皇帝からの問いと璃珠の出自
旺耀の敏腕側近ぶりが光る!
(ちょっと、口を滑らせ気味ですが)
その日、蒼劉は皇帝陛下の執務室に来ていた。
ここ数日係きりになっていた、隣国と西の国の調整の仕事について報告をする為だ。
こちらが迅速に動いた事により、事態が大きくなる前に収めることが出来た。
この結果には皇帝も満足したようで労いのお言葉を賜った。
「時に、先日初めてのぼりを掲げたそうだな」
夜伽の話だ、皇帝の目には好奇心がありありと現れている。
「父上・・・」
「其方、この1年 後宮には全く見向きもしなかったのに、とうとう観念したのか」
「観念・・・といいますか」
蒼劉は目を横に逸らせる。
「ん、何だ?観念でないなら・・・望んだと言う事か!どんな娘だ?」
「い・・いえ・・それは」
「ははは、若いな!初心な反応をしよって。旺耀、どのような娘なのだ?直答を許す」
もじもじしている蒼劉を早々に見限って皇帝が旺耀に目を向ける。
「はっ。たいへん見目が麗しく聡明でお優しい性格をした方でございます」
旺耀の言葉に皇帝の片眉が上がる。
「ほほう、そのような逸材が東にいたか。・・北に入れていればなぁ・・・・一目会ってみたいものだ」
「父上?」
皇帝が1度口にした言葉は重みを持つ。
蒼劉の眉間にシワが寄った。
「ははは、冗談だ。心配せずとも奪ったりはせぬ」
父 皇帝は39歳、未だに現役バリバリで、先日若い妾妃に赤子が生まれたばかりだ。
「いや、なに、北の皇后をはじめ、妃達がお前の相手に興味深々でな。ここ数日私の後宮の話題はそればかりなのだ」
お茶会に呼ばれたと思ったら、息子の事ばかり聞かれるそうだ。
「そう言えば母上から3日後のお茶会に呼ばれています」
「そうか、それは、覚悟しておくのだな」
父がニヤリと笑った。
皇帝の前を辞して、東宮に戻る道すがら
蒼劉は居心地の悪い思いをしていた。
方々から視線を感じるのだ。とても、にこやかな・・・
皇帝の周囲にいる者達は蒼劉を幼い頃から知っている。
恐らく、先程 父からも話題が出た件が関連しての事だろう。
「旺耀、早く戻るぞ」
「ふふ、皆 喜ばしいのですよ」
「・・・・・・」
そういや、旺耀達親子も、妙にはしゃぐし終始満面の笑みだった。
旺耀と櫛奈は相手が璃珠だと知っている。
伽の体裁は取っているが実際の所は、5歳児と唯すやすやと眠っただけだ。
皆はともかく、2人はそれほど喜ぶ事だろうか?と
不思議に思いながらも、早足で王城の本殿を抜けた。
王太子の執務室に到着してから蒼劉は本殿では口に出来なかった事に言及した。
「旺耀、念の為だが・・・」
「分かっております。護衛に陛下からの手出しにも警戒するように伝えておきます」
父皇帝は好色な所があり、北の後宮内をそれこそ縦横無尽に巡っている。
皇帝の手が着いた女性は数え切れない程いた。
少し興味を引かれたり好ましく思ったら直ぐに召されている。
今までは蒼劉の管轄である東の後宮にまで食指が及んだ事はなかったが・・・
「まさかとは思うがな、万が一の為だ」
「ええ、あの御方の行動力は凄まじいですから、念の為です」
2人で言い聞かすように用心を口にした。
「それで、彩伽について何か分かったか?」
「陛下からの急な呼び出しがなければ急ぎご報告しようとしていた所です」
「どうだったのだ?」
「結論から言いますと、かの国には異能を操る者が存在します」
「やはりな」
腕を組んだ蒼劉が椅子の背もたれにギシッと音をたてて背を預ける。
「とは言っても、市井の者に異能を持つ者はおらず、ある一族の系譜に連なる者だけに、数代に一人そう言った者が現れるとか・・・」
「では、璃珠はその一族の者なのだな。やはり出自の解明に繋がったか」
「・・・・・」
旺耀が沈黙しているのが気にかかって顔を見る。
心做しか少し青ざめて見える。
「・・・どうした?」
旺耀の珍しい反応に蒼劉が首を傾げた。
「・・・蒼劉様、璃珠を妃として女官見習から召し上げませんか?」
突然の申し出に蒼劉は目を瞬く。
いつものからかい交じりと違って旺耀は真剣そのものだ。
「・・・何故だ?彼女は子供だ。それに前も言ったが女官見習でいて貰った方がこちらも柔軟に対処出来ると・・」
「出自がはっきりしない内は、とも仰いました」
「確かに言ったが、出自とは?とある一族の者だと」
話の要点が見えず、蒼劉の眉間にシワが寄る。
「蒼劉様、彩伽で異能を持つ者が現れるのは唯一、王家の血筋の直系のみなのです」
旺耀は青ざめた顔に冷や汗を浮かべている。
確かに驚くべき事だが、旺耀がここまで動揺しているのが気になる。
「他国の姫、王女だったのか、それなら平民と共に女官をさせているのは良くないな」
「それだけではないのです」
「お前をそこまで動揺させる事実がまだあるのだな?」
旺耀がこくりと頷く。
「かの国では、数代に一人という異能の者が現れたら、何を差し置いても王位継承権が最優先となり、今まで例外なく皆が王として即位しています」
それには流石の蒼劉も少したじろいだ。
「つまり我が国は、彩伽の次期王を下働きとして使っていたのか」
「動揺する所はそこではありません!」
旺耀が執務机をバンと叩く。
その勢いに引き気味になりながら目で先を促すと
「かの国から返せと言われたら拒否出来ないではないですか!」
「それは、そうなるだろうな」
「何を呑気な、蒼劉様は璃珠を手放せるんですか?直ぐに妃として召し上げるべきです」
「いや、次期王を我が国の王太子と娶せる訳にはいかないだろう。どちらも自国を出られないのだから」
「でも、実際彼女はここにいて、我々はその事実をまだ知らない」
「今知ったけどな」
「明かされなければ、知らぬ事と同じですよ」
「それはそうだが」
旺耀が執務机に手をついてズイッと顔を寄せる。
「今ならまだ間に合います。妃として召し上げ、そして既成事実を作りましょう」
「其方は何を言っている?」
蒼劉がじとりと睨む。
「他にお嫁に行けない身体になって貰うのです。5歳児には少し酷ですが・・・お優しくしてあげてください」
旺耀がポッと頬を染める。
「待て待て、先走るな!止まれ!」
ソワソワしていた旺耀の動きがピタリと止まる。
このままだと既成事実に向けて旺耀と櫛奈がまっしぐらに準備を進めてしまいそうだ。
「今はまだ推測の域を出ていない。くれぐれも先走るな」
「え、え〜、では蒼劉様の婚姻の儀はお預けですか?」
旺耀が心底残念そうにする。
「お前な・・・今のが事実だとすると、下手な事をすると戦争になるぞ」
「そこは、蒼劉様の交渉力で何とかしてくれると信じています」
「博打を打つにも程があるぞ」
「我が主の実力はこの私が良く知っております故」
旺耀がにこりと笑う。
「それよりも心配なのは蒼劉様の結婚についてですよ」
旺耀がふぅっと悩ましげに息をもらす。
璃珠が王族だったり、王位継承者だった事よりも
蒼劉の相手となりうる者が居なくなる可能性に動揺していたのか・・・・
蒼劉は呆れてため息を吐く。
「とにかく、璃珠の異能を確認したいな」
「では、ちょうど蒼劉様には将軍にボコボコにされた時の青痣が派手についていますよね」
蒼劉の手首には大きな青痣が見える。
その他、肩や脇腹にも残っている。
「うぐ・・通常ならば、あと1晩では消えない痣だろう」
「では、蒼劉様、正式にご下命を・・」
旺耀がニヤニヤしながら跪く。
「・・・今宵の伽に璃珠を所望する」
「かしこまりました」
旺耀が頭を下げる。
「これを毎回言わす気かっ!?」
「え〜、大事なことです故」
「え〜、とか言うな!」
その後、間もなくして奥の殿にのぼりが掲げられた。
侍従「陛下は後宮の妃達を皆平等に愛するから妃同士仲が良いらしい」
衛兵「たくさんの女性を渡り歩いてて皇后陛下は怒らないのか?」
侍従「皇后様の事はきちんと立てているし、夜伽が頻繁でたいへんだったから他の女性に分担して貰って助かってるらしい」
衛兵「陛下マジ半端ない!」
侍従「国政も疎かにせず今の陛下になってから豊かになったしな」
衛兵「皆を幸せにする陛下凄い!」
皇帝陛下はバイタリティ溢れるお方なのです。
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