冬の思い出
冷えきった身体をコタツで暖めながら、窓の外の様子を見る。
先ほどまでは粉雪だったが、今では雪がしんしんと降っている。
「うわー、もう少し遅かったら大変だった」
「お疲れさま~疲れた身体には甘いものをどうぞ」
出てきたのはかき氷だった。
「冬にコタツでかき氷とは、しかも金時かー。最高だね」
ふと、台に置かれたかき氷を見て、幼い日のことを思い出した。
子供のころ、家族でスキーに行ったときのこと。興奮していた僕はあちこちに動き回って、家族とはぐれて遭難してしまった。
どちらの方角から来たのかも分からず、途方に暮れていたところ、突然目の前に浴衣姿の女性が立っていた。女性は僕の手を取り歩きだした。知らない人にはついていってはいけないと言われていたが、何故かこの人は大丈夫な気がした。
数分後、僕たちは小屋に入った。中央には囲炉裏があり、近づくととても暖かかった。
そこで女性は僕のことを心配したのか、かき氷を出してくれた。宇治金時でとても甘くて美味しかったことを覚えている。
しかし、そのあとは眠くなり意識がおちて、気がついたらスキー場の施設のなかにいた。
後に聞いた話だと、スキー場からそう遠く離れていないところにある休憩所に寝ていたとのことである。
みんな、自力でそこまで戻ったと言った。
しかし、僕は実際に救われたと思っている。
なぜなら、意識を失う直前に『このことは誰にも言ってはいけない』と念押しされた記憶があるからだ。
「おーい、どうしたの?上の空だぞー」
妻の声に我に帰る。
「あ、あぁ、昔のことを思い出していたんだ」
「どんな話?」
「ん?」
浴衣姿の妻を見る。
「いや、僕はいい奥さんをもって幸せだと思っただけだよ」