#1家出する。そして名家ペンデルトン家に拾われる
二出史人
主人公。
高校生。
下手ながらも自作小説を作ったりするのが趣味だったが、家族とは折り合いが悪く家出した先で香美と邂逅し。
その後は彼女の口車に乗せられる形で物言わぬ筆・ミルフィーに婿入りする。
永作・ペンデルトン・香美
ヒロイン。
代々ミルフィーを受け継ぐペンデルトン家の生まれ。
女だったために、あくまで異性愛者のミルフィーの配偶者には選ばれなかった。
ベオルフ・フォン・ライ
香美の執事。
狼男だが夜には凶暴化するため昼だけ活動する。
ブライドン・アーク・ルージュ
香美の執事。
吸血鬼なので夜だけ活動する。
ミルフィー・ペンデルトン
正ヒロイン。
物言わぬ筆。
魔導真実教
ペンデルトン家の書いた物語を利用しようと目論む宗教。
「あなた……どうしたの、そんな捨てられた子犬みたいな目をして?」
「え……あ……」
家出少年の、史人はその夜。
長い茶系の髪に、やや青みがかった目の見たことのないような見目麗しい令嬢・香美と出会った――
――ちょっと、待ちなさい史人!
――ふん、こんな家俺から願い下げしてやる!
下手ながらも自作小説を書く生活に憧れていながらも、史人は勉強を強要して来る両親から逃げる形で……いや、それだけではない。
――大黒……いや、理子! 俺はずっと、君が好きだった!
――ふ、史人……ご、ごめんなさい!
――え!? ……ガビーン!
幼馴染に振られたショックもあり、実家を飛び出して来たのだが。
それにより今、ここに至る。
「……ブライドン。」
「はっ、香美お嬢様!」
「……至急車を。あと、彼のご実家を調べて。うちにお泊めする許可を取らなくてはね。」
「!? ……え?」
それが、今では。
何と、執事を一人従えた見目麗しい令嬢に。
家にまで泊めてもらえるなど!
「こ、これは夢か……? いや、天国か!?」
史人は天にも昇る気持ちであった。
◆◇
「さあ、遠慮なさらずに……どうぞ。」
「あ、は、はい……えっと……」
史人は、目の前の光景に戸惑うばかりである。
何故なら目の前には、見たこともないご馳走や調度品が並べられた長テーブルに。
香美、彼女の母・澄子、彼女の妹である韻香と美女三人がついているからだ。
「い、いただきます……!? う、すごい……」
料理を一口食べた史人は、あまりの旨さにこれまた天にも昇る気持ちになる。
「ところで香美……この方が婿殿とは、本当なの?」
「ええ、お母様。」
「……ぐっ! ゴホッ、ゲホ!」
しかし澄子のその言葉に、史人はむせ返る。
「だ、大丈夫ですか!」
「あ、は、はい!(婿……? 誰が? 俺が? ……え! こ、こんな可愛い女の子の!?)」
史人はむせ返りながらも。
天にも昇る気持ち、ここに極まれりであった。
◆◇
「どうぞこちらへ。……中であなたの奥様となる方がお待ちです!」
「!? は、はい!」
食後。
史人は案内された部屋に入って行く。
「こ……香美ちゅわあああん! 未来の旦那様だよ……ぐあ!?」
そのまま部屋の中の『奥様となる方』――誰も香美とは言っていないが、史人は勝手にそう思った――を抱きしめようとする史人だが、その手は全力で空を切り彼はその場に倒れる。
「だ、大丈夫ですか史人殿?」
「あ、はい……ん!? んん!?」
「? どうされました?」
案内役の執事ブランドンは史人を心配するが。
史人は周りを見渡し、戸惑うばかりである。
何故なら。
「……え? こ、香美ちゅわあんがいない!?」
「何をおっしゃいますやら……香美様は最初からこの部屋にはいらっしゃいません。ここにいらっしゃいますのが、あなたの『奥様となる方』ですから!」
「え……え?」
史人の見渡す周りには、誰にも――正確には、人間が一人も――いないのである。
そう、あるのは。
開けられたジュラルミンケースに収められた、一つの筆。
……筆――
「何をキョロキョロされているのですか、この方ですよ!」
「……えっと、その筆のケースの影に誰かいるのかな?」
「ああもう、じれったいわね! えい!」
「!? こ、香美ちゅわあああ……ひぐっ!!」
ブランドンの言葉に、尚も戸惑う史人だが。
突如として部屋に入って来た香美が背後から彼に蹴りを舞い。
よろけた彼は、そのままジュラルミンケースの筆の上に倒れ込み――
「……ん!? な……え……いや、まさか!? そ、そんな……」
そのまま思わず、筆を握った史人は。
その刹那頭に様々な記憶が流れ込み、全てを悟るもそれは信じがたいものだった。
「そうよ……何が、香美ちゅわあああんよ気持ち悪い! 私があんたなんかと結婚するわけないでしょ? あなたが結婚するのは、その筆――ミルフィー・ペンデルトンよ!」
「……そ、そんな!?」
香美のキツい言葉が更に史人へと追い討ちをかける。
そう、つまり。
「ふ……筆と結婚んん!?」
……史人は、筆と結婚することになったのだった。