第2話 わたしのカレシは、耳を褒めてくれる、素敵な二ホンの男の子
「あ、あの! その素敵な耳! 僕に触らせてください! むしろ舐めさせて……」
ふええええぇぇ!? わたし、告白されちゃったの!?
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妖精時代から数えて、苦節117年、自我が目覚めてから17年。 ずっと、超田舎のハイエルフの里で、灰色の人生を過ごしてきたわたしにも、やっと素敵なカレシができました。わたしの耳をきれいだと言ってくれる、ちょっと素朴な男の子。
毎日会えて、しかも、ちょっとえっちなこともしてくれるの。ドキドキするね。
ああ、ちょっと待って、脳内彼氏乙といわないで。これには、深いわけがあるの。
わたしの名前は、ファリーナ・S・ボルティモア。 ファルって呼んでね。
ツキア皇国、ナルガノ・カウンティの山奥、ハイエルフの里、ルキア村に住んでる117歳女子魔導錬金術師 (人間形態17年目)。よりにもよって、エルフ界で一番山奥の、ほぼ女子しかいない村に生まれてしまったせいで、処女人生まっしぐら。最後に男の子とじっくり話したのは、うう、妖精時代、伝説の勇者さんとだったかも。人間形態になると、妖精時代の記憶はおぼろげになるから、ほぼ経験なし。ふええ。
田舎の魔導錬金術師あるあるだと思うけど、錬金術以外は狩りやマジックアイテムの作成、たまに迷い込んだ旅人さんをもてなすくらいで、典型的なド田舎スローライフ人生を送るわたしが出会ったのは、新しくサービス開始した、「アルカディア」っていう、魔導通信端末と、そこで遊べる「おんらいんおーぷんあーるぴーじー?」 通称:RS・オンライン。
このゲームの特徴は、本当に”異世界:二ホン”の人たちと一緒に遊べるの。あ、嘘だと思ったでしょ。 数年前、ツキア皇国と、二ホンが、「ゲート」で繋がったんだから。
その後、色々あって向こうの世界と、魔導通信端末で繋がるようになったんだ。アルカディア1つで異世界と通信できちゃうなんて、技術の進歩って、凄いよね!
ちなみに、わたしが得意な感覚再現魔法を使えば、臨場感もばっちりなの!
彼と出会ったのは2か月前、わたしが狩場 (エルフの森)で、戦果稼ぎをしているとき。もちろんわたしは、感覚再現魔法をかけて、ゲームに没頭していたの。
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わたしが戦果稼ぎをしていたら、固有モンスターに不意打ちを食らっているぷれーやーさんが!
わたしは思わず、虎の子の最上位スキルカードを使って、そのぷれーやーさんを助けたの。あ、少しもったいなかったかな?
「あの、大丈夫ですか?」
少しもっさりとした、癖のある黒髪。優しげな茶色い瞳は、吸い込まれてしまいそう。二ホンの学校の制服?というのかしら、若い宮廷魔導士が着るような、ブレザー姿の男の子。
それと、少し上を向いた、思わず触りたくなる丸い耳!
おそらく、わたしが生まれて初めて見た、人間形態が同い年くらいの男の子が、ぽかんとした顔でわたしを見つめながら、尻もちをついていた。
うわぁ、男の子だぁ……わたしがほえー、と彼を見つめていると、びっくりするようなことを言われたの。
「あ、あの! その素敵な耳! 僕に触らせてください! むしろ舐めさせて……」
ふええええええ!? この子、いきなり、ウチになに言いよるん!? ……おっと、思わずお国訛りが出ちゃった。ふう、ここは深呼吸ね。
一つずつ説明させて。
わたしたちハイエルフは、女性として生まれる個体がほとんどで、男性はとても少ないの。なので、異種族の男性と結ばれるることが多いんだけど、愛情表現が、すこし特殊で……人間種族は、口と口のキス……なのかもしれないけど、わたしたちの習慣では、より親愛を表す方法として、お互いの、耳を舐めるの。耳の穴の奥まで舐めるほど、アナタを信頼してますという……ほんとよ、嘘じゃなんだから! ふええ、恥ずかしい!
ハイエルフの耳は、愛情をこめられると、凄く敏感になるんだから、優しくしてね……
というわけなので、「あなたの耳を触らせてください、舐めさせてください」というのは、最高の愛の言葉。わたし、うっとりしちゃった。
こういうこと言われるの、初めてだったし、えへへ、少し好みの男の子だったから、わたし、OKしちゃった。
「あの、あのあの! はい、アナタの告白、お受けします……誓いの証、立てさせてください」
そこからは……あー、ダメ! 描写禁止! 詳しくは1話を見てね!
わたしだって、少しもじもじしちゃった。(なにを、とは女の子に聞いちゃダメ! えっち!)
という事で、わたしはユウトと愛を誓ったんだけれど……
「えへへ、これでわたしたちは、「こいびと」ですね」
わたしがそういった時の、カレの嬉しそうな顔を、わたしは一生忘れない。
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「ふええ、会いたいよお……」
そうなのです。そんなロマンチックなことがあったのだけれど、彼は異世界の住人。ツキア皇国から二ホンに繋がるゲートは、原則許可をもらった人間が、経済交流の場合に限ってしか行き来ができないんです。
一介の平凡な魔導錬金術師(魔法力53)の身では、二ホンに行くなど、とても……
わたしはハァ、とため息をつくと、自分のアルカディアからRS・オンラインのアイコンをタップし、ゲームを起動しました。そろそろ、彼がログインしている時間だから。