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救出

前話から少しだけ、時を戻した所からです。

蒼劉は璃珠が連れて行かれたと言う西の生け垣を越えて

そこから広大に広がる森の中に来ていた。

後宮にほど近い所は、ある程度手入れはされているが

獣避けの柵が建てられている向こうに人はほぼ立ち入らない。

年に数度、獣が増えすぎないように狩人が入るだけだ。

だからこそ、逃走者の痕跡が目を凝らすと処々(ところどころ)に見受けられた。

蒼劉はそれを辿って柵の向こうの森に入った。

旺耀が手配した捜索隊が後に続く。

手信号で指示を出し、3隊に別れ森を捜索していく。

襲撃者もそう遠くまでは逃げられていないだろう。

蒼劉は注意深く痕跡を追った。


間もなく日が暮れる。

暗くなってからの逃走は避けるはずだ。

視界が閉ざされる上にだからと言って火を使うと見つかるリスクが高いからだ。

森の中には狩人小屋が幾つかある。

この森に逃げ込んだのなら、そこで夜が明けるを待つのが無難な線だろう。

一女官見習(いちにょかんみならい)の為に王太子が捜索隊を組んでまで探しに来るとは襲撃者も思っていないはず。

その油断を頼りに森を突き進んだ。


しばらく進むと狩人小屋が見つかった。

案の定、襲撃者らしき者が見張りに立っていた。

後方の2人を捜索の別働隊へ伝令に向かわせ様子を伺った。

襲撃者は15人、そのうち逃走出来たのは3人のみ。

当初の予定ではそこまで削られるつもりはなかったはずだ。

山小屋で待機していた者がいたとしても、今この場所には大した人数はいないはず。

後ろに従う衛兵に手信号で攻撃準備の指示を出す。

蒼劉は剣をスラリと抜いて小屋に向かって駆け出した。


見張りの1人がこちらに気付き、声をあげる。

「見つかった!追っ手だ!」

小屋の脇と後方にいた者が剣を抜き応戦を試みる。

蒼劉は1人と切り結ぶ、少しは腕に覚えがあるようだ。

剣と剣がぶつかり火花が散る。

一旦2人の距離が開き、再度ぶつかる。

相手の剣が(かす)め、手の甲に赤い線が入る。

更に正面から斬りこんでくるのを、一歩後退しながら剣で受け流し、返す剣を相手の脇腹に叩き込んだ。

たまらず相手が後退しようとするのを追い込んで足蹴りを入れる。

体勢を崩しよろめいた所を衛兵に捕らえさせた。


「璃珠!」

蒼劉が小屋の中に入ると、涙で目を真っ赤にした璃珠が(うずくま)っていた。

「蒼劉さま!」

はっと顔を上げた璃珠がこちらに駆けて来る。

蒼劉は屈んで璃珠を迎える。

目の前で止まった璃珠が蒼劉の手をキュッと握り

不安に目を潤ませて口を開く。

「蒼劉さま、姉さまは!あの時戦っていた後宮の方々は無事ですか?!」

蒼劉はこの幼子(おさなご)が泣いていた理由を理解した。

心細くて泣いていたんじゃない、後宮の者たちを案じていたのだ。

自分の事よりも周囲を気にする優しさが痛ましく微笑ましい。

蒼劉は泣いた跡が残る頬に(なだ)めるように手を添える。

「無事だ。襲撃者は全員捕らえたぞ」

その返答に璃珠の顔が目に見えてホッと緩む。

「良かった・・・・」

大きな瞳からは次々と涙が零れる。

蒼劉はそれを手で拭いながら

「其方も、本当に無事で良かった・・・」

そう呟いて安堵の息をついた。


璃珠を抱き上げ小屋から出る。

捜索隊は戦いの喧騒から落ち着きを取り戻し

整然と全員が跪いていた。

「目標を救出した、これより帰還する!」

蒼劉が号令を出すと一斉に皆が動き隊列を組んでいく。

璃珠は蒼劉の腕の中でたくさんの衛兵に守られ帰路に着いた。



蒼劉さまに抱き上げられたまま、

東宮の執務室に連れられる。

部屋に入ると旺耀と櫛奈が待っていた。

「璃珠!無事で良かったわ!」

蒼劉の腕から下ろされた途端に櫛奈に抱きしめられた。

「櫛奈さま、ご心配をおかけしました」

櫛奈のたくましい腕が少し震えている気がする。

「いいのよ!貴方が無事だったのだから」

櫛奈は母性の塊のような人だな。

乳母をする様な女性は、皆そうなのだろか・・・

「璃珠、肝が冷えましたよ」

旺耀が安堵の顔で話しかける。

「旺耀さまも、お手間を取らせました」

捜索隊を手配してくれたと聞いている。

蒼劉さまが出るのも折り込み済みだったみたい。

主の無茶を許してフォローもする、出来る側近ね!

「さあ、璃珠。あちこち汚れているわ。湯浴みにしましょう」

確かに、床に転がされてだいぶ汚れてしまった。

奥の殿に備え付けの浴室に連れていって貰った。


「あの、後宮には戻らないのですか?」

不思議に思って聞いてみる。

「本来なら今日、璃珠には夜伽に来てもらう予定だったのよ。今回の事で蒼劉様もだいぶ肝が冷えたと思いますし、璃珠も温かい寝台で眠って欲しいし、とにかく、今夜はここに泊まって行きなさい」

確かに、蒼劉の腕の中で眠るのは温かい。

夜伽ね・・・5歳の身ではおママゴトのようだけど。

でも蒼劉さまがそれでいいのなら、

もう少しそのままで居させて貰おうかな。

「わかりました。助けていただいてお疲れでしょうし、蒼劉さまをお慰めしたいと思います」

慰めとは言っても、全力で眠るだけの簡単なお仕事です。

「まぁ、うふふ。お願いしますね」

櫛奈に丁寧に汚れを洗い流して貰った。


湯浴みを終えると、夕餉になった。

「食事は喉を通りそうか?」

蒼劉が心配気に尋ねる。

「はい、お腹がへりました」

「食欲があるようで良かった」


璃珠の顔がへにゃと崩れた。

拐われる前と後で璃珠の様子が変わったのを

案じていた3人は揃って胸を撫で下ろした。

お読みいただきありがとうございます。

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