第3話 ボクとカノジョの異世界デート(オンラインだけど……)
RS・オンラインのロゴが表示され、データの読み取りが行われる。
フレンドの情報が表示され、彼女、ファルがログインしていることがわかる。
さすが、ファル、時間通り。 些細なことでもうれしい。
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RS・オンラインのロゴが表示され、データの読み取りが行われる。
フレンドの情報が表示され、彼、ユウトがログインしていることがわかる。
さすが、ユウト。 時間に正確なところ、だいすき。
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「ファル!」
「ユウト!」
だきっ
お互いのホーム画面 (ゲームの入り口となる画面。このゲームでは、「マイルーム」と呼ばれる)が表示され、2人の3Dモデルが操作できるようになった瞬間、僕たちは抱き合っていた。およそ15時間ぶりの再会とはいえ、ああ、嬉しいなあ。早くスマホで触感や、香りを感じられるようにならないかな。
「マイルーム」は、フレンド同士で、共通のホーム画面として登録することができる。本当にひとつの部屋になっていて、登録したフレンドしか入ることができない。家具などを購入してカスタマイズすることもできる。僕たちのマイルームは板作りの床で、かわいい形をしたテーブルと椅子、ベッド、観葉植物に、紅茶セットが飾られたファンシーな戸棚が置かれている。
マイルームカスタムに必要な魔法石はなかなかに多いので、ようやく先週アイテムを買い揃えたところだ。それまではデフォルトのフィールドをマイルームにしていたから、なかなかいちゃいちゃできず(コモンフィールドは周りから見えるのだ)に、もんもんとしていたなー。ここは完全はプライベート空間なので、いちゃいちゃできるぞー! 楽しみだ。
……おっと、思わず興奮していた。ちゃんとファルの姿を見ないとね。
彼女はいつものドレス姿。
ふと、左の前髪に、新しい髪飾りが付いていることに気づく。かわいらしい、レッサーパンダ?の形をした青い髪飾り。彼女の金髪に映えて、きれいだ。
「あっえっと、その髪飾り、新しいの? すごくファルに似合っているよ。かわいいね」
よし、順調だと思う。女の子に会ったときは、最初にまず褒めろ。僕はネットで調べた「脱・童貞! 高校生男子はここを押さえろ講座」の一文を思い出す。最初にどもってしまったのは、仕方ないだろ、まだ慣れていないんだって。
「えへへ、これはね。 こないだのアップデートで追加されたのを買ったんだ。わたしが飼ってるペットのゴライアスちゃんに似てるの~。現実世界でも同じのを作って、いま、わたしもつけてるんだよ」
ファルは嬉しそうにはにかむと、たった今撮ったのであろう、一枚の写真を見せてくれる。
そこには、ファルに抱かれる一匹のもこもこした動物(こちらの世界のレッサーパンダに似ているが、もう少し丸く、毛並みの先が青く光っている。異世界動物! というゴージャスな感じがする)と、満面の笑みを浮かべるファルが写っている。
おい、ゴライアスちゃんとやら、そこをかわってくれよ……っておお、ゴライアスちゃんの前足が、ファルのおっきな胸にかかっている。それによって少し服がはだけ、胸の谷間が見え……
こほん、今は発情している場合じゃないので、僕はその写真を大事なものフォルダに保存すると、ファルに向き合った。
「ゴライアスちゃん、もこもこでかわいいね! 現実のファルも、髪飾りよく似合ってる。こういうの作れるんだ。魔導士ってすごいね!」
女の子の気持ちに同意して、彼女の特徴を褒める。よし、完璧だ!
マニュアル人間って言わないで。理系男子はこうやって、理論に忠実にしか物事を進められないの!
「えへへ~、ゴライアスちゃん、抱っこして寝ると暖かくて気持ちいいの。 髪飾りはね、わたしもいちおう錬金術師だから、里の裏山から取れる翡翠石から作ったの。 あ、あのあの、こんどユウトに似合う髪飾りを考えて、シロネコトマトで送るね!」
「ほんと!? やったああ! ありがとうファル! お返しも考えるから! ほんとだよ!」
「うん!」
おおお! ファルからのプレゼント! 女の子からプレゼントもらうの、幼稚園のときに里奈ちゃんから泥団子もらって以来かもだ! ああ、神様ありがとうございます。
とりあえず僕は近所にある神社の神様に感謝しておいた。
シロネコトマトは言わずと知れた、日本最大の運送会社だ。先日シルヴェスターランドとの貨物サービスを開始した。通関と輸送に2週間程度の時間がかかるそうだけど、彼女の手作りアイテムをもらえるなんて! これはもう僕、リア充陽キャと言ってもいいのでは?
僕は童貞らしく、すっかり舞い上がっていた。
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ふおおお! ユウトにプレゼントを渡せたぞー! お返しも、もらえそうだぞー!
わたしは心の中でガッツポーズを繰り返しながら、ゴライアスちゃんをぎゅっと抱きしめる。
少しきついのか、ぺしぺしと前足を動かして、抗議してくるゴライアスちゃん。あ、ごめんね、思わず興奮してた。
ふう、とわたしは深呼吸する。
男の子に会ったときは、さりげなくいつもと違う自分を見せましょう。相手が気づいてくれたら、あなたの魅力をアピールしましょう。写真を使ってもいいかもしれません。あくまでかわいく、でも少しえっちなところを見せて。そうすればもう、彼はあなたの虜です。
先月の帝国ノンノン(10代女子向けのファッション雑誌だ)「脱・地味子! 鈍感男子必殺攻略講座」の一文を思い出す。え、一息でしゃべりすぎって、仕方ないでしょ、まだ慣れていないの!
でも、胸元をはだけるの、少しどきどきした。こんなんで良かったのかなあ、ねえゴライアスちゃん。
わたしは、協力してくれた賢いゴライアスちゃんの鼻先をなでる。きゅいきゅいと答えてくれるのがかわいい。
えへへ、男の子からのプレゼントかあ……105歳のときに、旅人の息子さんから余ったポーションもらって以来かもだ! ああ、神様ありがとうございます。(それはプレゼントなの?っていうツッコミはなしで!)
彼氏からプレゼントをもらえるなんて! これはもうわたし、リア充陽キャ (最近ニホンではやっている言葉みたい)と言ってもいいのでは?
わたしは処女らしく、すっかり舞い上がっていた。
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「じゃあ、今日はいつもどおり狩りをして……タウンフィールドで新しいミニゲームが追加されたみたいだから、そこに行こうよ」
「うん!」
ユウトが今日のプランを提案してくれる。ユウトはいつも引っ込み思案なわたしを引っ張ってくれる。だいすき。
「じゃあ、出発しよう」
あ、その前に……
「……んっ」
ぺろっ……
わたしはいつものように、ユウトに顔を近づけると、そのかわいい耳をひと舐めした。
ユウトは少しびっくりしてたけど、すくに笑顔になってわたしの耳をぺろり、とひと舐めしてくれる。
えへへ、気持ちいいな。
これがわたしたちの「だいすき」の挨拶。
え、えっちじゃないもん!
さあ、今日の冒険が始まります。