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【1】胃の中の君彦【完結】  作者: ホズミロザスケ
七夕週間
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第二十二話 七夕週間2

 週明けの月曜日。二限が終わり、教室を出ると、

「神楽小路くん、お昼の時間だよ!」

 いつも通り佐野の呼ぶ声が聞こえた。声のする方を向くと、そこいたのはもちろん佐野真綾であったが、神楽小路の動きが止まる。浴衣を着ていた。藍色地に向日葵が描かれており、水色の帯。左の髪を耳にかけて、そこに金色のヘアピンで留めている。頬と耳のふちを少し紅く染めながら、

「どうかな?」

 と、訊く。神楽小路は今の自分の感情に戸惑っていた、想像していた以上に佐野真綾の浴衣姿が美しく、見惚れている自分に。胸が高まり、言葉が出なかった。黙る神楽小路にどうしたらいいのかわからなくなった佐野は、困ったように笑う。

「とっ、とりあえず、お昼行こっか。今日は二食のそうめんチャレンジに行くよ!」

「……ああ」


 神楽小路はいつも通りに歩いているが、浴衣を着ている佐野の歩幅は狭く、どんどん後ろに取り残される。それに気づいた神楽小路は立ち止まり、なんとか追いつこうと早足になっている佐野を待つ。

「ごめん……! 先に行って席取っててくれてもいいよ……!」

 肩が上がり、息を切らせて言う。佐野の背負う大きなリュックを指さし、

「荷物、貸せ」

 神楽小路は言った。

「今日、帰る時の着替え入っててかなり重いから……」

「だったらなおさらだ。歩きにくいだろう」

 佐野からリュックを受け取ると肩にかけた。

「ごめんね、ありがとう」

「浴衣、買ったんだな」

「うん。土曜日にね、咲ちゃんと一緒に買いに行ったの。せっかく七夕週間っていうイベントあるなら、一度はその波に乗ろうって話になってね。でも七夕の日は天気予報で大雨らしいから、今日着ようってなったの」

「そういうことか」

 神楽小路はそう言ったあと、一呼吸おいて、

「……似合っているんじゃないか」

「ありがとう」

 と返す、佐野の耳のふちがまた紅く色づいた。


 二食に到着すると、『限定メニュー残り僅か』の紙が貼られていた。慌てて列に並ぶ。

「ギリギリ二人分買えてよかったね~」

 トレーの上にガラスの器にそうめんと、星形にくりぬかれた茹でにんじんが二つのせられている。めんつゆが入った器のそばには、薬味皿が添えられており、わさび、ねぎ、みょうがの三種が並んでいる。

「すごいかわいい! 咲ちゃんに送ろうっと」

 スマホで写真を撮っている佐野をよそに、神楽小路はそうめんをすする。

「そうめんはそうめんだな」

「まぁまぁ。でもこの星型のにんじんがあるだけで、特別感が出るよね」

「特別感か……」

 手元のそうめんから佐野の方へと視線を上げる。佐野は微笑みながらスマホを操作している。だが、浴衣を着て、髪形が少し違うだけで脳が佐野真綾だと認識してるような、していないような不思議な感覚に陥る。

「まぁ、今ならわからなくもない」

 と小さく呟いた。

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