プロローグ
美しい翅を持つ蝶はその翅で空を自由自在に飛び回る。
しかし朽ちていく翅はいつしか蝶に襲いかかり、その翅では風を掴むことができなくなる。
ジメジメした空気が今朝干した洗濯物を乾かすことができるかそんな憂鬱なことを私は家の窓から空を眺めていた。
私は旦那と二人暮らしのしがない専業主婦。
家賃6万円の小さなアパートで旦那と住んでいる。
この小さなアパートは私たち夫婦の財力に一致していると思う。
若い頃、私は将来、一軒家で子供も何人もいる幸せな生活になると確信していた。
しかし、それから何十年も経った今、そんな夢は想像することさえ難しくなっていた。
それに私は、ここ最近、旦那とは険悪な仲になっており、旦那に自分の名前さえも呼ばれなくなっていた。
そのせいか私は自分の名前が何なのかさえ思い出せなくなっていた。
若い頃と現在の自分との激しいギャップ...
自暴自棄になる元気もなかった。
ふと窓の外に目が行った。
そこには一頭の蝶が優雅に空を舞っていた。
待って!!
私も行きたい。私も飛びたい。
連れてって私も!
私も翅が欲しい!!
そう言って空に手を伸ばしても、空に届くはずはなく、閉まった窓に手が当たるだけだった。
窓には私の手形と薄らと私の顔が映っていた。
不意に窓に映る自分に聞いた。
「一体、あなたは...私は...どこで間違ったの...」