璃珠が眠っている間①
璃珠が気を失っている間の太子殿下周辺の出来事です。
「旺耀、旺耀!」
「殿下、どうされました?」
珍しく動揺が含まれる主の声色に、側近の旺耀が扉を開けて出てくる。
「熱を出し、気を失っている。水に浸かって衣服が濡れている故着替えを」
「こちらの方はどなたですか?」
「・・・・後宮の女官見習だ」
「後宮の女官にお手を出されてお持ち帰りに?いくら何でも若すぎませんか?」
「いかがわしい目で見るな。そんな訳無かろう」
この国の王太子殿下、蒼劉がじろりと睨む。
「体調を崩されましたか」
「ああ、毎日長時間、水に浸かっていたからな」
「そんな大変な仕事が後宮に?」
「いや、どうやら教育担当の女官に酷い扱いを受けているようだ」
「ああ、なるほど。幼いとは言え、この麗しさですからねぇ」
「余計な事は言うな」
「否定しない蒼劉様も満更ではないようで・・・」
「旺耀・・・・(じろり)」
「はいはい、一先ず、衣と・・・あとは寝台ですね。すぐに準備します」
パタパタと部屋の奥に旺耀が急ぐと蒼劉も璃珠を抱え部屋に続く。
熱は高いが身体を冷やす訳にはいかない。
蒼劉は衣が濡れるのにも構わず璃珠を抱き込んで、己の体温で温めた。
「蒼劉様、女官見習の服はすぐに手配出来ないので、一先ずこちらの・・殿下が幼い時にお召になっていた衣をお持ちしました」
「ああ、それで良い」
「では殿下、お着替えをお願いしますね」
「私が着替えさせるのか?」
「殿下のお妃になるかもしれない方のお身体に私が触れる訳にはいきませんよ」
「・・・お前また私をからかっているな・・」
蒼劉は呆れて溜め息をつく。
「おや、バレましたか」
「まぁまぁ!蒼劉様!そのように濡れたままの幼子を抱えていつまでお話しされているのですか?」
「櫛奈、これは私が悪いのか?」
「さあ、お嬢様をお貸しくださいませ」
王太子の乳母を務めた後に侍女になった櫛奈の逞しい腕に璃珠が渡され、奥の部屋の更に奥にある扉を開けて寝台のある部屋に入って行く。
「蒼劉様もお召換えを」
「ああ」
旺耀に濡れた衣を預け、乾いた新しい衣を羽織る。
旺耀は廊下に控えた従僕に濡れた衣を渡してから蒼劉の着付けをし帯を結ぶ。
「医官と、女官長を呼ぶように」
「かしこまりました」
頭を下げて、官を呼びに部屋を出ていく。
蒼劉は溜め息を1つついた。
「蒼劉様、もう入っても大丈夫ですよ」
櫛奈から声がかかると蒼劉は奥の間に向かう。
「彼女の様子はどうだ?」
「随分とお熱が高うございますね」
「ああ、目を回していた」
「この髪とても不思議な色合いですね。肌も飛び抜けて白い。
・・・本当にお美しい幼子ですね。蒼劉様。
だからと言ってご無体をなさってはいけませんよ」
「・・・お前たち親子は本当に私をからかうのが好きだな」
じと、と蒼劉が睨むとカラカラと櫛奈から笑いがもれた。
医官が来て璃珠を診察する。
「ふむ、恐らくただの風邪でございますな。
お薬をお渡ししておきます。
暫くは安静になさればよろしいと存じます」
「蒼劉様、大したことなくて、良うございましたね」
「本当にそうですね母上、良かったですね殿下」
「・・・・そうだな」
「・・・大切な方のようですな、お大事になさってください」
誤解した医官が退室していく。
「女官長を執務室で待たせています」
「わかった」
蒼劉が執務室に入ると女官長が跪拝している。
「女官長」
「はい、お召により参上いたしました」
「奥の間で女官を1人預かる」
「!」
女官長が息を飲む。
後宮の東側に隣接している王太子の宮の「奥の間」に女性を入れるとは、所謂 夜伽(妃と閨を共にする)と言うことだ。
「ああ、誤解をするな。・・今既に奥の間にいる。
着いてこい」
「???かしこまりました」
蒼劉が奥の間に向かう。
旺耀が誘導し、事態が飲み込めていない女官長が入室する。
「寝台で寝ている女官だが・・」
「まあ、璃珠!」
「璃珠というのか。川に半身浸かった状態で長時間過ごし、川中で倒れた。
私が偶然居合わせなければ死んでいたやもしれぬぞ」
「ああ、なんて事でしょう」
「女官長、この者は何故このような目に?」
「・・・・わたくしの不徳の致すところ。監督不行届でした」
「ある程度把握はしていたようだな」
「はい、これ程大事になるとは思わず、対応が甘くなっておりました」
「この者は、北と東どちらの所属だ?」
「・・・東宮に属してございます」
「では、私の管轄だな。
医官から安静を言い渡された。
今の女官部屋にこの者を返すのは少し酷であろう?」
「過分なご配慮をいただき、感謝申し上げます」
「女官部屋に帰らぬ事で、この者が罰を受ける事がないように。
それとくだらぬ事をしようとする者には厳重に注意せよ」
「殿下のお手を煩わせてしまった罪は私も含め多大にございます。仰せに従い風紀を正します」
「分かったなら、良い。下がるように」
「かしこまりました」
櫛奈と旺耀 親子 は殿下への愛が大き過ぎて
いじり倒してしまうのです。
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