闖入者からの届け物
璃珠の日常に変化が起こります。
午後、花凜さまの所におやつを持って行き
身体中を撫で回されるほどに歓迎された。
妃宮に住み込みの専属女官をして欲しいと再度勧誘されたが今回も丁重にお断りをした。
花凜の部屋を出た頃には日が傾き始めていた。
花凜の勢いに消耗した璃珠は付き添いの姉さまと共に
女官棟へ戻ろうと庭園をフラフラと歩いていた。
明日は5日に1度の休息日だ。
璃珠は明日1日何をしようかと考えを巡らせていた。
「姉さまは明日のお休みはなにをされるのですか?」
参考にしようと聞いてみる。
しかし、姉さまはゆっくりと首を振った。
「え、姉さまは明日お休みじゃないのですか?」
今度はこくこくと頷く。
「それでは姉さまはいつお休みを取られるのですか?」
ふるふると首を振る。
「そんな、お休みがないなんて、お身体を大事になさってくださいね。たまにはお休みを取る事も大切です」
姉さまは微笑みながら頷いた。
そんな風に会話(?)をしながら歩いていると
庭園をぐるりと囲むように植えられている木が、
ガサガサと音をたてた。
「え?」
不思議に思ってそちらを見た途端、木の影から
灰色一色に身を包んだ人達が次々と躍り出て来た。
こちらに向かって来る。
「璃珠!!!」
姉さまから大きな声で名を呼ばれた。
次の瞬間、灰色の集団(約15人)のうち1人に腕を捕まれ引きずられる。
「ひゅっ」
璃珠は危機感を覚え息が詰まった。
これはあの時と同じだ!
ある日突然 拐われて後宮に来る事になった時と・・・
「姉さま!!!」
恐怖に震えながら姉さまを大声で呼ぶ。
手を伸ばすが自分を抱えた者が飛びずさり届かない。
あちらからも手を伸ばしていた姉さまが、舌打ちして呼子の笛を吹いた。
ピリピリピリピリ
すると直ぐに後宮を守っている女性兵士達が集まり
襲撃者達と交戦を始める。
しかし璃珠を捉えた者はそこには加わらず遠ざかって行く。
璃珠は抵抗してバタバタと暴れるが子供の力ではビクともしない。
皆が戦っている庭園の光景が遠ざかっていく。
「姉さま、姉さまーーー!!」
璃珠の声は虚しく響くだけで
誰もこちらには来る事は出来なかった。
奥の殿にのぼりを掲げた直後の事だった。
「王太子殿下!後宮護衛団から緊急の伝令です」
侍従が、鎧に血糊を着けた衛兵を連れて入室してくる。
血で汚れた衛兵は遠慮をしてドアの前で跪く。
「何事ですか?」
只事ではない様子に旺耀が厳しい顔で問う。
「後宮に襲撃がありました、衛兵が交戦し、程なく制圧しましたが、その場に居合わせた女官見習が1名・・行方不明に・・・」
ガタリッ
蒼劉が立ち上がる。
「その女官見習とは」
「護衛のご指示をいただいていた璃珠殿でございます。・・申し訳ございません」
蒼劉の問いに衛兵が無念そうに答える。
「旺耀、急ぎ捜索隊の手配を」
「かしこまりました」
旺耀が早足に執務室を出て行く。
蒼劉は執務机から離れ、血濡れの衛兵に近づく。
「衛兵、襲撃者は何人いた?」
「全部で15名、うち12名は制圧、捕らえてあります」
「璃珠を連れて行ったのは3名ほどか、捕らえた者に尋問を開始しろ。私は璃珠を追う」
「殿下、危険です!おやめください!」
「私は其方達より強いぞ」
そう言って、剣を手に取った蒼劉は颯爽と走り去った。
璃珠は小屋の中で目を覚ます。
連れ去られる時に大声を出したり暴れたりと抵抗した為
当身を加えられ、そこからの記憶が無い。
手足を縛られ口に猿ぐつわを噛まされている。
目の届く範囲に人はいないようだった。
姉さまやあの時戦っていた者たちは皆無事だろうか。
自分を拐うのが目的だったのだろうか。
また自分は周りを巻き込み迷惑をかけたのだろうか。
縛られていて床に顔が着いたまま身動きが取れない。
瞳からは涙がこぼれ落ちる。
自分にはただ祈る事しか出来なかった。
ひとりグスグスと泣いていると
カタン
室内に乾いた木がぶつかるような音が響いた。
緊張で身体が強ばる。
程なくして視界に歩み寄る足が見えた。
「あ〜あ、なんて痛々しい姿に」
そう言って目の前にしゃがみこんで来る。
「うわっ、本当にちっさいな・・」
「??」
璃珠は警戒しながらもその人物に視線を向ける。
全身を黒い服で包んだ12歳ぐらいの少年だ。
「襲撃者達は予定より削られたみたいだな、外の見張りだけで小屋の中に意識が行ってねぇ」
くつくつと可笑しそうに笑いながらそう言って
腰から小刀を取り出すと猿ぐつわをブツリと切った。
「・・・あなたは?」
「ん?君の味方だよ」
そう言って手足を縛っていた縄も切って行く。
璃珠はムクリと起き上がって目の前の少年を見る。
「味方・・?」
「うん、俺は於莵。君からの預かり物を返しに来た」
「預かり物?」
ただ繰り返すだけの璃珠を於莵が一度じっとみてから
懐から水晶玉のような物を取り出し差し出す。
それは透明の球体で、中心部では色とりどりの光がゆらゆらともつれ合っている。
「君を狙う奴らが再び動き出したら返すようにって・・・」
璃珠は恐る恐るそれを手に取った。
「ご命令通り、確かにお渡ししましたよ」
於莵がそう言った途端、球体から眩い光が溢れ出した。
一度ぶわっと広がった光は璃珠の身体を包み込み
やがて身体に吸い込まれるように消えていった。
全ての光が流れた次の瞬間、まるで何事もなかったように
小屋の中の風景が戻った。
「今のは・・・あっ・・・」
突如、頭を揺さぶられたような目眩に襲われ膝を着く。
璃珠は前かがみに身体を倒し頭を抱えた。
そんな様子を、於莵はただ黙って見守っていた。
小屋内を沈黙が包む。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
しばらくして璃珠がゆっくりと起き上がる。
眼差しには強い光が現れていた。
「於莵・・・・」
璃珠が目の前の隠密を呼ぶ。
「うん・・・思い出したか?」
「ええ・・・全て」
璃珠は自分の過去を思い出した。
自ら封印していた記憶が戻りました。
ここから以降は璃珠目線の雰囲気が弱冠変わります☆
お読みいただきありがとうございます。




