No.46
お久しぶりです、実に約半年ぶり
その間あったことは「圧倒的無は無そのものを生み出す」と言う矛盾に気づいたことですかね
森の奥にポツンと、潜むようにして建つ一軒家に俺は訪れていた。そこにはカーミラ達の師匠であるベルが住んでいる。
そして彼女に頼みがあり、こうして尋ねたのだが……
「ほい、茶はこれで良いか? つってもそこら辺の草煮詰めたモンじゃあ聞いてもしゃあねえな」
そう二つの湯呑みに濃緑色のお茶らしきものを注ぎ、ケラケラと悪びれもなく笑って片方を俺に渡してくる。
ベルと乾杯し、特に気にすることもなく口に含んだ。瞬間、広がった苦味やら渋みやらに思わず悶かけ顔をしかめるが、ベルは何とも無いようだった。流石この生活を続けているだけある。
「盗賊の件はミラからも聞いたぜ? 依頼主の方にも問い詰めたんだろ、そっちも解決したらしいな。まぁ、同郷のヤツがそんなことになってんのは災難だったなぁ」
結局あのあと家に帰り、既に引っ越し終えていたカーミラ達に叱られた。まあこれも心配の裏返しだと考えれば悪いものではなかったが。
そしてジャミレスさんにも話をして、最初に想定していた形ではなかったが依頼達成という形にさせた。もちろん本来はアウトなんだろうが、そもそもの依頼の前提が間違っていたことやカーミラたちに伝えないという約束を破ったことなどから、どうにか交渉した結果だ。
「……ああ、全くだ。他にも考えたんだが、結局追い出すことになって多少は心苦しいな。だがこれまでもやってこれたようだし、何とかなるだろう」
「やっぱその辺りも考えてやがったのな。そこまで心配ならお前の家に住ませてやったらよかったのによお」
彼女は冗談ぽく笑いながら言うが、その問いに俺は首を横にふる。
「一度提案はしたんだがな、キッパリと断られたんだよ。あそこまで意思が固そうなら俺には止められん」
「……え、マジかよ」
ベルは驚いたのか、小さな声で呟く。しかし驚きの方向が、前の問いも合わせて考えると「提案を蹴られたこと」ではなく「提案したことそのもの」に思えた。ただたまに彼女の思考は読めないときがある。今回もそのたぐいだろう。
彼女は一度言葉を飲み込み、言いにくいことを提案するように再び口を開いた。
「あー、何だ、それミラのヤツには言ってねーよな?」
「伝えてないな。断られたんだから別に共有することでもないと思ったんだが……何かあったか?」
「ユウキには構わねぇんだが、ミラには伝えないでやってくれよ。多分、落ち込むだろうからな」
「そうか? まあベルが言うならそうしておくが」
「助かるわ。さて、茶のおかわりでも注いでくるかぁ」
俺は思わず要らないと言おうとしたが、その前に目にも留まらぬ速さで湯呑みを掻っ攫い、恐らくは台所のある部屋へと向かっていった。
「……ミラ、お前さぁ、一緒に住めるとか喜んでたがお前らだけじゃなかったんだな。もー少し頑張れよ」
ベルたった一人しかいない部屋で呟かれた言葉は、誰の耳にも届くことはなかった。
◆ ◆ ◆
「んで? 結局ここに何しに来たんだよ。まさか俺と話すためにここまで来た訳じゃあないだろ」
「……話が早くて助かる。まあ端的に言えば、俺の持ってるスキルと魔法を試させてほしい。森にいるモンスターは一瞬で消し飛んで検証も出来なかったんだよ」
──『能力の内容の確認』。前々から思っていたことであった。能力の内容は覚えているが、実際に使用してみれば考えていた効果と差異があったりする。
それを埋めるために使用しようとしたが、出来なかった。常に誰か─恐らくは何らかの神─からの視線を感じたのだ。
けどここなら大丈夫だと何となく感じた。
視線に関してもただの勘であってそもそも確証があるものではないが、まあ憂いがないほうが動きやすい。
あとベルに言った通り、今のところマップで把握してるモンスターでは相手になりそうにないからな。
ベルは口角を怪しげに歪め、笑った。
俺は攻撃をされたわけでもなく、声をかけられたわけでもない。ただ、ベルを取り囲む雰囲気が変わった。思わずヒヤリとした汗が流れる。
「あぁ、いいぜ。ただ、ムミョウだけが楽しむのはずりぃよな? 俺も反撃するから覚悟しとけ」
「……お手柔らかに頼む。流石に傷負ったまま帰るのは気が引けるからな」
机に置かれたお茶を一息に飲み干し、‹道具箱›に収納していた木刀を目の前に出現させ腰に指す。ベルも二本の剣を手に取り俺よりも先にドアに向かう。
ベルの背中を追いかける。死地に赴く兵の気分を感じると同時に、思いっきり戦える高揚からか早鐘を打つ胸を抑え外に出るのだった。
次回説明回!