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【1】胃の中の君彦【完結】  作者: ホズミロザスケ
困惑
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第二十六話 困惑2

(弁当……)

 神楽小路の記憶の中に弁当というものはあまり登場せず、数えたほどしかない。それもいつもどこかの業者のもので、葬式に参列した時に食べたくらいだろう。佐野の言うところの弁当はたぶん業者やコンビニなどの弁当ではなく、自宅から作って持ってきたものだと思われる。手作りの弁当というものを見たことない神楽小路は少し興味を持ち始めていた。


 そばを受け取り、佐野のもとへ行くと、テーブルの上には花柄の包みが置かれていた。

「じゃあ、食べよう」

 佐野が包みを開くと、包みと同じ柄の長方形の二段重ね弁当箱が現れた。箱のふたを開けると、一段目は梅のふりかけが混ぜ込まれたご飯、もう一段は小さなおかずたちが敷き詰められていた。小さいカップに入ったきんぴらごぼう、一口サイズに切られた肉巻きアスパラガス。卵焼きの黄色と、赤パプリカとちりめんじゃこの炒め物が彩りを添える。神楽小路は不思議そうにそのおかずたちを眺めている。

「どうしたの?」

「店で売ってる弁当しか見たことがないものでな。これが世にいう『手作り弁当』というものなのか」

「なんだか新しい生き物見つけたみたいに観察するね」

「すべてお前が作ったのか?」

「今日のはわたし一人だね。お母さんと一緒に作る日もあるけど」

「ほぉ、すごいな」

「もしよかったら、一つおかず食べてみる?」

「いや、俺から渡せるものがない」

「前にハンカチ貸してくれたお礼ってことで」

「では、その言葉に甘える」

 神楽小路は一番手前にあったたまごやきを口に運ぶ。

「どうかな?」

「……うまい、佐野真綾とてもうまいぞ」

「よかった!」

「こんなに優しい味がするたまごやきは初めてだ」

 神楽小路が何か食べて、反応するのは初めて見た佐野は驚きながらも、お弁当箱を差し出す。

「そんなに気に入ってくれたなら、もう一つたまごやきどうぞ」

「いいのか? お前の分が」

「作った料理で喜んでもらったのは家族以外で初めてだから、わたしもうれしくて」

「そうなのか? こんなにうまいというのに、みな知らぬとは惜しい話だな」

 そう言って、神楽小路はたまごやきを頬張った。口に広がる甘く、やわらかい食感を愛おしそうに噛みしめた。

 神楽小路にとって今日の休憩時間はあっという間に終わった。

「では、俺は教室に行く」

「うん。神楽小路くん二か月間ありがとうね」

「佐野真綾、良い経験になった。礼を言う。ありがとう」

「こちらこそ。人と一緒になにかやるのも悪くないでしょ」

「まぁ、そういうことにしておく」

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