No.5 不用・追放
今日も俺と彼女は笑顔を決して崩さぬよう気を付けながら、質問の応酬をしていた。ああ、それはもう虎視眈々とだ。
やれこの国の情熱やら、この国のうまい店やら、この国の観光名所やらだ。
そしてもうすぐ昼前辺りに差し掛かった所で彼女がついに〈ステータス〉について話し始めた。彼女の目は既に獲物を見定めるときのそれだ。
「皆さんはここまでの説明で、ここが魔法も争いもある異世界だと言うことは理解して頂いたと思います。そして私から皆さんに大切な話があります。それはあなた方の〈ステータス〉です」
彼女が本題を切り出したとき、他のヤツらも息が詰まったのが微かに感じられた。これからの生き方を決める質問だと気付いたからだろう。
「それをここで確認したいと思います。それでは皆さん〈ステータスウィンドウ〉と唱えてみてください。すると青く半透明な板が出てくると思います。それがステータス表です。
ここまではお分かり頂けたでしょうか。初期ステータスは大体子供が10、大人が100ほどです。勿論鍛えれば伸びますが、些細な差です。さて皆さん、この中で私の言う称号の方は手を挙げて戴けますか?
それは──クラス 勇者、守護者、聖女、救世主です!!」
彼女はそう高らかに宣言した。周りから「俺は違うぞ」「私はクラス 委員長 って……なにそれ」など様々な声が耳に入っては通り過ぎていく。そんな中で
「俺だ」
ある男子生徒の一声で辺りがシン──と静まり返る。
良く響いた彼の声が、この空間に広がって余韻を残した。
「俺はクラス 勇者だ」
そう言った途端、辺りの関心がさらに彼へと集まった気がした。どうやら今までも俳優並みの美貌で人気があったのにさらに急上昇中らしい。
「俺は蒼天 勇姿だ。これからもよろしく頼む」
彼は自己紹介を軽く終え前に出ていった。
そんな中で
「早く行きなよ、キューちゃん!! 早く早く!!」
「え、でも、待って、心の準備が──きゃあ?!」
1人の女子生徒が群衆の中から無理矢理押され、勢い良く倒れかけながら出てきた。
「え、ええと~、わっ私はこの度。せ、聖女の役割を担う事になった、きゅっ九徒 姫と申します!! よ、よろしくお願いしましゅ!!」
盛大に、噛んだ。九徒と名乗った女生徒は恥ずかしいのか赤面した顔を両手で隠しながら、勢い良く座り込んでしまった。
しかし無意識なのか体育座りのような体勢になっているため、スカートの中が見える大惨事になっている。
その隣で「ごめんって、キューちゃん。大丈夫、大丈夫だから、ね? 落ち着いて?」と彼女をなだめている存在が居る。さっき無理に押したヤツだろう。
「あ、言い忘れてた。私はキューちゃんの大親友で守護者になった須輪 美鈴よ。よろしくね」
何とさっき言っていた1人だった。それにこんな大勢の前で自分が中心人物の自己紹介を忘れてたとは、どんな胆力をしているのだろう。
これで3人出揃った。後1人はもうすぐ出てくるだろう。
何ならカウントダウンしても良い、行くぞ。
さーん
にー
「四布 速十、救世主だ」
いー …… え?
何でカウントダウン終了の一瞬前に出てくるかな~
まあこれで4人目だ。整理してみると
クラス 勇者 ― 蒼天勇姿
聖女 ― 九徒姫
守護者 ― 須輪美鈴
救世主 ― 四布速十
になったのか。
ここまで分かったときにルーフリーが声を張り上げた。
「素晴らしい!! まさか伝説のクラスが全て揃っているなんて!! この4つのクラスは居るときとダメなときが有るのです。ではその4人にはこの国屈指の冒険者との訓練を受けて頂きましょう」
おいおい、他のヤツは4人を呼び出すための余りか何かか。
「4人以外の方も訓練は付けますが、私たちが面倒を見るのはそこまでです。どこかで働くなりお好きにどうぞ。まあ、この国の外に出れば命の保障は出来ませんけどね」
流石に酷いと思った矢先に更なる理不尽を言う。
「あ、反乱分子にでもなられたら困るので一応ステータスの確認はさせていただきますが──」
「待って!!」
ここで声を上げたのは意外な人物だった。何と聖女として少なくとも、今は安全を約束されている九徒だった。きっと根が優しいからクラスメイトの仕打ちに耐えられなかったんだろう。
自分だけが安全と言う罪悪感もあるのかもしれない。
「それじゃ皆がかわいそうじゃない!! もっと他の方法は無いの!?」
そこでルーフリーは──
ニヤッと口角を上げ小さな笑みを溢した