、でも貴方にだけは違うのよ。・・・そのままでも良い王様にはなられたでしょうけれど、貴方が共にいるならば、民を慈しむとても素晴らしい王となられるでしょう」
櫛奈の望むことがわかった。
彼の為にも国の為にも、身分や年齢を度外視しても
王太子が拒絶しない私を伴侶に推したいのね・・・
私が蒼劉さまの妃に?
その未来を想像してみる。嫌な気持ちはまったくない。
・・・ふむ。
私は、彩伽に戻るつもりは、もはや無い。
それならばここで、これからの事を模索して行かなければならない。
今は1つの可能性に過ぎないけれど
もし蒼劉さまからも私がここに居る利点を見出して貰えるならば、とてもいいと思う。
昨夜の力強い抱擁と今朝の優しい温もりを思い出す。
櫛奈さまも望んでいるようだし
私が、蒼劉さまを求めてしまっても、良いのかしら・・
蒼劉、弁明できず。
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