第三十四話 パーティー3
「咲ちゃん、料理上手だね。からあげの揚げ加減も味つけもお店みたい。回鍋肉もボリュームあるね」
「ありがとうな。真綾はおかず四種類もあんなテキパキつくるとは思わなかった」
「いつもお弁当のおかずで作りなれてるから」
「さすがですね、佐野さんは。とてもおいしいです。毎日お弁当を作って持って行くだなんてなかなか大変で出来ないですよ」
「ワタシのことも褒めろよー」
「桂さんの料理に関しては以前何度も褒めたじゃないですか」
「みんなでいる前でももう一回褒めとくんだよ」
「はいはい、おいしいおいしい」
「テキトーだな」
神楽小路は黙って紙皿におかずを乗せ、食べている。
「なんか神楽小路のその姿、なかなかシュールだよな」
「うるさい」
「神楽小路くん、お味はどうかな?」
「うまい。たまごやきも前と変わらずうまいが、筑前煮も味が染みわたっていて、具材の煮加減も良い。野菜の肉巻きとやらもはじめて食べたが箸が進む。さっぱりしたコースローサラダも口直しに良い」
「めっちゃ饒舌なるなぁ」
「うまいものはそうなるものだろう?」
「だってよ真綾ぁ。よかったなぁ」
と、肘で小突かれた佐野は頬を桃色に染める。
「ありがとう」
「桂も思っていた以上に腕がいいとはな」
「悔しかろう、悔しかろう」
「見た目ではわからないものですよね、本当に」
「その通りだな、駿河」
「オマエら、あとでまとめてぶつ」
神楽小路は映画や書物で読んだ、友人たちと飯を共にする風景が現実に起きていることを未だに信じられなかった。食事中に他愛もない話に花を咲かすこと、紙コップで飲むジュースがなぜかいつもよりおいしく感じられること。
(この数か月で俺はいくつの新しい世界を知ってきただろう。今まで避け続けてきた世界は、意外と悪くなかった。そう思えたのは、この三人だからだろうな)
そう思いながら、カバンから手帳を取りだして書く。
「神楽小路くん食べた物ノート続けてくれてるの?」
佐野はうれしさと驚きが混じった声で言う。
「僕と昼食をとった時も書かれてましたね。ずっと気になってました」
「真綾発案なのか?」
「わたし、実は小さいころから食べたものを毎日ノートに書いてて。わたしのノートは今咲ちゃんの部屋に置いてきてるから手元にないんだけど。こないだ『マスコミの世界』の授業で学食をテーマに新聞作ったときに、神楽小路くんも始めてくれたというか」
「続けていたら、いつの間にか日課になってしまった。佐野真綾が言った通り、読み返した時、その日の心情や景色が浮かぶ」
「神楽小路がそんなに熱く語るほどなら、ワタシもやってみようかな」
「食べるのが好きな咲ちゃんなら続けれると思うよ」
「続けていく根気よりは、ノート紛失しないかどうかですよ」
その後、駿河に殴りかかろうとする桂と、それを止める佐野を見ながら、神楽小路は何事もなかったかのように書き続けた。




