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ビデオテープ

作者: syo
掲載日:2020/01/25

 あるテレビスタジオが深夜番組を作成するため、フェイクドキュメンタリー映像を企画する。主演は、腕利きの女ディレクターと煙草を吸いすぎるカメラマンと大学を卒業したばかりの新人ADである。

 基本的な舞台は都内のスタジオと山沿いに住む別荘を行き来し、魔女の森と称される場所の真相を突き止めるべく、テレビクルーは撮影を試みる。

 まずは行方不明となった友人を抱える大学生の取材から始まる。朴訥とした喋りの中にも、人懐こい微笑みが時折含まれ、カメラのアングル的には、なぜこのような一般人とも言える彼女が魔女の森と関わりを持ったのか、どうやって彼女はその森から帰ってこられたのか、といった視聴者の興味を掻き立てるための映像を撮影した。

 彼女の話によれば、自分と友人たち三人で魔女の森近くにある別荘に泊まることにしたのだという。山沿いとはいえ、電気や水の通りも良く、周辺の状況が違うだけで、他は家にあるものとはそう大差はなかった。すぐ隣にコテージがあり、そこで食事を取った。カレーを作るのは久しぶりだったし、お米が釜で炊けるのなんて初めてだった。しかし割に上手くいった。三人は下流を目指す川の流れる音や、名も知らない鳥の鳴き声、山並みや木々が重なり合う景色を目に食事を取った。昼も夕方も似たような食事だったが、それでも美味しさが減らない理由は景色がそれ以上のものを提供してくれるからだと三人とも思っていた。

 風呂に入った後、三人はそれぞれのスマホをカメラ代わりに回しながら、動画を撮っていた。この辺りの写真はもう何枚も撮ったし、明日には森の奥を撮影しに行こうという話になった。

 次の日、三人は魔女の森の入口を撮影し、まあ一応念のためにということで御守代わりの石を置いていった。それから森へ入り、何かが起こった。大学生の女の子曰く、何も覚えてはいないのだと言う。そして警察が捜索に入ったが、彼女の友人二人の行方は不明だった。

 その映像を受け、後日取材スタッフはその女の子Kさんと共に、一度都内のスタジオへと向かう。そこにはミステリーサークルや自然界で起こる超常的な現象と物理法則を論じる専門家と、心理学の専門家が坐っていた。

 専門家の紹介がVTRで流れた後、地図や周辺の画像を検証しながら、テレビスタッフと共に以下のような現象が発生したのではないかという仮定になる。

 1.そもそもあの場所は様々な分かれ道があり、ある瞬間その道は断ち切られてしまった。そして彼女たちはミステリーサークルの反対側に出てしまった。Kさんだけは正方向から出てきたので本来の道に戻ることが出来た。だから彼女たち二人が元の道に戻るには、正方向から出てくるほかない。

 2.心理学的に、行方不明のSさんとAさん、それからKさんとの間には何か溝のようなものがあり、それがきっかけとなって三人を分けてしまったのではないかという説。だとするなら、Kさん側から行方不明となってしまった二人に対して心理学的な働きかけ、つまり再び友好的な関係を結べば、その懸念も克服されるという。

 番組側も、Kさんの方もその話にはある程度までは納得していた。しかし番組としてはKさんと一緒に魔女の森へと同行することを臨んでいた。Kさんは納得し、四人で森へ向かうことにした。

 別荘の駐車場に車を停めて、そこから歩いて魔女の森の入口の前で止まった。そこの真正面に定点カメラを設置した。今回はそれが御守代わりのようなものだった。森といっても自然を観光用に整えたものである。人工芝生からはみ出ぬよう木々を伐採し、道を砂利と砂で加工した、その噂を知らなければ有名スポットとして人気が出そうな場所である。そして森の木々たちは両手を挙げているようにも見える。

 朝の十時十分に、彼女たちは森へと入った。かつて行った道筋とは逆側から望んでみようということになった。煙草を吸いすぎるカメラクルーが最初にいなくなった。その代わりにカメラを携えたADが数時間後、いるはずべきの場所にいなかった。カメラだけが置かれた道のどの方向にも、彼はおろか誰もいないのである。二人は怖くなった。しかし電波が圏外となっている以上ひとまずここから出る必要はあった。どのように? どうやって? それはディレクターにはわからなかった。しかしKにはわかっていた。捧げる物は十二分捧げた。Kは森から出る方法が初めからわかっていた。それは一年前も同じ方法でやった。二人は行方不明となった。今回は三人だが、わかるはずもない。この人は愚かだなと思った。恐怖で足がすくみ、カメラを持つ気力さえない。ディレクターはほとんどうろうろと森の中をさまよった。Kはそれに付き合いながら、彼女に気づかれぬよう、口ずさんだ。音のない歌を最後まで歌いきった。君と僕は行進する。そのパレードを。最後の愛の歌を僕は一人で、君はその彼とね。契約はそれで成立した。Kたちのすぐ近くに濃密な怒りの匂いがした。それからそれは苦く、焦げたエンジンオイルの匂いに変わった。ディレクターはぼうっとその手を見つめていた。

 十分毎の定点カメラには終始何も映らなかった。その奥深くでは、最後には奇妙なほどの結び目、空中と布が結びついた濃密な赤いカーテンが開き、その覗く手が見せた最後の合図を機に時刻は変わった。

 Kは確かに森から帰ってきた。

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