第六話 転機4
翌日。神楽小路は一晩考えた。
(佐野真綾はあれだけ熱い思いをぶつけてきたが、断固として首を縦に振らない俺に煽られて焦って言った可能性も高い。ふと我に返って、「やっぱり昨日のことは忘れてください」と言ってくるかもしれない)
と。二限目の授業が終わり、教室を出ると、
「神楽小路くん!」
佐野は神楽小路を見つけると、フリスビーを投げてもらう直前の犬のごとく、テンション高く駆けてきた。
「何か用か」
「何か用か……じゃないよ! 一緒にお昼食べながら課題のテーマを決めれたらなって思って来たよ」
「それはお前が勝手に決めたらいいのではないか」
「でも、提出するまで協力するって」
「協力するとは言ったが、主導は佐野真綾、お前だ」
「えぇー! 冷たいなぁ」
「……まったく、変わった奴だ。俺と組んで後悔しても知らないからな」
「後悔なんてしないよ」
そう言って佐野は笑った。
「とりあえずご飯食べつつ考えよ!」
昨日と同じく二食へと向かった。神楽小路は白米の上に八宝菜がのっている中華丼、佐野はキャベツの千切りとポテトサラダ、大ぶりのからあげ三つがプレートにのった、からあげ定食を注文した。
「いただきまーす!」
よほど空腹だったのか、佐野は箸を勢いよく進めていく。
「からあげ、揚げたてなら最高なんだけどな。でも冷えててもおいしいから素晴らしいね」
「からあげなんぞどれも同じだろう」
「そんなことないよ。味付けで次第で冷たくなったら『うーん』ってなるものもあるよ。あとは衣の食感も。冷めてもサクッとしているものもあるし、油吸ってしまってへにゃへにゃになるものもあったり」
そこまで深く考えたこともない神楽小路にとって、未知の世界であった。佐野は食べ終わると、いつも持っているトートバッグからボールペンを刺したリングノートを取り出すと、なにか書き込み始めた。