第十三話 変化1
六月。気温は日に日にあがり、湿気を纏う生暖かい風が吹く。多くの人が半袖へ衣替えをする時期となった。神楽小路も長い髪をゆるくまとめ、半袖の開襟シャツに、麻素材のパンツ姿へと切り替え、登校する。
「おはよう神楽小路くん。ちゃんと新聞完成したよ」
佐野は神楽小路を見つけると、手渡されたA4サイズの高質紙に印刷した「新聞」を見せた。写真の代わりにイラストで一品一品紹介されている。そのイラストはリアルでありつつも、かわいらしさがある。文章も読みやすい文体で書かれている。
「いいんじゃないのか」
「よかったぁ」
佐野は力が抜けたように笑った。
授業が始まると、一グループごとに隣の教室に呼ばれ、新聞をその場で見てもらい、評価をもらうというものだった。佐野・神楽小路のグループは最後から二番目だった。
教室に呼ばれ、佐野は新聞を渡す。教授は慣れた手つきで五分もかからず読みきってしまった。
「君たちは学食をテーマに記事にしていくんだね。うんうん。わかりやすいし、学生向けという点に置いても良いと思う。写真ではなく、イラストを使っているのも目を引くね」
「ありがとうございます!」
良い感想をもらえ、佐野は目を輝かせる。
「だけどね」
この一言で空気は変わった。腕を組んで明後日の方向を見ていた神楽小路も教授を見る。
「読みやすすぎるね。読みやすくて、脳の中ですぐに流れて忘れてしまう。こう、ガツンとインパクトある言葉がこの新聞の中にはない」
「なるほど……」
「あと、この文は佐野さん一人で書いているね?」
黙っていても「バレてしまった」と顔に出ている佐野を横目に、神楽小路は頷く。
「神楽小路さんの文は、文芸学科の教授間でも『よく書けている』と話題になっていてね。書いていないことはすぐわかったよ」
神楽小路は「はぁ」と嬉しいのか、バレて恥ずかしいのか曖昧に返事をする。
「そういうわけだから、神楽小路さんはちゃんと課題に取り組むこと。佐野さんは読みやすさは落としすぎず、もっと凝った言葉選びを」
「わかりました」と二人は礼をして、教室へ戻った。席に着くと、佐野が明らかに落ちこんでいた。
授業が終わり、昼休憩に入って一食に行ってもいつもより口数も少なく、食べ終わると、「先に出るね」と出ていった。




