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神様による異世界勇者召喚派遣会社~その知られざる実態~

作者: しなおか

〝異世界転生〟もしくは〝異世界転移〟という言葉を諸君はご存じだろうか?

 生を終えた人間が、その前世の記憶を持ち合わせたまま全く別の世界で新しい生命に生まれ変わったり、所謂〝神隠し〟と呼ばれるような現象に遭遇し、突然違う世界へと迷い込んだりしてしまうアレである。

 その理由は多岐にわたり、全くの偶然だったり、神々の過ちによるものだったり、悪趣味な運命の悪戯によるものだったりと非常に幅広い。選ばれた人間も基本的に重大の若者が多い傾向にあるが、年齢性別関係なく、今日も幅広い人間が異世界へと飛ばされている。


 そしてそれらの転生・転移者たちには、異世界で暮らすための特典が授けられることが多い。

 それも超常の者から直接送られる、常人を遥かに超えるの力。

 その力を扱い、彼ら彼女らは安心して無双したり、ハーレムを築いたり、のんびりスローライフを楽しんだり、まっとうに勇者をしたりすることが容易になれるのだ。


 今や異世界とチート能力とは切っても切れない関係にある。

 ……だが、その力を渡している神々とはいったいどのような存在なのか?

 決して主人公たちのようにピックアップはされない、裏方に徹してサポートし続けてくれる神々たち。


 ――――今回は、その物語の裏側に綴られる表に出ることはない努力の数々を、少しだけひも解いていこうと思う。




     ◇◇◇




「――課長、企画書の作成が終わったのでチェックをお願いします!」

「おー、ご苦労さん。読んどくから机の上にでも置いといて」


「課長、先日の取引先からもらった資料ですが、確認してみたところ記入ミスがあるようなんで確認お願いできますか?」

「えっと何々……あ、ここの下りか。分かった、後で電話で聞いておくから」


「課長、私が送り出した転生者なのですが、今回の特典である〝なんでも好きな願いを一つだけ〟を使う際『俺を神にしてほしい』と仰っていますが、この場合はこちら側へと呼び込むという判断でいいんでしょうか?」

「……お前マニュアルはしっかり読んでおけよ、そういう場合はそっちの世界で限定的な権限を渡しとけばいいんだよ、どうせそれで勝手に満足するから」


「課長、コーヒーの粉切れたんで注文お願いします」

「なんでそれを私に頼む? さっさと事務員に伝えてこい!」


「課長! T地区担当の水の女神さまが、何を間違えたのか自らも転生先に送られて……!」

「はぁ!? 今度は何やったんだあの青髪!! ……いや待てよ、悩みの種が一つ消えたんだしむしろプラスじゃね? どうせ一、二年もしたら役割終わって戻ってくるだろ。そのまま放置してろ」


「課長!! 私のがお仕えする創造主様なんですが、『最近うちの孫のように思っている転生者がますますかわいくなってて仕方がない、もうちょっとサポートがしたいから予算を増やしてほしい』と」

「ふざけんなあのジジイ!! やりたきゃ自分のポケットマネーで勝手にやってろ!」


「課長!!! 会議室の一画を占拠してボードゲームで遊んでいた神様たちが、ルールの一環として様々な人間を次々に転生させて――」

「今すぐやめさせろおおおおおおお!!!!!!」



 ……ここは、様々な転生・転移の条件を満たした人間を確保し、数多な世界へと送り出す役目を持った勇者召喚派遣会社、第一営業部。

 年若いながらも、その手腕により一つの課のまとめ役になるまで上り詰めた彼女は、今日も今日とて社内外問わずに働き続けている。




     ◇◇◇




「今日もお疲れさまですね、課長」

「いや全くだよ、昼飯時ぐらいしか心休まる時間がないぞ」


 一仕事を終え、ようやくちょっとしたブレイクタイム。部下と二人でテーブルを囲みサンドウィッチを頬張りながら紅茶を一飲み。


「それで、私に相談って何なんだ?」

「えっと、相談というか、報告というかなんですが」

「なんだよ勿体付けて、なんでもいいからさっさと言えよ」


 どこか歯切れの悪い部下の姿に訝し気に眉を顰める。

 話を持ち掛けてきた彼女はソワソワしながら、少し頬を赤く染めて口を開いた。


「……実はあたし、今度結婚することになりました」

「――――へ?」


 言葉の意味を理解するのに数秒。顔を赤くさせながらくねくね体を動かしている部下の姿に冗談ではないと確信する。


「ちょ、ちょっと待て!! え、マジで!? お前この会社の男には微妙なのしかいないとか前に愚痴ってただろ!」

「ええそうですよ、別に社内恋愛というわけじゃありませんし」

「……マジか。でもここのところ忙しくて外部に男作るような余裕なんてあったか? あ、もしかして学生時代の知り合いとかそういう奴?」

「えっと、相手はですね……」


 恥ずかしそうにしながらその名前を口にする。


「――私が担当した勇者様です」

「ぶぅっ!!」


 思わず口に含んでいた紅茶を噴出した。


「うっそだろお前!? 確かお前の担当の年齢って今17だよな? お前この間(ピー!!)歳になったばかりだろ、年の差何百倍だと思ってんだよ!」

「年の差なんてそんな些細なもの真の愛の前には何の障害もありません! 愛とは尊い物であり、自由、権利、何物にも優先される絶対の理! そう、だからあたしをそれを貫くのみなのです!」

「……いやそれにしたってまずいだろ転生者との結婚は。第一こっち側に招くわけにもいかないしお前をいつまでもその地区に集中させるわけにもいかないぞ、悪いけど」

「はい、というわけで今週を持って寿退社するつもりなんで」

「……は? え、なにそれ。私聞いてないんだけど。第一今お前に抜けられると穴埋めが色々大変で」

「というかもう退職届も出して受理されてます。部長に理由説明したら快く受け入れてくれて」

「何考えてんだあのハゲ!?」


 突然の部下の退社と、報告連絡相談の一切がされていない上司というダブルパンチによって頭を抱える。思わず頭の中で上司の顔にグーパンを決め込むぐらいにはキていた。


「課長もそんなに仕事仕事言ってると本気で婚期を逃しますからね、もう(ピー!!)歳なんだから若いとか言ってられないですよ」

「やかましいこの色ボケ野郎! そっちは年下と乳繰り合ってるだけで満足かもしれないけど、こっちは後始末やらなんやらを考えると死にたくなるんだよ」

「あ、やだそんな! 乳繰り合うだなんて。確かに勇者様とそういう関係になるのはやぶさかではないですけど、もうちょっとプラトニックな関係を楽しんでからで……」

「ダメだこの脳内ピンク女神。これはもうどうしようもねー」


 男性経験0の若手エリートウーマン。惚気を聞いてただただ死にたくなっていた。




     ◇◇◇




「ってことがあったんだよー、もーマジ勘弁してくれよー」

「はいはい、それは大変でしたね」


 残業も終え、不測の事態も多かったが今日の業務も無事終了。

 別部署の知り合いを誘い、飲んで食べて一日の鬱憤を吐き出していた。


「マジでお前帰ってきてくんねーかなー。なんで製造部の方なんかに引き抜かれたんだよー」

「なんでって言われても、元々俺そっち希望でしたし。むしろ営業の方はブラックすぎてやってらんないというか」

「ふざけんにゃ! バカこのアホー! 親身になってくれた先輩が困ってるんだから、ここは率先して助けるのが恩返しだろうがー」

「うわめんどくさい。先輩今日は随分と溜まりに溜まってますね」


 すでに瓶は三本目に突入して、そのほとんどは彼女の喉を通り抜けていた。


「大体何が寿退社だ、分かりやすくピンク色を見せつけてきやがって……! 『課長もこのままだと婚期のがしますよー』だって、逃してるのはお前らが問題ばかり起こしてるからだろおおおおおお!!!」

「あーはいはい、先輩他の人も見てますから」

「ちくしょう……皆偏見で見やがって。私だって恋愛とかしてみたいよ、素敵な彼氏と愛の逃避行とかめっちゃ憧れてるわ! それを寄ってたかって仕事が恋人みたいな扱いされて……う、うぅぅぅ!」

「あちゃー、とうとう泣き出しちゃったよこの人」


 机に突っ伏して本音をぶちまけ、耐え切れなくなったのか涙を流し続ける。アルコールの力によって押し込められていた素は、容易く表に出てきてしまった。


「はぁ……これでも俺は先輩には感謝してるんですよ? 入社したての頃、希望とは全く別なところに飛ばされた俺の世話をしてくれて、今の部署に入れるように根回しだってしてくれた。俺らが作ってる神具だって、先輩たちがしっかり効率よく扱ってくれるからここまで高評価になっているんっすよ」

「うぅ……後輩……」

「先輩はいつも頑張っているんでつい皆頼りがちになってしまうのかもしれないっすけど、先輩のことを嫌ってる人なんてほとんどいないですから。だからきっとそのうち良い人に巡り合えますって」


 差し出されたティッシュでチーンと鼻をかむ。後輩の慰めによって、鼻をかみ終わった時もうその顔に涙はなかった。


「……そうだな、別に言わせたい奴には言わせてればいいんだ! 私絶対この忙しい時期が終わったら有給連続して三日はとるぞ! 心の休息も含めて、良き巡り会わせってものを探してきてやる!!」

「そう、そのいきっすよ! 頑張ってください」


 こうして日付変更まで飲み明かし、最後は笑顔で一日の幕としたのであった。




     ◇◇◇




「課長! すごいイケメンな勇者が転移されたせいで、誰が担当になるのかと女性陣の間で壮絶な抗争が勃発して……!」

「お前ら本気でいい加減にしろよ!?」


 今日も誰かが異世界へ行き、そのたびに彼女の戦いは続いていく。


気が向いたら続くかもしれない

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