表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【1】胃の中の君彦【完結】  作者: ホズミロザスケ
変化
18/48

第十八話 変化6

「あ、えみちゃん!」

「こないだはイラストの授業の時、絵具貸してくれてサンキューな」

「いいよ、あれくらい」

「これ、お礼のチョコ。昨日渡しそびれたから」

「ありがとう~! これ、もしかして最近天王寺に出来たお店のミルクチョコじゃない?」

「よく知ってんなぁ。そうなんだよ。TVで観て、ワタシも食べたかったんだよね。今、まだ一人一個までの購入制限かけられてるからさ、駿河連れてって買った」

「まったく、あの日は二時間も並ばされるとは思いませんでしたよ」

 後ろからやってきたのは駿河である。暑いのか紺色のポロシャツの裾を小さく持ち、パタパタと動かしている。

「駿河くんもありがとうね」

「いえいえ。佐野さんも絵具貸してくださってありがとうございます。忘れ物する桂さんが悪いというのに」

「ワタシが毎日忘れ物してるような言い方はいかんぞ、駿河」

「忘れ物常習犯の人が何を言うんですか」

「前よりは回数減ってんだからな」

 駿河は大きく息を吐いてから、

「神楽小路くん、すいませんね。騒がしくて」

 基本的におだやかで柔和な佐野や駿河とは違う、勢いと強さのある人間との遭遇をした神楽小路は黙って見ている。

「そうか。神楽小路とはまだ話したことなかったよな。どうも、同じ学科の桂咲だ。名前順だとオマエの後ろだ」

「ほぉ」

「その顔だと後ろにワタシがいることも知らねぇって感じだな」

「そうだな、初めて見る顔だ」

「本当に神楽小路って人に興味なさそうだな」

「あながち間違いではない」

 神楽小路がそう答えると、桂の表情が硬くなった。

「興味ねぇっていうのは勝手だが、真綾のこと泣かすなよ」

 神楽小路が口を開く前に、駿河と佐野が慌てる。

「はいはい、その辺にしておきましょうか」

「咲ちゃん、本当に昨日のことはわたしが勝手に泣いてただけだから! ね!」

 猛獣のような扱いの桂をよそに、

「俺は教室へ向かう」

 と神楽小路が荷物を手に立ち上がる。

「ったく、マイペースなやつだな」

「神楽小路くんと僕は次の授業が同じなので」

「真綾はワタシと同じイラストの授業だからな」

「一緒に行こうね」


 先に駿河と桂が会計をしている間、佐野は神楽小路の肩を軽くたたいた。

「あの、これ」

 くまのイラストが描かれたビニールの包みを神楽小路に渡す。

「昨日借りたハンカチ」

「ああ。早いな」

「帰ってすぐに洗ってアイロンもかけたよ。ありがとうね」

「うむ」

 かわいいラッピングを物珍しそうに四方八方から観察していると、佐野が意を決したように「あのね」と切りだす。

「昨日は急に泣いたり、ネガティブなことばかりでごめんね。神楽小路くんが褒めてくれた『思いの強さ』を持ち続けて、もっと良い文章書けるように頑張る」

「へこんでないとは思っていたが、佐野真綾、お前は強靭だな」

「褒めてくれてる?」

「俺なりに」

 そう言うと、佐野は晴れやかな笑顔を見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ