No.42
時は少し戻し、カーミラたちはというと──
「ああもうっ、これどれだけ湧いて出てくるのよ!?」
「あちらの手持ちが尽きた時ですわ。口よりも先に手を動かして下さる?」
「いつもは手よりもロで解決しろって言ってるじゃない……!」
「……さて〈飛剣〉、アーテガスベッテシマイマシタワ」
「危なッ?! なに味方攻撃狙ってんのよ、このバカッ!?」
お互いに口喧嘩をしながらも無尽蔵にも思えるほどの敵を屠っていた。
カーミラは床の石や土をスキルによって固め、横に腕を薙ぎ複数個の塊を投げることで、多くの敵の手駒に僅かなりとも確実にダメージを与えている。
対してユウキはというと、刀でカーミラによって弱らされたそれに二度目の引導を渡していた。時には〈飛剣〉という飛ぶ斬撃により、一撃の威力が低いカーミラもカバーしている。
はた目から見れば戦況が拮抗しているが、実際はヴァイオレットの方に少しずつ、されど着々と天秤は傾き始めていた。
なぜなら、このような状況に落ち着いているのはひとえにヴァイオレットがカーミラでも通用する雑魚しか出していないからだ。たった一体でも例外が現れれば一気に苦しくなるだろう。
加えてヴァイオレットが高みの見物であるのに対し、カーミラたちは雑魚とはいえ連戦に続く連戦、疲弊するのも当然だった。
そしてこれを正確に判断しているのか否か。
いや絶対に分かっていないだろう渦中の人が、どんな心境にせよ他の行動を起こすのも時間の問題だった。
「ねぇ、このままじゃらちが開かないから──話しかけてみてもいい?」
そしてカーミラはが切り出した答えは最もありふれた、あくまでもこの場合では比較的悪手ともいえるものであった。
もちろん、意志疎通で攻撃の一旦停止などメリットがないわけでは無い。ただ、こと持ちこたえるのが精一杯の今においてはその後のデメリットが大きすぎる。
カーミラはユウキの顔を覗き込むようにして問いかけるが、ユウキは無表情で黙考する。
そして十秒にも満たない時間で言葉を返した。その時の表情は、止まることを知らない子供を眺めるようだったが。
「……構いませんがあまり刺激しないように。仁導さんの方が終わるまでにこちらが全滅したら元も子もありませんから」
「はいはい、わかってるわよ」
ユウキは呆れたようにため息をつき、カーミラはむしろ自信に満ち溢れて意気込む。
そして、ヴァイオレットというその少女に一言問う──
「──ねぇ!! あなた、好きなものは何かしら!?」
「それ今する質問ですか?」
すかさずユウキはツッコミを入れるが一度言った言葉は返らない。
まあ良いでしょう、とだけ目を伏せ呟いた後、改めてヴァイオレットの方を窺う。
なにやらその端正な顔を傾けながら先ほどの質問の答えを求めていたが、やがて静かにその顔をこちらに向けた。
「好きなのは、彼との、生活。邪魔、しないで」
ヴァイオレットの口から発せられたのは端的な拒否。
さらには彼女の背後からは五メートル程もある巨大な木製の棺桶が出現した。
余談だが、この棺桶こそが〈墓地〉の保管、収納の能力だ。正確には死体のみを留めておける棺桶を作り出すといったものだが。
そして当然のように大きな箱には大きなものが仕舞える訳で。
棺桶がギギィ──と、古びて既に朽ち果たような音を軋ませ開く。
そこには異形、としか形容できない怪物の亡骸が佇んでいた。
肌は漆黒に覆われ、かろうじて二足歩行の獣であることが分かる程度にしか読み取れない化け物。
人間でもモンスターでもない、ただの人形。しかし分類上は『天使と対をなす“悪魔”が造り出した使い魔』である。
まあ、ヴァイオレットという死霊術を使う少女にとってはそんなことは関係なく、現状で役に立つかどうかが大切なのだが。
そんな道具に淡々と命令を下す。
「破壊砲、発射用意、して」
名前からして殺傷能力が高そうな技だが、実際その通りである。
簡単に言えば『限界まで圧縮したエネルギー弾』だ。
その威力は、軽々とこの空間の天井や壁を崩落させるだろう。
使い魔の口もとには既に光球が集まり、膨張し始めている。
「ちょっと良いかしら、ユウキ。アレ結構ヤバそうじゃない? 死なばもろともってことかしら」
「そういうつもりではないらしいですわ。もう一人の方は瞬間移動が使えるらしいですし、彼女もなにか……あ、足元に彼女が通れるだけの穴作れそうなモンスターがいますわね。それで脱出するのでしょう」
「にしても、あんなのが当たったら私たちどうなるんだろ」
「まず間違いなく死にますわね。無力化か相殺……無力化は無理でしょうから出来る限り相殺しますよ、ミラ」
「わかったわよ。……ねえ、やっぱり奥の手のミスリルの短剣投げなきゃいけない?」
「…………」
「うん、言いたいことは察したわ。だからその蔑んだ目はヤメテ」
あくまでも普段道理に、なんの変哲もないように話してはいるが、会話の内容は的中している。
この二人に今、最も似合う言葉は『絶体絶命』であろう。
もしも上手くいったとしても死の香りはついてくる。
それでも二人は諦めていなかった。
辺りは静寂が漂い、ただ次の一発を放つため意思を張りつめる。
静かに、しかし静寂を破るたった一言。同時に二人も全力を放つ。
「……発射」「〈百花繚乱〉!!」「〈乾坤一擲〉!!」
「そこまでだ。これ以上やったらここが崩れるだろうが。〈影ノ映世〉」
ふと現れたたった一人が、魔法の詠唱も無しに影を操る。
パチンッ、と指を鳴らしたとき、一瞬にして闇が全てを呑み込んだ。
ぶっちゃけると、ヴァイオレットはほとんどの記憶が界人の方に繋がってしまう(例え界人が関わっていなくても)ので何を質問してもあれが出てくるという実質積みゲー
あと魔族と悪魔は別物