#4 とりあえずの執筆
「ちょっと史人さん……これは、どういうことかしら!」
「あ、澄子さん! いやー、読んでくれたんですね!」
その後。
物語を書くために学校を早退しペンデルトン邸に戻りひとまずの執筆をした史人の部屋に、澄子が血相を変えて入って来た。
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◆ユニブルサル戦記
「さあ……着いたぞ、インカリア王国に!」
「むむ……カータル王国の奴らか!」
ユニブルサルの西側諸国のうち、インカリアとカータルでは。
今、決戦の火蓋が切って落とされようとした。
「……全軍、描き歌の詠唱用意!」
「はい!!」
カータル王国側は、描き歌を詠唱し始める。
魔法字陣の描き歌
攻め側
我らは円環を描く
()
世界の黄昏 空を血のごとく赤く染める
顔をも赤く染める 怒りの色だ
(#)
染まった空に鳥一羽
( #`)
やがて空の夕日は地平線に沈み
( #`Д)
空には蝙蝠一匹
( #`Д´)
されど怒り収まらず
腕を振るい
( #`Д´) _
武器を取ったら攻撃魔法発動!
( #`Д´) _P
「ぐああ!」
「し、将軍! 敵が」
「くっ……狼狽えるな! 何としてもこの城を守り抜け!」
守り側
我らは円環を描く
()
世界の黄昏?
いや貴様らのみの黄昏だ
貴様らに滅ぼされる我らではない
見ろ空の色を
貴様らの黄昏を表す赤だ
(#)
そこへ烏が一羽飛び
( ´#)
更に、今度こそ夕日が沈まんとする
(Д ´#)
それを見送らんと、烏がもう一羽
(`Д ´#)
盾携え、我らは防御魔法を発動する!
(ー(`Д ´#)
生意気な我らが攻撃魔法の前にひれ伏せ
( #`Д´) _P(ー(`Д ´#)
ふん、それしきか
口ほどにもない
我ら、盾を
(ー(`Д ´#)
槍に持ち替えて
<ー(`Д ´#)
攻撃魔法に転ず!
( #`Д´) _P<ー(`Д ´#)
くう、生意気な
今に見ていろ我らが……ぐああ!
P\( #`Д´) \<<ー(`Д ´#)
ははは、思い知ったか
\(ToT)/<ー(`Д ´#)
orz(′yy`)
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「何ですか、このふざけた内容は!」
「え!? ふ、ふざけただなんて心外です! 俺は、この物語を少しでもよくしようと」
「何が良くするというの! こんなもの!」
澄子は、内容に激怒していた。
が、その時。
我、螺旋を描く
〜
そこに大口を開け
〜>
こちらを見つめる者あり
〜>゜
それは穴よりこちらを更に強く見つめ
〜>゜)
今にも身体をくねらせて、這い出んとする!
〜>゜)〜〜〜
さあ、とぐろを巻き彼の者を拘束せよ!
〜>゜)〜(T○T)〜
「む!? な、何なの……こ、これはまさかミルフィー!?」
「へ!? み、ミルフィー!?」
詰め寄る澄子は、突如地から現れた蛇により拘束される。
史人は思わず、先ほどまで物語の執筆をしていて手に持っていたミルフィーを見る。
「そう、ミルフィーは実際に魔法字陣による魔法が使えるのよ!」
「! こ、香美ちゃん……え!? ふ、筆が魔法を!?」
そこへ香美も、部屋に入って来てそう話す。
「こ、香美! 聞いてちょうだい、史人さんがふざけた内容の物語を書いて! ミルフィーが私にこんなことを! ミルフィーまで誑かすなんて、この人は最低よ!」
「え……グサっ! さ、最低……」
澄子の言葉は、史人の胸をグサリと突いた。
が、香美は。
「お待ち下さい、お母様!」
「! 香美……」
むしろ、澄子の方を宥めにかかる。
「そもそも物語が書かれているということは、ミルフィーが認めたということ! ならば……お母様がお認めになれば良いことです!」
「な……こ、香美! あなたまで!」
澄子は大層、不満な様子である。
しかし。
まだ弁えぬ者がいるぞ、蛇!
より締め付けよ、締め付けよ
〜>゜)〜((T○T))〜
「きゃあ! な、何を……み、ミルフィー!」
「お母様!」
「くっ……わ、分かったわ……み、認めます! この調子でユニブルサル戦記を……描き続けてください!」
……蛇よ、彼の者の拘束を解け!
〜>゜)〜〜〜 \(^o^)/
「あ! は、はあはあ……はあ……」
「だ、大丈夫ですかお母様!」
澄子の拘束は、こうして解けた。
「ひいー、怖いなお前……」
史人はその光景に、手元のミルフィーを見つめる。
――ミルフィーはとても嫉妬深いから、そんなの完全アウトよ!
「……俺も、ああいうことになっちまうのかな……」
史人は背筋の凍る思いであった。
さておき。
「さあ史人……あなたの物語の主役はどんな人?」
「! あ、ああ……主人公は、描き歌を歌う歌姫――つまり、女主人公で。そいつは、大国からおっぽり出されたことを根に持って、小国から復讐を初めて……」
「ふふ、いいわね……それでこそ、ミルフィーの婿よ!」
史人の話に。
香美は、嬉々として聞き入る。
「ま、まったく香美……何故あなたは」
「まあまあお母様! ここは、姉様の好きにさせてあげましょう?」
「!? い、韻香!?」
床にへたり込みながら、何故か史人を庇うような長女の態度を訝しむ澄子だが。
韻香は、そんな姉の真意に気づいたようである。
「(さあて……やはり私の目に狂いはなかったわ! この男の子なら、きっと進めてくれると思ってた……何代にも渡って停滞していた、我が家に伝わる物語――呪いを!)」
その姉――香美は、はたして。
心の中に、不穏な考えを持っていた。
――おお、来たかい香美! 待っていてくれ……今、読んであげるから。
「(おじ様……すみません! 私が物語を終わらせて仇を取りたかったのですが。私は、女でしたから……)」
そんな香美が、次に思い浮かべたのは。
亡くなった叔父――ミルフィーの前夫だった。