No.37 発覚・覚悟
「それで? なんで私たちに内緒で、国の外に行くような依頼受けた訳?」
「だからそれは悪かったって。何回聞くんだよ」
「さっきので5回目ですわね。ただ私も見逃すつもりはありませんよ。せめて行くことだけでも相談してくれてもよろしかったのでは?」
俺は逃れられない質問の嵐に揉まれながら、勇者のはぐれ物のいる場所に歩いて向かっていた。少しでも外れれば木々が生い茂るような道を進んでいく。
本来なら両手に花とでも言えそうな雰囲気だが今回はそうもいかない。
例えるなら両手にバラだろうか。触れてしまえば俺が傷つく。
そんな2人を適当にあしらいながら、ため息をつく。
「同じ返事の繰り返しになるが、危険だから話さなかっただけ──」
「いい加減言うけど、その言い訳は無いんじゃない? 初めに闘い方見せるとかほざいて、私たちまで危険にさらしたのはどこの誰かしら」
「……ははは、あー、そんなこともあったなー」
「そんなあんたが今さら綺麗事並べたって無駄よ。さあ、キリキリはきなさい」
気付いたら虚ろな笑みを溢してしまい、カーミラにキツく返された。その声は心なしか、このやり取りを楽しんでいるかのように生き生きしている。
まあ嬉々として乗っかっている俺も俺だと思ってしまうが。
今回の依頼を思いだし“彼女なら俺が勇者らと一緒にこの世界に来た事をばらしてもいいかもしれない”──こんな考えが頭をよぎった。
彼女らはこの世界で一番信頼していると言っても過言ではない。加えて彼女らの師匠は少なくとも何かを知っている。
それに、多分ここで話して何かあってでも俺は、まあ仕方がないんじゃないか、で済ましてしまうだろう。それほどまでに心を許してしまっている。
彼女らもここまで来たら引き返す気など毛頭ないだろう。
勇者組から盗賊に堕ちた誰かは、俺に難癖を付ける、かもしれない。
帝国から逃げ出したことを話題に出し「自分は盗賊にまでなったのにお前は何事か」と。
もちろんその誰かは自分の判断で残った訳だし、そもそもそんな罵声を浴びせられても俺は冷静に対処できるだろう。
しかし、カーミラとユウキは違う。
俺の過去の事を知らない彼女らにとって、この事実は動揺が生まれるほどの情報だろう。それに相手が元クラスメートとは言え盗賊まで堕ちている以上、油断は出来ない。
それを踏まえて、決断を下した。俺にとっては過去なんかよりも彼女らが大切だ。
「……わかった話す、話すよ」
今回はこれから先が本気で億劫に思えて、渋々立ち止まって了承する。
先程まで引くほどに催促していたカーミラは俺の手のひら返しに、きょとんとしていた。しかしまあ気にはなっていたようで意識はキッチリこちらに向かっている。
ユウキはこれまでの俺の行動で真剣さを理解したのか、一歩後ろで立ち止まり若干様子を伺うような表情を送ってきた。
「仁導様、おっしゃられたくないなら話さなくても構いませんわ。無理のない範囲で、でよろしくお願いします」
「ああ、そうさせてもらう。今回の依頼は『盗賊の討伐』だ。その主犯格が……俺の昔の知り合いだ。俺の過去を2人に話すかもしれない。だから帰れ、なんて言うつもりはないが、依頼を教えなかったのは理解してほしい」
戯けず、ふざけず、嘘偽りなく。とにかく彼女らに分かってもらえるように説明する。
その真面目な─少なくとも俺は真面目だった─雰囲気をぶち壊す者がいた。カーミラは至極どうでもよさそうにため息をつき、呆れた声音で返してきた。
「へぇ、そうなんだ。それだけなら伝えてくれてもよかったんじゃない?」
「は? さっきの話、聞いてたか? 結構重大なこと言ったつもりだったんだが……てか話してたらついて来なかったのか?」
「そんなわけないじゃない。もちろん追いかけるに決まってるわよ」
「なら──」
「別にアンタの過去に興味がない訳じゃないのよ。けどそんなの知ったって私たちが第一に思い浮かべるのは今のアンタよ。化け物じみてて、優しくて、私たちの仲間にいる自慢の冒険者。それで十分じゃない」
……そうか。深く考える必要はなかったか。
なら、問題ない。
1人足早に目的地へ向かい始め、2人は駆け足でこちらにやってくる。カーミラは俺と並びユウキは俺たちの一歩後ろを歩く。
「なんか返事したらどうなのよ!! さっきの結構恥ずかしかったんだから!!」
「ああ、さっきのか? とっっっても良かったぞ。あんなこっ恥ずかしい台詞よく言えたもんだな~」
「──ッッッッ!! これ以上思い出させないで、殴るわよ!!」
「痛っ!! もう殴ってる、殴ってるって!!」
「男ならそのままやらせたらどうなのですか? やりたいだけやらせたらそのうち収まるでしょうし、ね」
このままだと話したくても話せないじゃないか。一瞬だけ〈影渡〉使って背後に回って……っと。
「さて、じゃあ二人とも付いてくるならどんなことがあっても動揺するなよ!! じゃあ、行くぞ」
「分かりましたわ」「分かったわよ!!」
まあ結局このやり取りの後、カーミラの気が収まるまで殴られ続けた。