第1話 僕のカノジョは、耳が素敵なエルフの子
「あ、あの! その素敵な耳! 僕に触らせてください!」
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苦節17年、ずっと灰色の人生を過ごしてきた僕にも、やっと可愛い彼女ができた。
耳がきれいな、エルフの女の子。毎日会えて、しかも、ちょっとえっちなこともしてくれるんだ。
ああ、ちょっと待って、脳内彼女乙といわないで。これには、深いわけがあるんだよ。
僕の名前は、叢雲 優斗
東京都大田区に住んでいる17歳男子高校生。
理数科、工学科がある、ほぼ男子校な高校に進んでしまったせいで、童貞人生まっしぐら。最後に女の子とじっくり話したのは、うう、親戚の優菜ちゃんが最後かもしれない。理系高校生あるあるだと思うけど、アニメやゲーム、Me-tuberにどっぷりはまり、典型的なオタク人生を送る僕が出会ったのは、新しくサービス開始した異世界オンラインオープンRPG:RS・オンライン。
このゲームの特徴は、本当に”異世界”の人たちと一緒にゲームができるんだ。あ、嘘じゃないよ。数年前、世界各国と魔法世界であるシルヴェスターランドが、「ゲート」で繋がった。
その後、色々あって向こうの世界と、オンラインで繋がるようになったんだ。スマホ1つで異世界と通信できちゃうなんて、技術の進歩って、凄いね!
ちなみにVRモードにも対応しているから、臨場感もばっちりだ。
彼女と出会ったのは2か月前、僕が狩場 (エルフの森)で、戦果稼ぎをしている時。もちろん僕は、スマホをVRメガネに付けて、ゲームに没頭していた。
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このゲームでは、「索敵スキル」をつかってモンスターを探し、見つけたモンスターを「攻撃スキル」や、「魔法カード」などを使って狩っていき、魔法石を集めるのが基本になる。その魔法石を使って、新たなスキルを購入し、レベルを上げていく。さらに特徴として、3Dアバターを作ることができ、色々な衣装を着せて、「街」や「森の中」で、相手プレーヤーとさまざまな「遊び」をすることができる。 むしろ、そちらがメインといってもいいかもしれないね。
スマホの性能を限界まで使った美麗でかわいい3Dモデル。自由度の高い動きで、色々遊べちゃうんだ。噂では、秘密の拡張パックを使えば、エッチなことができるという都市伝説も。健康な男子高校生としては、おもわず前かがみになっちゃうよね。
そんなことを妄想しつつ、僕が戦果稼ぎをしていたら、固有モンスターに不意打ちを食らってしまった。
しまった! これで1レベルダウンペナルティか……あきらめかけたその時、最上位の攻撃スキルで僕を助けてくれたプレーヤーがいたんだ。
「あの、大丈夫ですか?」
さらさらと揺れ動く、セミロングの金髪。優しげな青い瞳は、吸い込まれてしまいそう。ぷっくりとした桜色の唇に、透き通る白い肌。大きく膨らんだ胸元を、白いリボンが彩っている。若草色をした、動きやすそうなドレスからのぞく白い脚がまぶしい。
それに何より、ぴん! と上を向いた、思わず触りたくなるエルフ耳!絵にかいたような(3Dモデルだけど)可憐なエルフの美少女が、そこに立っていた。
うわああああ、なんてきれいなエルフの女の子なんだ!! 感極まってしまった僕は思わず……
「あ、あの! その素敵な耳! 僕に触らせてください! むしろ舐めさせて……」
……はっ!? しまったあああああ!! 僕の17年間蓄積した闇の童貞力が、とんでもないことをこの口に言わせてしまった!
そう思っても後の祭り。 ああ、絶対嫌われたよ……だから理系高校生は陰キャチー牛だね、とポイッターで馬鹿にされるんだ、うう……。
僕が打ちひしがれていると、エルフの女の子の顔が、真っ赤になっているのが見える。目をウルウルさせて震えているようだ。(というか、凄いな、この3Dモデル)
やばい、セクハラを通報されて、規定違反で垢BANか? 僕が身構えていると。
「あの、あのあの! はい、アナタの告白、お受けします……誓いの証、立てさせてください」
はい!?
呆然としていると、女の子が僕の3Dモデルに抱きついてきた。
え、え、え? なにこれ? 盛大に混乱していると……
ぺろ……んちゅっ……
「ん…ぷはっ…」
あああああ、お、女の子が、僕の耳を舐めてるっ!? しかも穴の奥の方まで!?
実際に僕の耳が舐められてるわけじゃないけど、このゲームの音声はASMR(催眠音声)対応だ……ああ、耳が、耳が幸せ……
思わず、逝きかけてしまう僕。(というか、ちょっと出た。 なにが、とは聞かないで。健康な男子高校生ですから)
ひとしきり僕の耳を舐めた後、女の子は僕から離れ、にっこりと微笑んでくれる。その天使のような微笑みに、僕は見入るしかなかった。これはもしかして、詐欺ってやつなんだろうか? 怪しいアドレスをクリックしたらスマホがロックされる的な? まだ頭が混乱している。
呆ける僕に向かって、エルフの女の子はさらにびっくりするようなことを言った。
「これで、わたしの誓いは立ちました。 次はアナタの番です。さあ、どうぞ」
女の子が、そういって耳を差し出してくる。
!?!? 女の子の耳が、エルフの耳があああ!!
VRモードでドアップになるエルフの耳を見て、僕に断るという選択肢は用意されていなかった。意を決して、女の子の耳に舌を這わす。
ぺろっ
「んっ、あっ……そこぅ……もっと、奥の方まで、お願いしますぅ」
あああああ!! 舌の感触はスマホの画面だったけど、女の子の、かわいい喘ぎ声が、吐息がああ!!
(ごめんなさい、もっと出た。 今日は眠れないかもしれない)
夢のような時間が過ぎ、僕は女の子から離れる。彼女はもう一度にっこり、と微笑むと、こういったんだ。
「えへへ、これでわたしたちは、「こいびと」ですね」
その時のカノジョの輝く笑顔を、僕は一生忘れない。
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そんなことがあったんだよね。でも……
「はあ、会いたいなあ……」
そうなのだ。彼女は異世界の住人。日本からシルヴェスターランドに繋がるゲートは、原則許可をもらった人間が、経済交流の場合に限ってしか行き来ができない。
一介の平凡な理系高校生(偏差値53)の身では、向こうに行くことなど、かなわない。
僕はハァ、とため息をつくと、自分のスマホからRS・オンラインのアイコンをタップし、ゲームを起動した。そろそろ、彼女がログインしている時間だから。