第十九話 変化7
「駿河総一郎よ」
「なんですか?」
「あの女が前に言っていた日本一うるさい人か」
駿河はノートをめくる手を止めた。
「よく覚えてくれてましたね。そうですよ」
「お前みたいなおとなしい奴とは正反対だな」
「よく言われます。まぁ、彼女とは腐れ縁といったところでしょうか」
「幼馴染なのか?」
「いえ、彼女とは大学入試の時に出会ったので、まだ半年くらいですかね」
「半年であの距離感なのか」
「実はそうなんですよ。桂さんは出会った時からああいう人でした。あの時、桂さんは試験直前に筆記具を紛失して、かなりテンパってた状態でしたが」
「出会いから苦労してそうだな」
「ああいう感じですが、悪い人ではないですよ。ちょっと素直すぎるんです」
「よく見ているんだな、桂咲のことを」
「同じ学科で、実はマンションの部屋も隣でして。嫌でも交流する状態です」
そう言う駿河はどこか楽しそうだ。
「桂さんも神楽小路くんの小説読んでましたよ。読み終わって、『これを超える』って騒いでました」
神楽小路は自分の書いた作品があらゆるところで読まれていることに、内心驚いていたが、大学の課題とはいえ、提出すればある意味「世に出す」ということなのだろうと改めて感じた。
「桂さんは読書量の多さと、一度制作に取りかかった際の集中力は恐ろしささえ感じますよ。悲しいのは尻に火がつかないと行動しないんですけど」
「ふむ。仲良くはしないがお前がそこまで言うのなら、桂咲のことは覚えておこう」




