No.44
説明回&少々残酷描写(グロ表現)あります。
「そういえば、あのお二人はどうなさるつもりなのですか?」
不意に思い出したのか、ユウキが界人ら二人について聞いてきた。確かに界人とは話したがユウキたちには結局どうするのかを言ってなかったな。
「あいつらは一度俺の家で匿う事にした。まあ部屋は余るほどあるし、国に入るのも何とかなるだろ、多分」
「具体的には、どうするのですか。悪意を持っていると門から先に入れないはずでしょう?」
そう、王国に来てから知ったことだが、入国の時通る門には「悪意」を察知する機能があるらしいのだ。
だが……
「そもそもそれがおかしいとは思わないのか? 悪意なんてものは曖昧だろ。人に対して国に対して世界に対して……挙げ始めたらきりがない。実際王国から犯罪はなくなっていないしな」
元々犯罪に手を染めていた二人、プロブランとラブリアルが通れたのは、彼らが入国する時点で奴隷になっていたからだろう。
門を通る前に通信の魔道具やら契約書やらで、ジャミレスさん経由で俺と契約が完了していたからな。……今思い出してみたらジャミレスさん、なんで奴隷の契約書なんて持ってたんだ。
まあ、今それは関係ない。
「結局、何を仰りたいのですか?」
「あの門は俺たちの犯罪歴を参照している」
そしてここで言う“犯罪歴”とは何か。
恐らく〈システムウィンドウ〉、マップ表示の赤アイコンがそうなのだろう。スキルの名称通り、神のシステムに干渉でもして情報を得ているのだろう。
そして、界人たちは赤アイコンではあった。しかし界人から話を聞いた限りそれらしいことは起こしていないようだ。何せ界人は若干この世界に染まっていたとはいえ、おおよそは向こうの価値観のままだ。
それに加えて、彼の家族にサバイバル好きが居たらしく、簡易的な火の付け方など役立つ知識も覚えていたらしい。
今彼が持っているものは元から帝国から支給されていた物だったり、途中で行商人と物々交換で手にいれたようだ。
そして帝国を出てからは、道を行く行商人以外とはほぼ人と関わらず生活したとも。
つまり、赤アイコンになる理由がない。なら他に考えられるのは何か、それは大元からの操作しかないだろう。
実際、ステータスウィンドウからシステムウィンドウとして機能をもぎ取ったときに「所有権を:女神から剥奪」と表示されていた。少なくともデータを管理しているのが女神、もしくは同様に存在するのであろう他の神であるのは間違いない。
偽の情報、その上書きも容易いだろう。
なら為す術が無いのかと問われれば、そういうわけでもない。
俺のerrorスキル〈大罪魔法〉だ。
何気に初めから使用ならばできた大罪魔法だが、なかなかにハイリスクハイリターンだ。
前回の説明では簡単に省いたが、表示されていた効果は「自らを代償に、世界の摂理を根源からねじ曲げる」と、この一文だけ。
そして説明には「・効果に見合った反動が必要 ・〈100の魂〉は適用される」とたった二つだけだ。
他のスキルは〈導化師〉のように、調べようと思えば細かいところまで調べられた。しかし、この〈大罪魔法〉だけは説明した以上のことは分からなかったのだ。これだけでこのスキルの異質さが分かる。
ただ、これだけの情報があれば、何ができるかおおよそは推測できた。
……まあ、どうしても不確定要素だった反動は〈100の魂〉が適用されるのが分かっているのは大きいが。そればっかりは明記されてないとどうにもならなかった。
まず、なぜこんなに説明が少ないのはなぜか。
もちろん、もともと効果がそれだけしか設定されていないんだったらそれまでの話だ。
ただそれでも、これまでのスキルではあった詳しい説明がないことが、腑に落ちなかった。しかし、この“説明”とはなにが行っているものなのかを考えれば、納得出来る答えがあった。
それは『この〈大罪魔法〉は神さえも詳しく分からない“例外”とも言えるスキル』とするもの。
この“説明”とは、もともとは神から奪った〈ステータスウィンドウ〉を転用した〈システムウィンドウ〉から得た情報だ。なら神さえも分からないのなら説明できていないのは仕方ないのではないか。
そして、効果には「世界の摂理を根源からねじ曲げる」とあった。
ならば神が管理する情報を、俺からすれば世界の根源とも言える神の力さえも書き換えられるのではないか。
一瞬そんなことしても大丈夫なのかとは疑ったが、恐らく問題はほぼないだろう。
そもそも界人がいることで何か不都合があるなら、それこそ女神が直接動くはずだ。なのに赤アイコンにするだけで済ましているならば、そこまで界人は重要ではないのだろう。
それに、二人の赤アイコンは犯罪歴が空白になるような薄っぺらの『不完全な上書き』なのだろう。
なら勝機はあるはずだ。
「まあ、簡単に言えば、邪魔なデータをぶっ壊してくるだけだ」
「ですから、それってどういう……」
「まあ別に分からなくてもいい。あぁそれと、多分今から俺はぶっ倒れるから依頼の報告は任せた。パーティーメンバーなら報告できるだろ」
ユウキは相変わらずも怪訝な表情をしていたが構わずに界人とヴァイオレットの二人をこちらに呼び寄せる。
界人がすぐさま向かってきたのは分かるがヴァイオレットまで抵抗せずに来たのには驚く。
なぜかその目には今までに携えていた敵意はどこへやら、代わりに憧れや羨望に近いものが映っていた。一体どんな心境の変化だろうか?
ひとまず、抵抗されないならそれに越したことはない。
「今から国に入れるように、まあ正確には恐らくは女神に弄くられたデータを正常に戻す」
「ハァ? どういう──なるほどな。でも、出来るのか? そんなこと」
「話が速くて助かる。方法はあるにはある、が一つ問題もあってな。多分、これを使えば俺は瀕死状態になるかもしれない」
実はさっき、問題なく効果が発揮するのか少し試してみたのだ。足元から五センチ大の石ころを拾い〈大罪魔法〉を起動した。内容は『手元にあるこの石ころはこの世に存在する』と言った事象をねじ曲げ『この石ころは存在しない』ものとして消滅させた。
俺は、HPは減らず〈100の魂〉で全て補えるものだと思っていた。しかし、違っていた。
石が消えると同時に〈100の魂〉が微量だが削れる。そこまでは予想道理だった。
そして──一瞬で回復はしたが確かにHPが5だけ減り、腕にほんの少し痺れるような痛みが走ったのだ。
今では着々と依頼をこなしていただけあって、何気にレベルも45まで上がりHPも30万近くある。
その上で〈導化師〉の<技術適応>と<調整>。加えて〈システムウィンドウ〉の処理能力をフルに活用して、二人の赤アイコンを書き換えるにはどれだけの〈100の魂〉とHPが減少するか算出したところ、〈100の魂〉の大半とHPの9割近く。更に身体への多大な負担がかかりそうということだった。
確かに世界の神に楯突く訳だから代償も高くつくのは分かる。
問題は、この受けたダメージは〈100の魂〉では回復できず、あくまでも予想ではあるが〈HP回復力上昇〉も適用されないことだ。
わざわざ〈100の魂〉が適用される、と説明に書かれているにも関わらず受けるダメージ。そしてerrorスキルの代償だと考えれば、この予想は正しいのだろう。
……まあ、それでもやるしかないのだが。
「ユウキ、今日のところはカーミラと一緒に帰ってくれ。俺は今日、ここに残ることにする。内容は──そうだな、『依頼にあった盗賊が動きを見せないか監視している』と門番とジャミレスさんに伝えておいてくれるか?」
ユウキは俺を疑り深く見つめた後、軽く首肯した。
「分かりました。ですが──くれぐれも無茶はなさりませんように」
「善処はする……カーミラに話さなくて正解だったな。無理にでも残るとか言いそうだ」
「全くですわね」
ユウキに対して暗に「俺のダメージの事は絶対に話すなよ?」と釘を刺しながら笑い合う。ユウキもそのことを理解しながらも行動してくれるのでありがたい。
「じゃあ頼んだぞ」
俺がそれだけ言うとユウキは踵を返し、カーミラと共にこの洞窟の小部屋を去っていった。
あとは俺が二人の赤アイコンを消すだけか。
早速始める……と行きたい所だが、その前に。
:道具箱、から俺と二人分の布団と湯が出る魔道具、あとタオルを取り出す。
虚空から物が出てきたことに関しては、界人も〈ステータスウィンドウ〉に同じ機能がついているのか驚きはしなかったものの、俺が用意したラインナップが謎だったのか問いかけてきた。
軽く今からすることの説明と、俺がダメージを受けるかもしれないこと。もしそのときに汚れるようならば用意したもので拭いても構わないこと。あと、布団は各々が使用して構わないことを説明した。
「他になにかあるか?」
「……いや、ない。何もかも、すまない」
「渡りがかった船だ、気にするな。始めるぞ」
二人は俺に背を向けて座り、俺は二人の肩に手を置く。触れずにもできるようだが、当然近ければ近いほどやり易いからな。
……よし、やるか。
俺はイメージをしやすいように目を瞑り〈大罪魔法〉を二人に向かって使用した。
内容は『二人はデータ上、赤アイコンである』という事象をねじ曲げ『二人は一般人である』と書き換える!!
発動した瞬間、感覚的に書き換わったのにに気付く。
それと同時に、体の内側からねじ切れるような、焼き尽くされるような、痺れるような……ひと息に意識が飛んでしまった方が楽に思えるような激痛が全身に走る。
〈大罪魔法〉は発動し終わっているようなので二人からは手を離し、そのまま仰向けに倒れ込んだ。
口から血反吐が吐き出されるのが分かる。目を開くと恐らくは血涙が流れたのであろう赤く染まった視界には、振り向き俺の様子に絶句する二人の姿が見える。
そしてそのまま、痛みが限界に達したのか、はたまた技の使いすぎたのか、もしくはその両方によって、視界がブラックアウトした。