第三十話 困惑6
そのあと、この建物の地下一階にある喫茶店「ハマグチ」へ強制的に連れていかれた。学校の中の施設だというのに学生はおらず、先生や職員と思われる男女が静かに各々の時間を過ごしている。
「わたしはチーズケーキとアイスティーにしようっと」
「ここはケーキがあるのか」
「喫茶店だからね。ケーキも種類いろいろあるなぁ、どれにしよう……。あっ、神楽小路くん、ちゃんと食べるんだよ」
「わかっている。俺はライスグラタンにする」
「それって、前に注文諦めたメニューじゃない?」
以前、二人は学食調査をしている際にこのハマグチに何度か足を運んでいる。しかし、「ライスグラタンは注文受けてから焼くから二十分はかかる」と店員から言われた。二限目の教室からハマグチに到着するのにすでに十五分かかっており、食べ終えて次の授業が行われる教室に向かうにはまた十五分かかることを考慮し、諦めたのだった。
「時間に余裕があるからな」
「それにしても、ご飯食べ忘れるって何かあったの?」
あの現場を目撃して混乱したと言うことは出来ず、
「……まぁ、そういう日もある」
と、言葉を濁す。
「そうなの? 確かにたまにそういうこと言う友達いるけど、ご飯って忘れちゃうものなのかなぁ……」
これ以上、この話題を掘られたくないと神楽小路が思っていると、タイミングよく、チーズケーキとアイスティーがやってきた。一瞬で佐野の視線はそちらへ注がれる。
「学校でケーキなんて不思議な感覚だなぁ。お先にいただきまーす」
上部にほんのりと焼き目の入っているスフレチーズケーキにフォークを沈め、口に運ぶ。そのあと、アイスティーを一口。刺さっているストローを回すと、グラスの中で氷がカランと涼し気な音を立てて躍る。
「はぁ~! おいしい! 口に含めばすぐ溶けていくのにしっかりとクリームチーズの味を残して……! すっきりとしたアイスティーとの相性もぴったり」
食べ進めながら佐野は続ける。




