#2 筆と結婚んん!?
「ええ……二出史人! いいえ……あなたは本日より、永作ペンデルトン史人! 我がペンデルトン家に代々伝わる筆、ミルフィー・ペンデルトンの婿として。この屋敷で暮らしていただきます!」
「……はあああ!? ふ、筆と結婚て……き、聞いてねえぞ!」
「ええ、今言ったもの。」
「いや、そういうことじゃなくて!」
史人は猛抗議し続ける。
「第一……筆と結婚して、何しろってんだ!?」
「結婚したなら……子供を作るのが定番でしょ?」
「……な!? こ、子供お!?」
しかし史人に、香美は顔色一つ変えないままこう言い放ち。
むしろ史人が、赤面してしまう。
「あら、こんなことでそんな赤面して……あなたもしかしてDTかしら?」
「は、はあ!? ち、ちげえし……いや、ていうか! 筆と人間の間にどうやって子供ができるのさ!」
「はあ、本当に分からないのね……変な想像しないでよね変態! 筆の子供って言ったら……物語に決まってるでしょ?」
「! も、物語?」
尚も香美からこき下ろされる史人だが。
物語、という単語にピクリと反応する。
「それは……物書きになれるってことか!?」
「! あ、あら何? き、急に態度が変わったじゃない?」
史人のその言葉に、香美はやや引き気味だが。
史人の目には希望が宿っていた。
「頼む! 詳しく教えてくれ!」
「……分かったわ。ほら、これを!」
そう言い、香美は一冊の本を差し出す。
そこに書かれていたのは。
「異世界……ユニブルサルって名前の異世界の物語か……」
「ええ。我がペンデルトン家は、代々その異世界物語を書き継いで来た一族。先ごろまでは私の叔父がミルフィーの夫だったけれど、過労で亡くなってしまって。それで、代わりの夫を探していたという訳よ。」
「な、なるほどな……」
史人は今一つ釈然としないが。
そのまま読み進めて行くと、驚きの連続であった。
何より、驚いたのは。
「魔法字陣……魔法陣のことか? それ、の……描き歌!? って……絵描き歌かよ!?」
絵描き歌が出て来る、物語ということであった。
我らは円環を描く
世界の黄昏 空を血のごとく赤く染める
顔をも赤く染める 怒りの色だ
染まった空に鳥一羽
やがて空の夕日は地平線に沈み
空には蝙蝠一匹
されど怒り収まらず
腕を振るい
武器を取ったら攻撃魔法発動!
「こ、これが物語に出て来る魔法陣の絵描き歌か……」
「あらあら……気に入ってくれたようで何よりよ! どうかしら? ミルフィーとの結婚を承諾してくださる?」
「ん……それは」
やや興奮気味に話す史人に。
香美は素直にその熱意を称賛するが、史人はやや渋る。
下手ながらも、これまでも物語を書くことが好きだった。
しかし。
「……筆と、結婚か……あ、あのさ。う、浮気とかって」
「……バッカじゃないの! 女性軽視、蔑視発言反対! あんたそんなんだからモテないのよ! ミルフィーはとても嫉妬深いから、そんなの完全アウトよ!」
「う……はい。」
史人は香美にこってり絞られてしまった。
やはり、筆と結婚するということと。
何より、それにより二度と人と結婚できないのではないかという懸念がネックであった。
「……まあ、無理強いはしないわ。他にも婿候補はたくさんいるし」
「!? ま、待った!」
「きゃ! ち、ちょ、何勝手に触ってんのよ!」
香美はミルフィーを、収まっているジュラルミンケース諸共回収しようとするが。
史人に手を掴まれ、驚いた。
「あ……ご、ごめん! ……分かった。俺は、その筆と結婚する!」
「!? ……そう。分かったわ……決まりね。」
史人のその言葉に。
香美は、納得の笑みを浮かべる。
かくして。
史人は、筆と結婚することになった。