No.40
──[ユニークスキル〈転移者〉習得失敗.女神からの妨害を確認.解析不可と判断.今後命令がない限り放棄します]
他の二つは前に流れたのと同じアナウンスだ。別に無視相手も構わない。
だが、これに関しては改めて考えておいた方が良さそうだ。
まずはこの「女神」は誰を指すのか、なのだが……実は心当たりがある。
それは〈システムウィンドウ〉だ。
あの時は、元々の〈ステータスウィンドウ〉だったが〈大幸運〉や〈導化師〉が、いつの間にか「女神」から所有権を奪ってしまった。
もし神個人は全で一とかワケわからない事を言わないのならば、その「女神」は固有名を持っておらず必要ないのだろう。つまり、一人しかいない。
少なくともここで名前が出た以上、俺たちの召喚に深く関わっているのは間違いない。
じゃあ女神は敵か味方か。
これはあくまで予想でしかないが、多分中立だ。
召喚のように人類が滅びそうなら知恵を貸し、先の妨害のように神が不利益を被りそうなら未然にそれを防ぐ。
そして必要以上の干渉はしてこないと思う。
でないと帝国の支配から外れた俺のような、あちらからすれば危険分子を放っておく理由がない。
それにもし女神が人間の秩序を守るなら、召喚の理由にされた魔王とかも神がどうにかしたはずだ。
こちらから何か起こさない限りは大丈夫だろう。
なら、後の問題は目の前の二人だな。
特に界人の方は怒りを通り越して無表情で、冷酷な雰囲気さえ感じる。
「なにか気に触る事を言ったならすまなかった。俺たちも出来るなら穏便に済ませたい。ひとまず話だけでも──」
「黙れ。お前らは敵だ。ヴァイオレット、やるぞ」
「……うん」
そう言うと同時に、二人ともこちらに駆け出してくる。
あんまりゆっくりと考えていたら俺たちも危ないかもしれない。
とりあえずカーミラたちと離れて様子を見てみるか。
「ユウキ、カーミラ、お前たちはヴァイオレットの方を相手取ってくれ、あっちもその気のようだしな。俺は界人から事情を聞き出せるように努力する。その間はなるべく傷つけないように、できるか?」
「むしろ出来ないとでも?」
「じゃあ、頼んだ」
ユウキは不適に微笑みながら言葉を返してくる。
どうやら相手の方も二手に分けるつもりのようで、界人の目も俺だけを捉えている。これなら何もしなくてもこっちについてきてくれそうだ。
カーミラたちはここでヴァイオレットを迎え撃つつもりらしい。少なくとも俺は移動した方が良さそうだな。
今いるのは部屋の入り口で真正面には界人とヴァイオレット、なら左右に避けるのが正しいか。
しかし入り口の罠の量を見る限り、ここまで誰かがやって来るのは考えてはいたらしい。もちろんそんな場合を想定しているのなら遠慮はしてこないだろう。
そして、今の入り口に敵、一直線に撃退しに行く、そんな戦況なら……俺なら間違いなく左右に罠をばら撒いておく。
なら見た目通り安全な場所に行けばいい。
つまり──
「〈影渡〉」
この仕掛けたご本人たちの通過した道、背後を取れば関係ない。
いくら罠を作れるからと言って彼はまだこっちに来て間もない。そんな慣れてない内にわざわざ暴発させてしまうような位置には設置しないだろう。
もしそこに罠があったら……その時は五秒後の俺に託した、うん。
〈影渡〉によって界人と影を繋げ、俺は自らの影に沈み彼の影から現れる。
肝心の界人はと言うと、突然一人消えたことで一度立ち止まったが好都合でしかない。
「やっぱりもう一度、話だけでもしないか?」
「──?! 余計な、お世話だ!!」
「おっと危ない」
界人は腰に指していた短剣を引き抜き、後ろにいる俺を振り向き様に切りつけようとする。
やはりと言うべきか、とにかく遅い。
それなりには扱えているのだが、あくまで一般人の域を出ていない。
その剣筋を軽く避けて、俺は大きく後ろに跳ぶ。
……さて、ここからどうやって説得しようか?