No.39
扉が大きさのわりにすんなりと開き、中の様子が見えてくる。
マップでも分かってはいたが想像以上の広さだ。よく使われている例えを使うと、東京ドーム並みの空間が広がっていると言えば良いだろうか。
部屋は光の魔道具によって、暗くはないが明るくもないトンネル内のように照らされている。
カチッ
目が明るさに慣れてきた頃に何かが作動する音が聞こえた。言うまでもなく、罠の起動音だろう。
両脇をそれぞれ確認すると、機械仕掛けの弓矢が数限りなく俺たち目掛けて放たれたところだった。
後ろをついてくる2人に「任せろ」とだけ伝え、毎度お馴染みの〈影盾〉と〈影渡〉を俺たちの周り一面に展開する。
そして、影盾で見えないが先ほどの記憶とマップを頼りに部屋の奥へと矢をそのままの勢いで射返した。
……なんか最近は2人とずっといるからか影魔法とマップしか使ってない気がするな。
もうそろそろ他の場所にも行きたいし、新しく手にいれたスキルも含めて一度確認してもいいかもしれない。
何となく思考を巡らせている間に弓矢の嵐が収まり影盾を解除した。
俺が仕掛けられた罠を誘導した先には──やはりと言うべきか無傷の2人が立っていた。
元クラスメートの界人は 盗賊になってからも日が浅いからか、まだ口をあんぐりと開け放心している。
対して、傍らにいた少女、ヴァイオレットは彼の前に移動し臨戦態勢に入っていた。
彼女は俺たちが扉から部屋に飛び込んだ時にはすでに立ち上がり、スキルを使う準備が出来ていたようだった。現にさっきまで居なかった魔物らしき骸が、彼女らをかばう形で矢をその体に突き立てている。
かろうじて魔物の姿を留めている骸も、死霊魔法の効果が切れたからかどさりと崩れ落ちる。それと同時に少女が口を開いた。
「あなたたち、誰? 何も、ないなら、早く、ここから、出てって」
まだ幼さが残る、しかし強い意志を持った声だ。
外見だけなら年相応の12歳程度にも見えるのだが、彼女の携える雰囲気が様々な場を潜り抜けてきたそれで、とてもそんなに若くは考えられない。
片眼は悪いのか黄金色の瞳にモノクルを掛けている。髪は頭の上で結んであり、そしてこの上ないほどに軽装だ。
界人の方は放心から覚めてはいるが、話せるような状態ではない。
「なら早めに用件を言わせてもらう。出来るなら捕まってはほしいが、もし嫌ならここら辺から立ち去ってくれないか? 俺たちも依頼でここに来ただけだ、無駄な争いは避けたい」
これは本音だ。依頼も大切ではあるが穏便に済ませられるのならその方がいい。
それにどうにも引っ掛かるのが2人のアイコンはただレッドだっただけなのだ。
レッドアイコンだったティオールやその他三十名は罪状、簡単に言えば何をやったのかがすぐに分かった。
しかし、いくら調べても2人にはそれが見当たらない。
まだ理由は分からないが、何かがおかしい。
「もし、退かない、って言ったら、どう、するの?」
「……最悪、どんな手段を使ってもここからは出ていってもらうつもりだ。だから別の場所に──」
「お前らも、居場所を奪うのか」
微かな声がした方向、ヴァイオレットの後方にいる界人に目を向ける。
そこにいた彼は──殺意がこもった濁った眼で俺たちの方を見ていた。
これは……言葉を間違ったかもしれない。
そんなときに突然。
ピロン
既にこの世界に来てから何度も聞いた〈システムウィンドウ〉の音声が頭に鳴り響いた。
[能力の解析が終了しました]
[ユニークスキル〈転移者〉習得失敗.女神からの妨害を確認.解析不可と判断.今後命令がない限り放棄します]
[導化師による技術適応、調整の使用を確認]
……は? どゆこと?