表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/33

夜伽

1日の仕事を終え、夕餉を取りに食堂に向かおうとした時に

璃珠は女官長から呼び出しを受けた。

心配そうに見送る(すず)に笑顔で手を振って1人で女官長の執務室に向かう。

そこで璃珠は衝撃の言葉を聞くのだった。


「璃珠、王太子殿下が今宵の(とぎ)にあなたを所望されました」

璃珠はポカンと女官長の顔を見つめる。

「私が言っている意味がわかるかい?」

そう問われて、璃珠は考える。

「今宵の伽・・・つまり夜伽(よとぎ)という事ですか?」

「そうだよ。よく知っていたね」

「先日、姉さま達に教えていただきました」

「ああ、なるほど・・・」

ここで働く女官達の大きな関心ごとなのだろう、

話題に上がるのも頷ける。

「何故、王太子殿下が私を指名されたのでしょう?」

「何故って、そりゃ、お前をお気に召したのでしょう」

璃珠は尚も不思議そうにしている。

・・もしや、蒼劉様が王太子だと気付いていない?

女官長は璃珠の様子から察する。

あの方が明かしていないのなら、こちらが勝手に話す訳にはいかない。

「まぁ、お召があったのだから、大人しく従いなさい。

全てご要望に通りにすれば、きっと悪いようにはなさらないから」

「はい、承知しました。女官長さま」



ざわ・・・ざわ・・・

奥の殿(でん)にのぼりが(かかげ)げられてから

後宮全体は、そわそわと落ち着かない様子になっていた。


(きさき)(きゅう)にいる 候補(こうほ)達は

「全員、いますわね・・・」

「この中に女官長に呼ばれた者はいないのね?」

「のぼりが掲げられてから時間も経ちましたし、さすがにこの後お声がかかる事はないですわよ」

「・・またですの?」

「どなたなのかしらね」

「・・・・・・」

妃候補達は、揃ってため息を()いた。


貴族館でも

「お嬢様方は妃宮に全員いらっしゃるそうだわ」

「ここ、貴族館にも欠員はいません」

「こうやってのぼりが掲げられているという事は、後宮の者である事は間違いないのですよね」

「やはり、女官なのね・・・」

「平民ごときが」

「前回の時は、女官棟全体に箝口令が敷かれたようよ」

「ええ、下働きの女官に確認したら、青ざめた様子で何も知らないと言っていたわね」

「・・・・・・」

令嬢達も、揃ってため息を吐いた。


女官棟

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

食堂で、一堂に会した女官達は皆青ざめている。

視線は見習達が座る一角。

璃珠がいない・・・・


(すず)、璃珠はどうしたの?」

見習達の所に寄っていった1人の女官が尋ねる。

「夕餉に向かおうとした時に、女官長からお呼び出しがあり、そちらに向かいました。」

「「「!!!!」」」

しんと食堂が静まりかえる。

「???」

(ただ)ならぬ雰囲気に(すず)が目を瞬く。


「準備に手が要る可能性もあるし、女官長の所に行ってくるわ」

「ええ、私も行くわ」

数人が食堂から出ていった。



女官の瑠矮(るい)美玲(みれい)湖鈴(こりん)が女官長の執務室を訪ねた。

「ああ、よく来たね。今、誰かを呼ぼうと思っていたのよ。

璃珠の支度を手伝っておくれ」

璃珠は部屋の中できょとんとしている。

「よく理解していないのね、無理もないわ、5歳だもの」

美玲が弱冠の哀れみをたたえて呟く。

「璃珠、今日は私達があなたの湯浴みをお手伝いするわね」

瑠矮が屈んで視線を合わせて、これからする事を伝える。

「姉さま達が湯浴みをさせてくれるのですか?

ありがとうございます。よろしくお願いします」

璃珠が無邪気に笑った。

嬉しそうな璃珠に3人は複雑に笑みを返す。

「さあ、こちらよ」

湖鈴が湯殿に続く扉を開ける。

女官長の部屋の隣には伽に呼ばれた者の準備室がある。

3人がかりで髪や身体をワシワシと洗われる。

時々「こんな小さな身体で・・・」とか

「ご無体をなさらないと良いのだけど・・・」等ボソリと漏れる。

湯浴みを終えて丁寧に水分を(ぬぐ)われる。

「璃珠の髪は本当に綺麗で手触りがいいわね」

美玲が感心しながら髪を乾かしている。

「衣装を持ってきたわ。・・・準備室にちゃんと子供サイズまで用意があるなんて・・・まったく」

瑠矮が複雑そうな表情でぶつぶつ言いながら服を着させてくれる。

豪華な衣装に驚いていると

「夜伽で王太子殿下にお会いするのに仕事着で行くわけには行かないでしょ。きちんと身なりを整えないと」

湖鈴が言い聞かせるように話していた。

それはそうか・・・高貴な方にお会いするのだから少しでもみすぼらしくないようにしなくては・・・

そう璃珠は納得した。

髪が複雑に結われていく。

「化粧は必要ないわね。桃色の頬に真っ赤な唇、白い肌。はぁ羨ましいわ」

美玲が悩ましげに微笑んだ。


「準備が整いました」

湖鈴が執務室に声をかける。

女官長がこちらに来て微笑んだ。

「璃珠、綺麗にして貰ったね。

では、これより東宮に向かいます。あなた達も共を」

「「「かしこまりました」」」


輿(こし)に乗るように言われ、(すだれ)を下ろされて周囲が見えなくなる。


王太子殿下って、どちらにいらっしゃるのだろう?

東宮と(おっしゃ)っていたけれど・・・


ゆっくりと移動する振動が止まった。

(すだれ)が上げられ、輿(こし)から降ろされた。

大きな扉の前だ、ここが東宮の入り口かな?

女官長が手持ちのベルを軽く揺らすのをぼうっと見ていると、中から扉が開かれた。

「どうぞ、王太子殿下がお待ちです」

侍従が璃珠を招き入れ、扉の外の女官長達に礼をする。

彼女達も礼を返しているのを見ていると扉が閉められた。

ここからは、この方に着いていけばいいのかな?

「こちらです」

そう思っていると、声をかけられた。

先を歩いて誘導され、通路を進み、部屋に通されると

そこは見覚えのある部屋だった。


「璃珠、よく来たな」

部屋にいたのは、苦笑ぎみの蒼劉だ。


「ああ、綺麗にして貰ったな、よく似合っている」

「蒼劉さま?・・・あれ、私王太子殿下に呼ばれて・・」


璃珠は軽く混乱した。



ビシリと固まった璃珠を見て申し訳ない気持ちになる。

5歳の子供を困惑させてしまった。

「璃珠、突然悪かったな。それにどうやらすっかり名乗りを忘れてしまっていた」

「名乗り?・・蒼劉さまですよね?」

璃珠が更に不思議そうに首を傾げる。

「うむ、確かに名は蒼劉だ。それに加えて私は父 皇帝から王太子と言う役割を(たまわ)っている」

「!」

蒼劉さまが王太子殿下。

高貴な方なのだろうと思っていたけど、王子さまだったのか!

璃珠は納得して、ポンっと手を打った。


「あ、納得したみたいですね」

蒼劉の横から、声をかけられる。

見上げると、目が合った。

すると、見上げなくても良いように璃珠の前に跪いて話しかけてくれた。

「私は旺耀(おうよう)といいます。王太子殿下の側近で乳兄弟に当たります、侍女の櫛奈(くしな)は私の母です」

「そうだったのですか」

「今日は蒼劉様の急なお呼び出しに応じて下さりありがとうございます」

旺耀がにっこりと良い笑顔で言った。

「旺耀、お前が大袈裟にするから、璃珠が混乱したんだろう」

「大袈裟にと仰いますが、これが後宮の普通ですよ」

呆れ気味の蒼劉に余裕しゃくしゃくの旺耀が答えている。

「まったく・・・璃珠、悪かったな。食事にしよう」


食事の間に通されて美味しい料理に舌鼓をうつ。

「蒼劉さまはお仕事お忙しそうでしたが、落ち着かれたのですか?」

「今日、やっと一段落着いた所だ」

「そうだったのですか」

よく見れば今の蒼劉は少しヨレヨレしている。

「お疲れが溜まっているのではないですか?」

「そうなのだ。ここ3日はほとんど寝ていない」

蒼劉が苦笑する。

「そんな時に私がお邪魔して良かったのですか?」

璃珠が心配になってそう言うと

「いや、逆に、だからお前を呼んだのだ」

と、返された。

璃珠は思考する。

お疲れ→夜伽→璃珠

・・・はっ!そういう事か!

「なるほど、お疲れの蒼劉さまをお慰めするのが、夜伽というものなのですね!」

蒼劉の肩がビクリと震える。

部屋に控えている旺耀は口を押さえて横を向いた。

「ま・・・まぁな、璃珠と一緒だとよく眠れるのだ」

「そうでしたか!お役に立てるのなら嬉しいです!」


食事を終えて、奥の間に移動する。

先に腰掛けた蒼劉に、寝台に抱き上げて貰う。

「そのままでは、寝にくいだろう」

そう言って複雑に結われた髪を解いて貰った。

「ああ・・・疲れた」

ドサッと蒼劉が寝台に横になる。

「お疲れ様でした。蒼劉さま」

「ん、おいで璃珠・・」

蒼劉の胸に抱き込まれる。

されるがまま顔を寄せていると

直ぐに、璃珠の耳に寝息が聞こえて来た。


お疲れの蒼劉さまを

少しでもお慰め出来ますように・・ぐぅすやすや

璃珠はとても寝付きがいいです。

蒼劉は普段はそんな事ないのですが疲れている時に璃珠の子供体温に触れると効果覿面(てきめん)に寝落ちします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ