第二十七話 困惑3
神楽小路と佐野は一緒に昼食をとることはなくなった。神楽小路は一人、たまに駿河と共に、佐野は友人たちと行動するようになり、顔を合わせても挨拶をして一言二言話すだけとなった。ようやく戻ってきた元のリズム。だが、神楽小路は首をかしげる。
(一人で食べるのはこんなにも物悲しさを感じるものだっただろうか)
最終登校日、前期最終ということもあり、授業終了が十分ほどおした。神楽小路は一人で二食に向かうと、久しぶりに食堂は混雑していた。空席がないかと見渡していると、食券機の近くの四人掛けのテーブルに佐野の姿を見つけた。三席は誰もおらず、一人で食べているようだ。声をかけるか悩んでいると、女性二人が佐野のもとへ歩いていく。
「あのー、佐野さん、ここ誰か来る?」
顔見知りなのか、佐野は笑顔を浮かべる。
「ううん、来ないよ」
「私たちここの二席使ってもいい?」
「どうぞどうぞ」
女性二人が腰掛ける。
(他の席を探すか)
と神楽小路が佐野に声をかけるのを諦めた時、
「佐野さんって最近神楽小路くんとご飯食べてたよね?」
突然自分の名前が出て、固まる。
「うん」
「神楽小路くんに何か言われなかった?」
「何か……?」
佐野が訝しげに首をかしげると、女性二人は続ける。
「悪口言われたりとか」
「言われてないけど、どうして?」
「神楽小路くんって見た目かっこいいけど、誰とも話さないし、人を寄せつけさせないオーラあって」
「わかる。先生たちも神楽小路くんのこと一目置いてるみたいな話も聞いたし。私たち同級生のこと見下してバカにしてそうじゃん」
「だから神楽小路くんに絡まれてて佐野さんかわいそう~って話してたんだよ」
「なんか罰ゲームだよねぇって」
そう言うと、女友達二人は笑う。
神楽小路は思い出していた。親戚たちのこと、小学生の時のことを。会話が出来ない人間はおもしろくないのだろうか、周りの空気に合わせないことは悪なのだろうか。家の中で引きこもりずっと考えていたこと。勉強して、本を読んでも答えが出なかった。
(やはり俺は一生家から出ない方がよかったのかもしれない)
身体の奥底から苦しさがこみあげ、冷や汗が流れる。その時だった。
「みんな、もったいないなぁ」
佐野はそう言うと、静かに箸を置いた。
「神楽小路くんは自分からお話しするのが少し苦手なだけで、お話したらとてもおもしろいんだよ。困ってたらすぐ助けてくれたり。それに、わたしが嫌がる神楽小路くんを無理矢理課題作成に誘ったから。むしろ彼がわたしのわがままについてきてくれたの。優しくて、とても素敵な人だよ、神楽小路くんは」
彼女の顔に笑顔はなく、まっすぐ二人の顔を、目を見る。
「だから、そういうこと言わないでほしいな」




