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大天使に聖なる口づけを  作者: シェリンカ
第三章 煌めきの王子と王宮勤め

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 街に暮らす庶民の子供たちは十二歳で学校を卒業する時、それぞれ将来の職業を決定する。

 それにあわせてそこからは別々の道を歩むのだ。


 裁縫が好きだったエミリアはお針子になる道を選んで、アマンダの店で働き始めた。

 庭仕事が好きだったアウレディオは、腕の良い庭師に弟子入りした。


 その他にも家業を継いだ者、もっと勉強したいと上の学校に進学した者など、進む道は人それぞれ。


 数ある職業の中でも、女の子に人気の職業は、お城で働く侍女だった。

 同じように男の子は騎士に憧れた。


 特に家柄だけではなく、庶民の出であっても武勲によって騎士に取り上げられることが多くなった最近では、その傾向は顕著だった。


 騎士見習い志願としてあまりに多くの男の子たちが集まるのを防ぐため、学校では卒業間近に、騎士団の特別講習がおこなわれる。

 騎士がおこなう模擬試合に似せたその講習は、勝ち抜いた者が騎士見習いになる資格を得られるという、かなり高倍率の人気授業だ。


 将来は庭師になると早くから宣言していたアウレディオも、目立ちすぎる風貌のために、なぜかその試合にひっぱり出されることになった。


 嫌々ながらの参加とはいえ、根が負けず嫌いのアウレディオは、生来の運動能力の高さが災いして、あれよあれよという間に、決勝まで勝ち残ってしまった。


 喜んだのは、膨大な数のアウレディオを好きな女の子たち。

 悔しがったのは、そんなアウレディオを、日頃から快く思っていなかった男の子たち。

 決勝戦はさながら、学校を二分しての、男対女の対決のようだった。


 特別にアウレディオの応援をしていたわけではないエミリアも、最後の試合にだけは熱が入った。

 なんと言っても、男の子が一丸となって、アウレディオと戦っている相手を援護するのである。


 審判の目を盗んで何かを投げたりするのはもちろん、アウレディオの私物を壊したり、わざとアウレディオに見える位置で、彼が大切に育てた花を折ったり。


 目に余る行為にもアウレディオは良く耐えて、目の前の試合に集中しようとしていたが、見ているエミリアのほうが、先に限界に達した。


「ちょっと、いいかげんにしなさいよあなたたち! ディオ! あなたも何とか言ったらどうなの、ディオ!」


 エミリアが大きく息を吸いこみ、お腹に力を入れてアウレディオの名前を呼んだ途端、ピタリと全ての人物の動きが止まった。


 驚いてしばらくはキョロキョロとしていたアウレディオだったが、自分以外の誰も動かないことを確認すると、試合の邪魔になりそうな物を全て、さっさとその場から撤去した。

 試合はそのあと、あっさりとアウレディオが勝った。


「思い出したわ! あまりにも信じられない出来事だったんで、すっかり記憶の中で消去しちゃってた!」


 エミリアの叫びに、アウレディオはふうっとため息を吐いた。

 その対応にエミリアは少なからずムッとする。


「だってディオったら、あのあと何も言わなかったじゃない……私はてっきり夢でも見たんだと思って……ディオの勝利だって、てっきり実力だって……」

「もちろん実力だよ。本来あるはずのない妨害を排除しただけなんだから、お前の『天使の時間泥棒』の恩恵なんて微々たるものだ」


 忌々しげに言い放たれて、ますますムキになる。


「なんですって! だったらどうして騎士見習いにならなかったのよ。お誘いだってあちこちの街から来てたのに! 変なの!」

「変なのって、お前……俺は庭師になりたいって昔から言ってただろ? お前だってよく知ってるくせに……」

「だって!」


 売り言葉に買い言葉で止まらなくなってしまった。

 エミリアはこれまで口にしたことのなかった本音を、ついアウレディオにぶつけてしまう。


「ディオの代わりに騎士見習いになった子たちが、偉そうに言うんだもん。ディオは腰抜けだから逃げたんだって……私追いかけてって、文句言ってやりたかった……そうできなかったのが今でも悔しくって悔しくって……!」


 感情が高ぶるあまり、涙が溢れてきた。


 そんなエミリアの頭を、アウレディオが呆れたように撫でる。


「怒ったり泣いたり、本当に忙しいヤツだな……」

「だって……」


 上目遣いに見たアウレディオの顔は、決して呆れてなどいなかった。

 いっそ嬉しそうで、エミリアの頬も自然と緩み、泣き笑いの表情になる。


「ごめん……もう三年も前の話だね……」

「本当に」


 目を細めて笑うアウレディオの顔を見ていると、エミリアの心は晴れてくる。


 怒りもためらいも、さっき一瞬感じた、

(私って実は人間じゃないの……?)

 なんて不安も、どこかに消し飛んでいく。


 アウレディオが笑うと思わずエミリアも笑顔になる。


「……何だよ?」


 なんて言いながら、本当は優しい眼差しを注いでくれる相手。

 いつも安心できる、どんな時でも温かい気持ちになれる存在。

 アウレディオとのやり取りは、きっとエミリアにとっては必要不可欠だ。


(だからディオ……これからも、大人になってからもずっと……いつまでも私の大切な幼馴染でいてね……)


 照れ臭くて絶対に面と向かっては言えない言葉を、エミリアは心の中だけで呟いた。


 夜空に瞬く星にも負けないアウレディオの蒼い瞳の煌きを横目に見ながら、いつまでも、いつまでもこの関係が続くことを願った。

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