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番外 No.4 来客・仲間

「へぇ、これがアンタの家なの? 立派じゃない」

「そのぶん門からの距離が長いのが難点だが」

「私たちなんて宿の一室だけなのよ。それよりは絶対良いわよ」


 俺はカーミラとユウキを連れて家の前に立っていた。

 手をかざし魔力を流すと、門が大きさの割にはすんなりと開き始める。そして限界まで自動で動くと止まった。

 ジャミレスさんからは魔術の一種と聞いていたので、もちろん真っ先に解析した。

 なかなか高度に組み込まれており〈施錠〉〈解錠〉〈作動〉の3つが付与されていた。


 家を見た瞬間は呆然としていた2人も、既に持ち直して何食わぬ顔で敷地を歩いている。どちらかと言えば個人の家の大きさという点で驚いていたようだったので、もう割りきったのだろう。

 カーミラは庭の方が気になっているようで、視線がせわしなくそちらへ向かっていた。


「にしてもホント広いわね。どのくらいあるの?」

「最近住み始めたばかりだからな。俺も詳しくは分からないが、多分そこらの貴族の屋敷よりは広い」

「……アンタってそんな金持ちだったの?」


 カーミラが体を乗り出してきてその勢いにのけ反ってしまう。

 それで味をしめたのか、より近づいてふてくされたジト目を向けてくる。少し気恥ずかしく、思わず距離を戻して(おど)けた態度で返してしまった。


「まさか!! なかなか買い手がいなかったから知り合いに格安で売ってもらえただけだ」

「それでも、よ。いくら安くしてもらっても最低限って物があるでしょ?」

「だったらその最低限くらいは持っていたんだ」

「なにそれ、掴み所がない返事ね」


 もちろんこれは本当だ。この家を買って維持するだけの分しか貰っていない。まあ、最近ではスグロやヒースたちが依頼を受けているようだからそれ以上に持っているのは確かだが。

 ユウキの方を見ると、彼女は庭……の奥にいるスグロの訓練に目が釘付けになっていた。


 そういえばスグロは大太刀、ユウキはそれよりか小振りな刀と武器が似通っている。何か通じるものでもあるのだろう。


「ユウキ、あっちの方が気になるか?」

「ええ、まあ。しかしそれは失礼かなと思いまして」

「別に構わないぞ。何なら彼、スグロと手合わせでもしたらどうだ? さっきから戦いたくてウズウズしてるだろ」


 俺の言葉を聞くと一瞬ぽかんとしたものの、彼女はクスッとおかしいと言わんばかりに笑った。

 さながら自分でも気付いてないところを指摘され、それがしっくり来たような自嘲の笑みだった。


「……そこまで見透かされるのは気恥ずかしいものがありますわね。もしかして私って──戦闘狂か何かですの?」

「それは自分自身に聞けよ。性格なんて気持ちさえあればいくらでも変えられるんだから」

「では、スグロ様の訓練に行ってきますわ」


 ユウキは目も暮れずにあちらへ走っていく。

 さて、俺たちは家の中に入るとしよう。





 家のドアを開くと出迎えてくれたのはシェマとヒースだった。

 シェマの頭を前回と同じように撫でてやる。

 ヒースもいるってことは、晩御飯の準備は終わり手持ちぶさたなのだろう。


「おかえりなさいなのです!! えっと……初めまして、私はシェマなのです!!」

「そっちの人がお仲間さん? 2人いるって聞いてたけどどうしたの? あ、はじめまして。私はヒースだよ~」

「はじめまして、私はカーミラよ。それよりもアンタ、ヘンタイ? そんなか弱そうな少女に手をかけるなんて……」


 彼女から今までに無いほどの(さげす)んだ目を向けられて、思わず我を忘れて弁解する。それこそ相手の顔を見る事さえ差し置き、早口で。


「いやこれは違うんだ。俺はそんな趣味はないし度を超えた気持ちは持っていないつもりだ。そもそも相手の方も喜んでいるから悪いことではない──」


 そこで見たのは──笑い転げてしまうくらいまで我慢した、彼女の噴き出しそうな顔だった。


「……っぷ、あはは!! おっかしー!! なに本気にしてんのよ!! 冗談よ、冗談に決まってるじゃない。いつもの顔色を伺う特技はどうしたのよ?」


 まだ笑いの余韻を残しながら、涙を指でぬぐい問いかけてくる。

 しかしそんなことは俺も聞きたいくらいで、ひとまずいつも通りを意識して返事をした。


「別にいいだろ。それよりも晩御飯はできてるのか?」

「うん、出来てるよ。あ、もし食べるならスグロくん呼んできてね」

「分かった。もう1人スグロと手合わせしてる仲間がいるんだが、その分も用意しておいてくれ。家にいる子たちはシェマ、頼んだぞ」

「分かったのです。呼んでくるのです!!」


 シェマがパタパタと走っていくのを皮切りに、ヒースはカーミラを連れていった。俺もユウキたちを連れ戻し、その後はここにいる全員で晩御飯を食べた。


 食事中の談笑ついでに疑似人格たちの事も話したら「へぇ、そうなの」で終わってしまった。

 自律して動くスキルは知らないようが、似たような物があるらしい。

 それと、俺がしでかした事なら納得できるとも言われた。





「今日はもう帰らせてもらうわね、楽しかったわ。シェマちゃん、皆もまた遊ぼうね!」

「はいなのです!!」

「「「あい!!」」」


 結局、晩御飯の後は各々(おのおの)自由に行動した。

 カーミラはシェマとゲンら獣人3人組とカルタや双六(すごろく)といった俺がこの世界(こっち)で再現したおもちゃで遊んでくれた。

 驚いたのは彼女が子供をあやすのが上手かった事だろうか。


 ユウキはスグロ、ジャッカ、プロブラン、ラブリアルの4人と訓練に行ってしまった。帰ってきたときには満足そうな顔をしていたので良しとする。


「また時間があればよらさせて貰いますわ。皆さん方もごきげんよう」

「アンタも楽しみに待ってなさい!!」

「ああ、そうしよう。いつでも来て良いからな」


 門まで2人を見送り、慣れた手つきで扉を閉める。

 突然やってくる静寂。

 やはり今まで騒がしくしていたからだろうか。この静けさが少し寂しいものに感じた。

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