第四十三話 再生8
「ちょっと楽になったかな?」
「少しはな。だが、やはり小説がまだ書けていないことが頭にひっかかっている」
今、一人になったところでまた迷い道に出そうだった。
「そうだ。気分転換に料理してみようよ」
「料理? 俺がか?」
「うん! もちろんわたしも一緒にやるから。作り方がわかりやすいのは……なんといってもカレーだね。カレー作ろう!」
佐野はテーブルに置いていたスマホを手に持つと、
「この近くにスーパーあるかな?」
「食材なら家にあるものを使えばいい」
「せっかくだから、ちゃんと食材の買い出しからやってみよう」
神楽小路は芝田に話を通し、厨房を借りたいこと、白飯だけ炊いておいてほしいと伝えた。芝田は最初こそたいそう驚いたが、快く受け入れた。そうして、佐野と共に家を出発した。
近所とはいえ、外出時はもっぱら車を利用しているため、歩いて街を歩くのは久しぶりであった。十月もいつの間にか中旬を過ぎていて、少し日差しは和らいで気持ちよさも感じた。隣の佐野は神楽小路よりも土地勘がないのに、スマホで地図アプリを駆使しながら案内してくれ、十分ほど歩くとスーパーに着いた。
「こんなところにあったのだな」
「来たことないの?」
「初めてだ」
食材も、家の備品もすべてメイドたちが買って来たり、業者がやってきて補充していた。神楽小路が一人で外出しても、行くのは書店か馴染みの喫茶店くらいで、コンビニさえもそんなに入らない。佐野は入り口でカゴとカートを持つと、「さぁ、行くよ」とどんどん進んでいく。
神楽小路といえば、異国に突然やってきたかのようにキョロキョロと周りを見渡す。土曜の昼ということがあり、親子連れでの来店も多く、大学とはまた違う人の多さに驚き、あらゆる場所から聞こえるポップな音楽と今日のおすすめを知らせる店内アナウンスに驚く。
「スーパーは基本入り口が野菜売り場だからね。にんじんとたまねぎとじゃがいも買おう」
「ほお……」
売り場を巡りながら佐野は神楽小路に売り場を教えていく。
「自分がいつも口にしているのもがこうして売られているのだな。本や映画で見ただけではわからないものだ」
と感心しながら歩いていく。




