番外 No.5
「……やっぱり三人だけだと危ないんじゃないの? 一緒に行かなくて大丈夫?」
「しんぱいしなくてもだいじょうぶ! だっておれがいるんだもん!」
晴れた午後の昼下がり。不安げな彼女に頭を撫でられながら、元気いっぱいに胸を張り、男の子が答えた。
男の子を心底心配しているのはカーミラだ、隣にはユウキも静かに佇んでいる。
カーミラは数ヶ月前に初めて家を訪れたときから、週に三回は寄っていくのが習慣となっている。
よって面倒見のよいカーミラは先程の返事の主であるゲン、そしてリウとソラの三人と遊んでいくなかで仲良くなっていくのは当然であった。
「じゃあ、いってきます!!」
「ちょっと待ちなさい。お金と覚え書きは持ったの?」
すぐさま走り出そうとしたゲンは振り向き、やる気に満ちた顔で大きく頷く。そして肩から掛けたポシェットの中をかき分けるようにまさぐる。
「ええと、ええと……あった!! ほらみて、おかねとおぼえがき?たくさんかいてあるかみ!!」
その様子を微笑んで見守り、目的の物を見つけた、とそれをカーミラに向かって目一杯伸ばしたゲンに「良くできました」と優しく頭を撫でた。
ゲンも一瞬気持ち良さそうに目を細めたが、今回のミッションを思い出したかのようにすぐに離れて、ずっと周りにいた二人──犬人のリウと竜人のソラ──に「行こう!」と呼び掛けた。
三人で「「「いってきます!!」」」と挨拶し町へ繰り出していくのだった。
◇
「……ねぇ、ホントに大丈夫かしら」
「心配性ですわね、そうそう事件に巻き込まれることなんてないでしょうに。本音はなんですの?」
「こっそりついていきたいから、付いてきてよ」
「……別に構いませんが」
こうして、たった二人による潜入ミッションも人知れず開始されたのだった。
◇◇
「なあソラ、あそこからおいしいにおいがする!!」
「ええと、あれはウサギさんのおにくだとおもうよ。あと、よりみちはダメ、はやくいこう」
ゲンが串焼きの屋台を指差し目を輝かせて駆け寄ろうとするが、後ろからソラに押され元に道に戻っていく。
そしてリウはキョロキョロと辺りを見回しながら、そんな二人の後をついていく。
かれこれ家を出てからずっとこんな様子であった。
そして目的地の商店街を見つけた時、ゲンはリウの制止を耳にも留めず、駆け出していってしまった。
慌ててソラも追いかけようとするが、後ろのリウを見て彼女に歩調を合わせた。
「ゲン、まってよ!! ……ひとりでいっちゃったね」
「ついていかなくていいの?」
「かうものはゲンもしってるし──それに、たぶん、だいじょうぶだよ」
「??」
ソラは何かに気づいているかのように、リウに安堵した微笑みを向ける。リウはなぜソラが安心しているのかは分からなかったが、ひとまず彼女についていくことにした。
しばらくして二人がふらりと他の店に立ち寄りながら目的地まで向かうと、ちょうどゲンも買い物が終わったのか、大きな買い物袋を持って店から出たところだった。なぜかゲンの隣にはカーミラも添えて。
二人がゲンの元へ近づくと、彼が大きな袋を掲げて元気に笑いかける。
「あっ、リウ、ソラ!! おれ、ちゃんとひとりでかいものできたよ!!」
「すっすごいねっ、ゲンくん」
「うん、おつかれさま。けど、こんどからはぼくたちもつれていってほしいかな?」
ゲンが二人に『ほめてほめて』と買い物の報告を済ませると、リウがたどたどしくも一生懸命にほめて、ソラは今度は三人で行くという約束を取り付けながら、ねぎらう。
そして、次に目を向けるのは当然、始めに居なかった筈のカーミラであり。会話が一段落したのをいいことに、リウがカーミラに問いかけた。
「えっとぉ……そういえば、なんでカーミラおねえちゃんがここに?」
「ぐ、偶然よ、偶然。まさかお菓子を見てる時に、ゲンが来て、お、驚いたわ!!」
若干やっつけ感があったものの、何とか噛みながらも言い切ったカーミラ。その姿はまるで、自分自身に『よくやった』と誇るようだった。
しかし、その様子をゲンとリウは気にも留めず、ゲンがお小遣いで買ったお菓子に夢中になっていた。唯一聞いていたソラは「かくれてついてきてたのしってたけど……いわないほうがいいよね」と誰の耳にも届かない呟きを残すのだった。
「じゃあ、三人とも家に帰るわよ」
「「「はーい!!」」」
カーミラが前に出て三人に声をかけると、全員が元気よく返事をする。
町も夕焼けに染まり、あちこちから夕飯のものであろう美味しそうな香りが漂う中、四人は帰路についた。