七行詩 711.~720.
『七行詩』
711.
私達は同じ悩みの部屋で
入れ替わるように眠り
入れ替わるように目覚める
太陽と月でさえ 同じ空で出会うことだってあるのに
私達は今度 いつ会えるでしょうか
きっとこれから また少しずつ 減ってゆき
私は最後 月のない空を 一人見上げることになる
712.
いつか車と宿を借りて
この小さな島国を旅しましょう
私達がそれぞれ 今まで目にして来た景色を
互いに見せ合うためのドライブを
窓から顔を出し 風を感じたり
土砂降りの雨音に 聴き入ったり
窓際で眠る 貴方の横顔を 見つめたり
713.
灰が降り注ぐ世界の中で 一夜で人が滅ぶなら
最後だけでも 貴方の傍にいて
消えそうな息を 温めたい
貴方を見送る瞬間まで
もう目を離したくはありません
貴方を一人にはさせない
どうぞ私の腕の中で 先に目を閉じ 眠ってください
714.
私の夢が 一日だけでも 叶うなら
パリに貴方を 連れて行きたい
貴方を酔わせ 花の都に 芸術の都に
靴音を 響かせに行きましょう
翌日 貴方を 無事家に送り届けたら
私のことは忘れてください
夢の代償を払うのは 私だけで良いので
715.
貴方の手を求め 水中を探し回り
見つからなければ 水面で深く息を吸って
何度も潜り直すような
そんな日々に慣れてしまえば
それが丁度良かったのだと気づいた
部屋で泳ぐのが好きだった
貴方を追って 私は扉を出てしまったから
716.
浮かんでは 消えてしまった考えを
どこに探せば良いのでしょうか
近頃ろくに機能しない 記憶も 視覚も 聴覚も
一つ拾う度に 溢れてしまう 小さな鞄も
何も信用できないけど
些細なことや 幻想が 頭中を通りすぎるのを
ただ毎日 見ているだけなのでしょうか
717.
振り子は 大きな力を秘めていれば
その振り幅は大きくなる
私の両腕を伸ばすより ずっと広く
抱えきれないほどのものになる
その力がどちらに向かうのか
私には制御しきれない
どうか 私にも貴方にも 良くなる道が拓けますように
718.
罰として 人が感じた寒さの全てを
この身に引き受けられたらいい
貴方の笑顔が 私より長く 続くように と祈りながら
私の涙は 最初と最後の
一滴ずつだけ 取っておければいい
貴方が私を 信じることはもうない
ならば 貴方は誰を信じるのでしょう
719.
雨上がり 外を出歩けば
雨に濡れて帰る 貴方に出会うかもしれない
お互いに気づけば 一瞬ためらい
笑顔を浮かべ直すでしょう
話したいことはたくさんあるけど
風邪をひくから 先に帰ろう
話はそれからだよ
720.
無駄が千個集まってできたものは
無駄だ、と君は言うけど
僕は一万の無駄が重なって作られたもので
そんな奴のことは忘れたっていいんだよ
あまりに無駄過ぎたんだ
君は受け取る鍵を間違えた
僕はこの無駄に 命を懸けていた